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第18話
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「雑炊用のご飯も用意してあるから、たくさん食べてくれ」
「それは夜食で食べたい」
「――先生の望み通りに」
久しぶりに聞いた三田村のその言葉に、胸が詰まった。長嶺組と関わり、裏の世界に引きずり込まれた頃から、三田村はずっと和彦の側にいて、和彦の望みを叶えてくれた。そして今は、さらに身近にいてくれる。
鍋を囲んで他愛ない話をしていると、会話の自然な流れで、次はいつ、こうしてゆっくりできるだろうかという話題になる。
「二月半ばぐらいに、二日続けて休みが取れるとありがたいが……」
和彦の椀に、お手製のポン酢を注ぎ足しながら、ぽつりと三田村が洩らす。
「二月の半ばって、何かあるのか?」
和彦の問いかけに、軽く目を見開いたあと、三田村は照れたような笑みをこぼした。
「……先生は、見かけによらず世俗的なイベントには淡白だな。そんなイベントを意識しているヤクザというのも、恥ずかしい話なんだが」
三田村の口ぶりでやっと、二月の半ばにどんなイベントがあるのか思い出す。自分が淡白であることは認めるが、だからといって和彦は、世間の空気が読めないわけではないのだ。ただ二月は、和彦にとって大事――というわけではないが、意識するたびに微妙な気持ちになる日がある。
豆腐を箸で掬い上げながら、つい苦々しく唇を歪める。和彦の様子に気づいたのか、三田村が表情を曇らせた。
「先生……?」
我に返った和彦は、わざと意地の悪い表情で三田村に話しかける。
「まじめな若頭補佐が、どうしてバレンタインを意識するようになったのか、実に興味がある」
「俺は別にまじめじゃ――。組の若い奴らが話していたのを、たまたま聞いたんだ。そうじゃないなら、俺も思い出さなかった。……いや、違うな。先生と知り合う前なら、聞いたところで、気にも留めなかったし、俺には無縁だったはずだ」
「ふーん。まあ、そういうことにしておこう」
和彦の返事に、三田村は楽しげに顔を綻ばせる。今このタイミングが最適だと思ったわけではないが、知らない顔もできないので、和彦はさりげなく告げた。
「――……二月は、バレンタインだけじゃなく、ぼくの誕生日もあるんだ」
三田村の表情の変化は、見事なものだった。あっという間に表情が固まったかと思うと、次の瞬間には驚きに目が見開かれ、それが次第に困惑、動揺へと変わり、最終的に心底申し訳なさそうな表情に落ち着いた。
普段無表情な男が、これだけの表情を見せてくれたのだ。告げた甲斐はあったようだ。
しかし、一方の三田村は、箸を置いて頭を下げた。
「すまない、先生……。先生のことを調査したとき、当然、生年月日も把握していたのに、言われるまで忘れていた」
「気にしないでくれ。あんたがぼくのことを調べたとき、こんな関係になるなんて思いもしなかっただろ。それにぼくはいまだに、三田村将成という男がいつ生まれたか知らない。――知らなくても、つき合っていられる」
それに、と和彦は言葉を続ける。
「誕生日なんて関係なく、いつでもぼくを喜ばせてくれるだろ、あんたは」
目を丸くする三田村の見ている前で、和彦はまだ熱い豆腐を口に運んだ。
「んっ、あぁっ――」
堪えきれない声を上げて和彦は、シーツを握り締める。背に覆い被さっている三田村は、緩やかな律動を内奥深くで刻みながら、シーツを握る和彦の手を、大きな手で握り締めてくる。
背に、三田村の重みと熱さを感じながら、和彦は浅ましく腰を揺らす。そうするたびに、内奥で蠢く逞しい欲望の形をはっきりと感じ、官能を刺激されるのだ。
襞と粘膜を擦り上げられて、狂おしい快感を与えられる。だが和彦自身、三田村のものを襞と粘膜で舐め上げて、快感を与えている。背後から聞こえる三田村の激しい息遣いが、この行為が一方的なものではないと物語っていた。
三田村のもう片方の手が両足の間に差し込まれ、いつになく荒々しい手つきで和彦のものを扱く。先端から滴り出るもので濡れた欲望は、三田村の手の熱さにすら敏感に感じてしまい、そこに愛撫も加わって、和彦は低い呻き声を洩らしていた。
押し寄せてくる快感に息が詰まり、意識が飛んでいきそうだ。
「あっ、あっ、三田村っ……」
和彦の呼びかけに応えるように、内奥深くを一度だけ強く突き上げられる。さきほどから肉の悦びを堪能している場所は、はしたないほど収縮し、三田村のものをきつく締め付けていた。
三田村が動きを止める。握っていた和彦の手を放し、汗に濡れた背を優しく撫で始めた。その一方で、不意打ちのように乱暴に内奥を突き上げ、そのたびに和彦は甘い嗚咽を洩らしてしまう。三田村の優しさと激しさに、翻弄されていた。
