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第17話
(18)
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ここでエレベーターの扉が開き、二人は乗り込む。鷹津がボタンを押し、やけにゆっくりと扉が閉まった次の瞬間、鷹津に肩を引き寄せられ、あごを掴み上げられた。
噛みつくような激しさで唇を貪られ、反射的に鷹津の肩を押し退けようとした和彦だが、強い抵抗には至らない。余裕なく唇を吸われると、この男がどれほど自分を欲しがっているのか、言葉よりも雄弁に教えられるのだ。
じわりと胸の奥が熱くなり、疼きを発する。和彦がおずおずと舌を差し出して応え始めたとき、エレベーターが目的の階に着く。扉が開く音で急に我に返り、密かにうろたえる和彦を見て、鷹津は楽しげに目を細めた。
人気がないのをいいことに、肩を抱かれたまま部屋まで行く。
当然だが、主が不在だった室内は外と同じぐらい冷えきっており、すぐに寛げる状況ではない。しかし鷹津は頓着した様子もなく、脱いだブルゾンをイスの背もたれに引っ掛けると、有無を言わせず和彦の腕を掴んだ。
ベッドを置いた部屋へと連れ込まれ、コートの襟元に鷹津の手がかかる。
「コーヒーぐらい淹れてやろうとか、そういう気遣いはないのか」
感じる気恥ずかしさを誤魔化すように和彦が言うと、眼前で鷹津が澄ました顔で応じた。
「だから途中、コンビニに寄ってやろうかと言っただろ。あのとき、欲しいものを買っておけばよかったんだ」
「……あんたとは、気遣いという点で一生わかり合えないだろうな」
「だが、体ではわかり合えてる」
和彦は鷹津を睨みつけて身を捩ろうとしたが、あっさり腕の中に捉えられ、また唇を塞がれる。乱暴に脱がされたコートとジャケットが足元に落ち、このときになって、マフラーを鷹津の車に置いてきたことを思い出した。しかし、今の状況では些細なことだ。
ベッドに押し倒された和彦の上に、荒々しい獣のように鷹津がのしかかってくる。そして、唇を貪られた。
「んんっ……」
口腔に強引に舌が押し込まれ、蠢く。抵抗感と吐き気を覚えた和彦は、鷹津の肩を押し退けようとするが、それがかえって鷹津を――サソリを煽ったらしい。片腕でしっかりと頭を抱え込まれ、文字通り口腔を舌で犯される。
和彦は呻き声を洩らして抗議していたが、スラックスからワイシャツを引きずり出され、脇腹を熱い手で撫でられているうちに、抵抗は緩慢になる。とうとう鷹津と舌先を触れ合わせ、流し込まれる唾液を嚥下していた。
この瞬間から、二人の間に流れる空気は一変する。和彦は、獣に一方的に押さえつけられる獲物ではなくなるのだ。
鷹津と舌を絡め合い、こぼす吐息すら貪る。引き出された舌を軽く噛まれて、鼻にかかった声を洩らすと、誘い込まれるまま鷹津の口腔に舌を侵入させていた。痛いほどきつく舌を吸われて、背筋に疼きが駆け抜ける。
「お前は本当に、性質が悪い」
長い口づけを交わし、ようやく唇を離したところで、鷹津が忌々しげな口調で言う。和彦は大きく息を吸い込むと、手の甲で唇を拭う。
「蛇蝎の片割れにそんなふうに言われると、けっこう傷つく……」
「ふん、お前がそんなタマか。――嫌がる素振りを見せるくせに、あっという間に、男を受け入れる。それこそ、嫌われ者の蛇蝎の片割れでも」
「別に……、受け入れたつもりはない」
ぼそぼそと呟いて和彦が顔を背けると、鷹津は喉を鳴らして笑う。
「まあ、いい。俺は、ご褒美の餌をもらいたいだけだ。あのでかいヤクザには、ある意味、感謝しないとな」
話しながら鷹津の手にネクタイを抜き取られ、ワイシャツのボタンを外される。胸元が露になったとき、思わず和彦は身震いしていた。
「……寒い」
そう洩らすと、世話が焼けるとでも言いたげに、鷹津は露骨に大きなため息をついてベッドを降り、和彦が見ている前でエアコンを入れた。
「餌をもらう前に、機嫌を損ねられたくないからな」
当てつけがましく呟いた鷹津が、黒のハイネックセーターを一気に脱ぎ捨て、ジーンズの前を寛げ始める。すぐに和彦の元に戻ってきて、のしかかってきた。
重なってきた熱い体に、思わず吐息を洩らす。
「どうせすぐに汗をかくのに、わざわざ部屋を温めなくてもいいと思わないか?」
下肢を剥きながらかけられた言葉に、和彦は鷹津を軽く睨みつける。
「頑丈な刑事の体と一緒にするな」
「まあ、違うだろうな。なんと言ってもお前は、ヤクザどもに大事に大事にされている、オンナなんだから」
