血と束縛と

北川とも

文字の大きさ
上 下
363 / 1,268
第18話

(2)

しおりを挟む
「雑炊用のご飯も用意してあるから、たくさん食べてくれ」
「それは夜食で食べたい」
「――先生の望み通りに」
 久しぶりに聞いた三田村のその言葉に、胸が詰まった。長嶺組と関わり、裏の世界に引きずり込まれた頃から、三田村はずっと和彦の側にいて、和彦の望みを叶えてくれた。そして今は、さらに身近にいてくれる。
 鍋を囲んで他愛ない話をしていると、会話の自然な流れで、次はいつ、こうしてゆっくりできるだろうかという話題になる。
「二月半ばぐらいに、二日続けて休みが取れるとありがたいが……」
 和彦の椀に、お手製のポン酢を注ぎ足しながら、ぽつりと三田村が洩らす。
「二月の半ばって、何かあるのか?」
 和彦の問いかけに、軽く目を見開いたあと、三田村は照れたような笑みをこぼした。
「……先生は、見かけによらず世俗的なイベントには淡白だな。そんなイベントを意識しているヤクザというのも、恥ずかしい話なんだが」
 三田村の口ぶりでやっと、二月の半ばにどんなイベントがあるのか思い出す。自分が淡白であることは認めるが、だからといって和彦は、世間の空気が読めないわけではないのだ。ただ二月は、和彦にとって大事――というわけではないが、意識するたびに微妙な気持ちになる日がある。
 豆腐を箸で掬い上げながら、つい苦々しく唇を歪める。和彦の様子に気づいたのか、三田村が表情を曇らせた。
「先生……?」
 我に返った和彦は、わざと意地の悪い表情で三田村に話しかける。
「まじめな若頭補佐が、どうしてバレンタインを意識するようになったのか、実に興味がある」
「俺は別にまじめじゃ――。組の若い奴らが話していたのを、たまたま聞いたんだ。そうじゃないなら、俺も思い出さなかった。……いや、違うな。先生と知り合う前なら、聞いたところで、気にも留めなかったし、俺には無縁だったはずだ」
「ふーん。まあ、そういうことにしておこう」
 和彦の返事に、三田村は楽しげに顔を綻ばせる。今このタイミングが最適だと思ったわけではないが、知らない顔もできないので、和彦はさりげなく告げた。
「――……二月は、バレンタインだけじゃなく、ぼくの誕生日もあるんだ」
 三田村の表情の変化は、見事なものだった。あっという間に表情が固まったかと思うと、次の瞬間には驚きに目が見開かれ、それが次第に困惑、動揺へと変わり、最終的に心底申し訳なさそうな表情に落ち着いた。
 普段無表情な男が、これだけの表情を見せてくれたのだ。告げた甲斐はあったようだ。
 しかし、一方の三田村は、箸を置いて頭を下げた。
「すまない、先生……。先生のことを調査したとき、当然、生年月日も把握していたのに、言われるまで忘れていた」
「気にしないでくれ。あんたがぼくのことを調べたとき、こんな関係になるなんて思いもしなかっただろ。それにぼくはいまだに、三田村将成という男がいつ生まれたか知らない。――知らなくても、つき合っていられる」
 それに、と和彦は言葉を続ける。
「誕生日なんて関係なく、いつでもぼくを喜ばせてくれるだろ、あんたは」
 目を丸くする三田村の見ている前で、和彦はまだ熱い豆腐を口に運んだ。


「んっ、あぁっ――」
 堪えきれない声を上げて和彦は、シーツを握り締める。背に覆い被さっている三田村は、緩やかな律動を内奥深くで刻みながら、シーツを握る和彦の手を、大きな手で握り締めてくる。
 背に、三田村の重みと熱さを感じながら、和彦は浅ましく腰を揺らす。そうするたびに、内奥で蠢く逞しい欲望の形をはっきりと感じ、官能を刺激されるのだ。
 襞と粘膜を擦り上げられて、狂おしい快感を与えられる。だが和彦自身、三田村のものを襞と粘膜で舐め上げて、快感を与えている。背後から聞こえる三田村の激しい息遣いが、この行為が一方的なものではないと物語っていた。
 三田村のもう片方の手が両足の間に差し込まれ、いつになく荒々しい手つきで和彦のものを扱く。先端から滴り出るもので濡れた欲望は、三田村の手の熱さにすら敏感に感じてしまい、そこに愛撫も加わって、和彦は低い呻き声を洩らしていた。
 押し寄せてくる快感に息が詰まり、意識が飛んでいきそうだ。
「あっ、あっ、三田村っ……」
 和彦の呼びかけに応えるように、内奥深くを一度だけ強く突き上げられる。さきほどから肉の悦びを堪能している場所は、はしたないほど収縮し、三田村のものをきつく締め付けていた。
 三田村が動きを止める。握っていた和彦の手を放し、汗に濡れた背を優しく撫で始めた。その一方で、不意打ちのように乱暴に内奥を突き上げ、そのたびに和彦は甘い嗚咽を洩らしてしまう。三田村の優しさと激しさに、翻弄されていた。

しおりを挟む
感想 80

あなたにおすすめの小説

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

処理中です...