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第17話
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「性悪でもなんでもいい。お前は、俺のオンナだからな」
大蛇が巨体をしならせる。そんな光景が脳裏に浮かび上がるような動きで、賢吾がベッドの上に乗り上がってくる。和彦の片足を無造作に抱え上げて、蕩けた内奥に二本の指を挿入してきた。
「ううっ」
三田村の欲望で擦り上げられた和彦の内奥は、ひどく感じやすくなっている。それがわかったうえで賢吾は、襞と粘膜をまさぐってくる。
「――たっぷり三田村に愛してもらったようだな。あいつはいつも、俺の命令以上の働きをしてくれる」
和彦がきつい眼差しを向けると、悪びれた様子もなく賢吾は口元に笑みを湛える。
「三田村は、俺の命令でもない限り、このベッドの上で先生を抱いたりしないだろ」
ああ、と思った。この部屋は賢吾のテリトリーだ。その賢吾に仕え、忠誠を誓っている三田村は自らの意思で、そのテリトリーの中で和彦を抱くことはない。そこには、三田村なりの複雑な気持ちがあるのだと思う。賢吾に対する遠慮や、男としてのプライドといったものだ。
それを曲げて、このベッドで和彦を抱いたということは、賢吾の言う通りなのだろう。
賢吾が、和彦との交わりにおいて、屈辱的な形で三田村を加わらせたことはこれまでもあったが、こんなことを告げられるとやはりショックは受ける。複数の男と関係を持っている和彦なりに、繊細な部分は持っているつもりだ。
内奥から指を引き抜いた賢吾が、和彦の顔を覗き込んでくる。表情を見られたくなくて横を向こうとしたが、容赦なくあごを掴まれて止められた。
「……そんな顔をするな、先生。あんまり先生と三田村の仲がいいから、ちょっと意地悪を言ってみただけだ」
「意地悪?」
「俺は三田村に、先生の様子を見て、側についていてやるよう言っただけだ。――このベッドで先生を抱いたのは、あいつなりに思うことがあったからだろうな」
戸惑った和彦は何も言えず、視線をさまよわせる。そんな和彦の頬を、賢吾が優しい手つきで撫でてきた。
「あいつも、厄介なものに惚れちまったもんだ。色男のくせして、男に対して滅多にないほど淫奔で、そのくせ、どれだけの男に注いでも尽きないぐらいの愛情を抱え持っている、本当に厄介な生き物だ……」
和彦は賢吾の手を押し退けると、慎重に体を起こす。大蛇を潜ませた賢吾の目をまっすぐ見据えて言った。
「言っておくが、あんたに目をつけられるまで、ぼくはそれなりに慎み深く生きてきたんだ。しかも、平穏に」
「いーや、先生ならそのうち絶対、男絡みで刃傷沙汰を起こされていたな。よかったな。そうなる前に、ヤクザに保護されて」
ニヤニヤと笑う賢吾の顔が本当に憎たらしい。バスローブを羽織った和彦はベッドから下りようとしたが、腰に賢吾の腕が回されて引きとめられた。
「……まだ何かあるのか」
「ゾクゾクするほど興奮したぞ。先生と中嶋が絡み合う声は」
ドキリとした和彦は、ぎこちなく賢吾を見る。すでにもう賢吾は笑っておらず、表情らしい表情は浮かべていない。しかし両目にちらつくのは、欲望の種火だ。明らかに賢吾は興奮していた。その目で見つめられると、息が止まりそうになる。
「男でも雄でもない、〈オンナ〉同士の絡む声だ。あれは、録音する価値があった。映像に残せなかったのは残念だが――」
息もかかるほど間近に賢吾の顔が寄せられた。
「機会があれば、目の前で見てみたいものだな」
一瞬にして、賢吾が本気で言っていると察した和彦は、顔を熱くする。こんなときに限って、上手い切り返しが思いつかない。
「嫌……だ」
「嫌か?」
賢吾の声が柔らかな笑いを含む。和彦は逃げるように寝室を出ようとしたが、ふとあることが気になって振り返る。どうした、と言いたげに賢吾が首を傾げ、なんでもないと和彦は首を横に振る。
大したことではないのだ。ただ、さきほどの賢吾の話で、和彦と関係を持つ男たちが金では買えないものを差し出していると言っていたが、肝心の賢吾は何を――と思ったのだ。
少しだけ期待を込めて。
和彦が睨みつけると、華やかな美貌の男は大仰に目を丸くしたあと、柔らかな苦笑を浮かべた。和彦が何に対して怒っているか、すぐに察したようだ。
いや、察したというより、和彦の反応をあらかじめ予測していたのだろう。
「機嫌が悪いようですね、先生」
頼んでいたカフェオレがテーブルに運ばれてくるのを待ってから、秦が口を開く。和彦はカップに手をかけつつ、秦に向ける眼差しをますます険しくする。本気で怒っている、ということを示すためだが、ヤクザ相手にさんざん恫喝された経験を積んでいるであろう男には、まったく通じていない。