和彦が身につけていたものはすべて、雑な手つきでベッドの下に落とされる。鷹津は、慰撫するように和彦の体を撫で回してくる。鳥肌が立ちそうな不快な感覚は、部屋が暖まるのに比例するように、ゆっくりと溶けていく。同時に鷹津の手が熱くなっていくのもわかった。
噛みつくような激しさで唇を貪られ、反射的に鷹津の肩を押し退けようとした和彦だが、強い抵抗には至らない。余裕なく唇を吸われると、この男がどれほど自分を欲しがっているのか、言葉よりも雄弁に教えられるのだ。
じわりと胸の奥が熱くなり、疼きを発する。和彦がおずおずと舌を差し出して応え始めたとき、エレベーターが目的の階に着く。扉が開く音で急に我に返り、密かにうろたえる和彦を見て、鷹津は楽しげに目を細めた。
人気がないのをいいことに、肩を抱かれたまま部屋まで行く。
当然だが、主が不在だった室内は外と同じぐらい冷えきっており、すぐに寛げる状況ではない。しかし鷹津は頓着した様子もなく、脱いだブルゾンをイスの背もたれに引っ掛けると、有無を言わせず和彦の腕を掴んだ。
ベッドを置いた部屋へと連れ込まれ、コートの襟元に鷹津の手がかかる。
「コーヒーぐらい淹れてやろうとか、そういう気遣いはないのか」
感じる気恥ずかしさを誤魔化すように和彦が言うと、眼前で鷹津が澄ました顔で応じた。
「だから途中、コンビニに寄ってやろうかと言っただろ。あのとき、欲しいものを買っておけばよかったんだ」
「……あんたとは、気遣いという点で一生わかり合えないだろうな」
「だが、体ではわかり合えてる」
和彦は鷹津を睨みつけて身を捩ろうとしたが、あっさり腕の中に捉えられ、また唇を塞がれる。乱暴に脱がされたコートとジャケットが足元に落ち、このときになって、マフラーを鷹津の車に置いてきたことを思い出した。しかし、今の状況では些細なことだ。
ベッドに押し倒された和彦の上に、荒々しい獣のように鷹津がのしかかってくる。そして、唇を貪られた。
「んんっ……」
口腔に強引に舌が押し込まれ、蠢く。抵抗感と吐き気を覚えた和彦は、鷹津の肩を押し退けようとするが、それがかえって鷹津を――サソリを煽ったらしい。片腕でしっかりと頭を抱え込まれ、文字通り口腔を舌で犯される。
和彦は呻き声を洩らして抗議していたが、スラックスからワイシャツを引きずり出され、脇腹を熱い手で撫でられているうちに、抵抗は緩慢になる。とうとう鷹津と舌先を触れ合わせ、流し込まれる唾液を嚥下していた。
この瞬間から、二人の間に流れる空気は一変する。和彦は、獣に一方的に押さえつけられる獲物ではなくなるのだ。
鷹津と舌を絡め合い、こぼす吐息すら貪る。引き出された舌を軽く噛まれて、鼻にかかった声を洩らすと、誘い込まれるまま鷹津の口腔に舌を侵入させていた。痛いほどきつく舌を吸われて、背筋に疼きが駆け抜ける。
「お前は本当に、性質が悪い」
長い口づけを交わし、ようやく唇を離したところで、鷹津が忌々しげな口調で言う。和彦は大きく息を吸い込むと、手の甲で唇を拭う。
「蛇蝎の片割れにそんなふうに言われると、けっこう傷つく……」
「ふん、お前がそんなタマか。――嫌がる素振りを見せるくせに、あっという間に、男を受け入れる。それこそ、嫌われ者の蛇蝎の片割れでも」
「別に……、受け入れたつもりはない」
ぼそぼそと呟いて和彦が顔を背けると、鷹津は喉を鳴らして笑う。
「まあ、いい。俺は、ご褒美の餌をもらいたいだけだ。あのでかいヤクザには、ある意味、感謝しないとな」
話しながら鷹津の手にネクタイを抜き取られ、ワイシャツのボタンを外される。胸元が露になったとき、思わず和彦は身震いしていた。
「……寒い」
そう洩らすと、世話が焼けるとでも言いたげに、鷹津は露骨に大きなため息をついてベッドを降り、和彦が見ている前でエアコンを入れた。
「餌をもらう前に、機嫌を損ねられたくないからな」
当てつけがましく呟いた鷹津が、黒のハイネックセーターを一気に脱ぎ捨て、ジーンズの前を寛げ始める。すぐに和彦の元に戻ってきて、のしかかってきた。
重なってきた熱い体に、思わず吐息を洩らす。
「どうせすぐに汗をかくのに、わざわざ部屋を温めなくてもいいと思わないか?」
下肢を剥きながらかけられた言葉に、和彦は鷹津を軽く睨みつける。
「頑丈な刑事の体と一緒にするな」
「まあ、違うだろうな。なんと言ってもお前は、ヤクザどもに大事に大事にされている、オンナなんだから」
和彦が身につけていたものはすべて、雑な手つきでベッドの下に落とされる。鷹津は、慰撫するように和彦の体を撫で回してくる。鳥肌が立ちそうな不快な感覚は、部屋が暖まるのに比例するように、ゆっくりと溶けていく。同時に鷹津の手が熱くなっていくのもわかった。
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