「それは夜食で食べたい」
「――先生の望み通りに」
久しぶりに聞いた三田村のその言葉に、胸が詰まった。長嶺組と関わり、裏の世界に引きずり込まれた頃から、三田村はずっと和彦の側にいて、和彦の望みを叶えてくれた。そして今は、さらに身近にいてくれる。
鍋を囲んで他愛ない話をしていると、会話の自然な流れで、次はいつ、こうしてゆっくりできるだろうかという話題になる。
「二月半ばぐらいに、二日続けて休みが取れるとありがたいが……」
和彦の椀に、お手製のポン酢を注ぎ足しながら、ぽつりと三田村が洩らす。
「二月の半ばって、何かあるのか?」
和彦の問いかけに、軽く目を見開いたあと、三田村は照れたような笑みをこぼした。
「……先生は、見かけによらず世俗的なイベントには淡白だな。そんなイベントを意識しているヤクザというのも、恥ずかしい話なんだが」
三田村の口ぶりでやっと、二月の半ばにどんなイベントがあるのか思い出す。自分が淡白であることは認めるが、だからといって和彦は、世間の空気が読めないわけではないのだ。ただ二月は、和彦にとって大事――というわけではないが、意識するたびに微妙な気持ちになる日がある。
豆腐を箸で掬い上げながら、つい苦々しく唇を歪める。和彦の様子に気づいたのか、三田村が表情を曇らせた。
「先生……?」
我に返った和彦は、わざと意地の悪い表情で三田村に話しかける。
「まじめな若頭補佐が、どうしてバレンタインを意識するようになったのか、実に興味がある」
「俺は別にまじめじゃ――。組の若い奴らが話していたのを、たまたま聞いたんだ。そうじゃないなら、俺も思い出さなかった。……いや、違うな。先生と知り合う前なら、聞いたところで、気にも留めなかったし、俺には無縁だったはずだ」
「ふーん。まあ、そういうことにしておこう」
和彦の返事に、三田村は楽しげに顔を綻ばせる。今このタイミングが最適だと思ったわけではないが、知らない顔もできないので、和彦はさりげなく告げた。
「――……二月は、バレンタインだけじゃなく、ぼくの誕生日もあるんだ」
三田村の表情の変化は、見事なものだった。あっという間に表情が固まったかと思うと、次の瞬間には驚きに目が見開かれ、それが次第に困惑、動揺へと変わり、最終的に心底申し訳なさそうな表情に落ち着いた。
普段無表情な男が、これだけの表情を見せてくれたのだ。告げた甲斐はあったようだ。
しかし、一方の三田村は、箸を置いて頭を下げた。
「すまない、先生……。先生のことを調査したとき、当然、生年月日も把握していたのに、言われるまで忘れていた」
「気にしないでくれ。あんたがぼくのことを調べたとき、こんな関係になるなんて思いもしなかっただろ。それにぼくはいまだに、三田村将成という男がいつ生まれたか知らない。――知らなくても、つき合っていられる」
それに、と和彦は言葉を続ける。
「誕生日なんて関係なく、いつでもぼくを喜ばせてくれるだろ、あんたは」
目を丸くする三田村の見ている前で、和彦はまだ熱い豆腐を口に運んだ。
「んっ、あぁっ――」
堪えきれない声を上げて和彦は、シーツを握り締める。背に覆い被さっている三田村は、緩やかな律動を内奥深くで刻みながら、シーツを握る和彦の手を、大きな手で握り締めてくる。
背に、三田村の重みと熱さを感じながら、和彦は浅ましく腰を揺らす。そうするたびに、内奥で蠢く逞しい欲望の形をはっきりと感じ、官能を刺激されるのだ。
襞と粘膜を擦り上げられて、狂おしい快感を与えられる。だが和彦自身、三田村のものを襞と粘膜で舐め上げて、快感を与えている。背後から聞こえる三田村の激しい息遣いが、この行為が一方的なものではないと物語っていた。
三田村のもう片方の手が両足の間に差し込まれ、いつになく荒々しい手つきで和彦のものを扱く。先端から滴り出るもので濡れた欲望は、三田村の手の熱さにすら敏感に感じてしまい、そこに愛撫も加わって、和彦は低い呻き声を洩らしていた。
押し寄せてくる快感に息が詰まり、意識が飛んでいきそうだ。
「あっ、あっ、三田村っ……」
和彦の呼びかけに応えるように、内奥深くを一度だけ強く突き上げられる。さきほどから肉の悦びを堪能している場所は、はしたないほど収縮し、三田村のものをきつく締め付けていた。
三田村が動きを止める。握っていた和彦の手を放し、汗に濡れた背を優しく撫で始めた。その一方で、不意打ちのように乱暴に内奥を突き上げ、そのたびに和彦は甘い嗚咽を洩らしてしまう。三田村の優しさと激しさに、翻弄されていた。
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