大蛇が巨体をしならせる。そんな光景が脳裏に浮かび上がるような動きで、賢吾がベッドの上に乗り上がってくる。和彦の片足を無造作に抱え上げて、蕩けた内奥に二本の指を挿入してきた。
「ううっ」
三田村の欲望で擦り上げられた和彦の内奥は、ひどく感じやすくなっている。それがわかったうえで賢吾は、襞と粘膜をまさぐってくる。
「――たっぷり三田村に愛してもらったようだな。あいつはいつも、俺の命令以上の働きをしてくれる」
和彦がきつい眼差しを向けると、悪びれた様子もなく賢吾は口元に笑みを湛える。
「三田村は、俺の命令でもない限り、このベッドの上で先生を抱いたりしないだろ」
ああ、と思った。この部屋は賢吾のテリトリーだ。その賢吾に仕え、忠誠を誓っている三田村は自らの意思で、そのテリトリーの中で和彦を抱くことはない。そこには、三田村なりの複雑な気持ちがあるのだと思う。賢吾に対する遠慮や、男としてのプライドといったものだ。
それを曲げて、このベッドで和彦を抱いたということは、賢吾の言う通りなのだろう。
賢吾が、和彦との交わりにおいて、屈辱的な形で三田村を加わらせたことはこれまでもあったが、こんなことを告げられるとやはりショックは受ける。複数の男と関係を持っている和彦なりに、繊細な部分は持っているつもりだ。
内奥から指を引き抜いた賢吾が、和彦の顔を覗き込んでくる。表情を見られたくなくて横を向こうとしたが、容赦なくあごを掴まれて止められた。
「……そんな顔をするな、先生。あんまり先生と三田村の仲がいいから、ちょっと意地悪を言ってみただけだ」
「意地悪?」
「俺は三田村に、先生の様子を見て、側についていてやるよう言っただけだ。――このベッドで先生を抱いたのは、あいつなりに思うことがあったからだろうな」
戸惑った和彦は何も言えず、視線をさまよわせる。そんな和彦の頬を、賢吾が優しい手つきで撫でてきた。
「あいつも、厄介なものに惚れちまったもんだ。色男のくせして、男に対して滅多にないほど淫奔で、そのくせ、どれだけの男に注いでも尽きないぐらいの愛情を抱え持っている、本当に厄介な生き物だ……」
和彦は賢吾の手を押し退けると、慎重に体を起こす。大蛇を潜ませた賢吾の目をまっすぐ見据えて言った。
「言っておくが、あんたに目をつけられるまで、ぼくはそれなりに慎み深く生きてきたんだ。しかも、平穏に」
「いーや、先生ならそのうち絶対、男絡みで刃傷沙汰を起こされていたな。よかったな。そうなる前に、ヤクザに保護されて」
ニヤニヤと笑う賢吾の顔が本当に憎たらしい。バスローブを羽織った和彦はベッドから下りようとしたが、腰に賢吾の腕が回されて引きとめられた。
「……まだ何かあるのか」
「ゾクゾクするほど興奮したぞ。先生と中嶋が絡み合う声は」
ドキリとした和彦は、ぎこちなく賢吾を見る。すでにもう賢吾は笑っておらず、表情らしい表情は浮かべていない。しかし両目にちらつくのは、欲望の種火だ。明らかに賢吾は興奮していた。その目で見つめられると、息が止まりそうになる。
「男でも雄でもない、〈オンナ〉同士の絡む声だ。あれは、録音する価値があった。映像に残せなかったのは残念だが――」
息もかかるほど間近に賢吾の顔が寄せられた。
「機会があれば、目の前で見てみたいものだな」
一瞬にして、賢吾が本気で言っていると察した和彦は、顔を熱くする。こんなときに限って、上手い切り返しが思いつかない。
「嫌……だ」
「嫌か?」
賢吾の声が柔らかな笑いを含む。和彦は逃げるように寝室を出ようとしたが、ふとあることが気になって振り返る。どうした、と言いたげに賢吾が首を傾げ、なんでもないと和彦は首を横に振る。
大したことではないのだ。ただ、さきほどの賢吾の話で、和彦と関係を持つ男たちが金では買えないものを差し出していると言っていたが、肝心の賢吾は何を――と思ったのだ。
少しだけ期待を込めて。
和彦が睨みつけると、華やかな美貌の男は大仰に目を丸くしたあと、柔らかな苦笑を浮かべた。和彦が何に対して怒っているか、すぐに察したようだ。
いや、察したというより、和彦の反応をあらかじめ予測していたのだろう。
「機嫌が悪いようですね、先生」
頼んでいたカフェオレがテーブルに運ばれてくるのを待ってから、秦が口を開く。和彦はカップに手をかけつつ、秦に向ける眼差しをますます険しくする。本気で怒っている、ということを示すためだが、ヤクザ相手にさんざん恫喝された経験を積んでいるであろう男には、まったく通じていない。
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