血と束縛と

北川とも

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第16話

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 中嶋の内奥の入り口を濡れた指先でまさぐり始めると、中嶋が腰を揺らす。二人の欲望が擦れ合い、もどかしい刺激を生み出した。
 次第に二人の息遣いが妖しさを帯びる。今度は和彦が中嶋にのしかかり、狭い内奥にゆっくりと慎重に指を挿入する。何度となく、何人もの男を受け止めてきた和彦だが、反対の立場となるのは初めてだった。
 控えめに、戸惑ったように反応する中嶋の姿に、つい見入ってしまう。自分も普段は、こんなふうに見られているのかと思うと新鮮だ。
 きつく収縮する中嶋の内奥から、指を出し入れする。唾液で湿った熱い粘膜と襞が指にまとわりつき、吸い付く。指を付け根まで挿入してまさぐれば、うねるように内奥が蠢いた。
「はっ……、あっ、あっ、変な、感じだ」
 天井を見上げたまま、中嶋は困惑した様子で声を上げる。和彦は口元に笑みを刻むと、ゆっくりと指を動かしながら言った。
「ぼくは、いまだにそう感じる。変な……、落ち着かない感じだと」
「先生でも?」
「この落ち着かない感じが――よくなる。自分の無防備な部分を晒してまで、男を受け入れていることが、快感に思えてくる」
 内奥を掻き回すように指を動かすと、間欠的に上がる中嶋の声が、甘さを帯びる。次第にこの状況に、体と心が順応し始めたのかもしれない。
 小さく喘ぐ中嶋に呼ばれ、和彦は唇を重ねる。差し出した舌を絡め合っていると、今度は中嶋に尻を揉まれ、内奥の入り口を指の腹で擦り上げられた。
 慎重に、中嶋の指が和彦の中に侵入してくる。ゆっくりと息を吐き出し、下肢から力を抜くと、付け根まで収まった指が動き始める。
「うっ……」
 思わず和彦が腰を揺らすと、中嶋は感嘆したように言った。
「中、熱いですね。俺の指をグイグイ締め付けてくる。そのくせ、柔らかい。……何人もの男を咥え込んでいる場所、ですね」
「君も、同じだ。ぼくの指をよく締め付けて、ひくついていた」
 中嶋は薄く笑うと、内奥から指を出し入れし始める。
 二人は、初めての行為に没頭し、初めて味わう感触に夢中になっていた。
 自分が抱かれる側だと意識しなくていいせいか、和彦は、自分が男であり、オンナであることの狭間で、不思議な性的興奮を覚えて、乱れる。一方の中嶋も、無防備に和彦の愛撫に身を任せているかと思ったら、突然興奮に襲われたように、今度は和彦の体に愛撫を加えてくる。そんな中嶋の反応に和彦は煽られ――。
 中嶋の胸の突起をきつく吸い上げながら、すっかり熱くなった欲望を丁寧に扱いてやる。
「あうっ、あっ、い、いぃ――……」
 身をくねらせたあと、中嶋が仰け反る。和彦は中嶋の片足を抱え上げ、指の数を増やして内奥に挿入する。熱く湿った場所がねっとりと包み込むように指を受け入れたあと、一気に締まった。
「感じ始めたな。……そのうち、中で動くものに合わせて、力を抜いたり入れたりできるようになる。感じたくて、体が勝手に反応するんだ」
「医者の先生が言うと、説得力がありますね」
「今のぼくは、ヤクザのオンナだ」
「だったらなおさら、説得力が増す」
 思わず笑みをこぼした和彦は、中嶋に背を引き寄せられ、ベッドに片手をつく。頭を上げた中嶋が、和彦の胸の突起に吸い付き、濡れた音を立てて愛撫してくる。今度は、和彦が声を上げた。
「あっ……、あっ、んんっ」
 そのまま体の位置が入れ替えられ、和彦の内奥に中嶋の指が挿入された。
「――先生が相手だと、俺はなんにでもなれる気がします。男、女、獣、先生のようなオンナにも。先生の存在はしなやかですから、どんな俺でも受け止めてくれますよね? ヤクザは、オンナのままじゃ生きていけないんです。誰かのオンナになったら、どこかで、男や獣の自分を取り戻さないといけない」
 内奥の感触を確認するように慎重にまさぐり、襞と粘膜を指の腹で擦られる。
 両足を開かれ、中嶋が腰を割り込ませてくる。高ぶった欲望同士を擦りつけながら、二人はしっかりと両手を握り合った。
 もどかしい快感に息を弾ませて、唇を吸い合い、緩やかに舌を絡める。
「先生、犯していいですか?」
 口づけの合間に、荒い息の下、中嶋がそう囁いてくる。和彦はすかさず囁き返した。
「君が秦に犯されたあとなら……」
 中嶋は目を丸くしたあと、笑った。普通の青年の顔をしながら、眼差しは〈女〉のものとなっている。秦に抱かれる自分の姿を想像して、欲情しているのかもしれない。
「先生を犯すのもいいけど、先生に犯されるのも、興奮しそうですね」
「……君の物言いは、やっぱり秦に似ている」
「これは、秦さんの影響じゃないですよ。俺の、先生に対する欲情は、俺だけのものです」
 握り合っていた手を離した和彦は、中嶋の頬を撫でる。
「慌てなくていいだろ。今だって十分に、セクシャルな関係だ。それに――気持ちいい」
 和彦は中嶋をベッドに押し付けると、高ぶった欲望をてのひらに包み込んで上下に扱く。濡れた先端を指の腹で擦ってやると、喉を反らしながら中嶋は洩らした。
「ええ、気持ちいいです……」
 和彦は、乱れた中嶋の髪を掻き上げてやってから、腕を掴まれて引っ張られるまま、ベッドに横になる。中嶋と唇を吸い合い、互いの熱くなった欲望を刺激する。
 艶かしく絡み合い、肌を擦りつけ合って生まれる心地よさと快感を、二人は貪り合っていた。当然のように遠慮やためらいの気持ちはあるが、それは〈気遣い〉という言葉に置き換えられる。
 男を知らない中嶋に、男の肌と欲望の感触を教えているのだ。気遣って当然で、繊細な行為の合間から、悦びを掬い上げてくれたなら、この行為に意味が生まれる。
 もっとも、心配するまでもないようだが――。
 和彦は片手を取られ、中嶋と向き合う格好となりながら、再び欲望をてのひらに包み込む。一方の中嶋も、和彦のものに触れてきた。
 和彦が唇を吸ってやると、吐息を洩らして中嶋が呟く。
「……先生とこうすることに慣れて、秦さんを受け入れられなくなったら、それはそれで問題ですね」
「そんなことになったら、ぼくは秦に恨まれるな」
 小さく笑い声を洩らした中嶋の髪を、何度も撫でてやる。中嶋は、甘えるように和彦の胸に顔をすり寄せてきた。
「いざとなったら、先生が俺の保護者として、手を握って付き添ってください」
「笑えない冗談だ」
「ヤクザに、本気と冗談の区別なんてありませんよ」
 顔を上げた中嶋の目は、欲情とそれ以外の〈何か〉によって、妖しい光を湛えていた。
「だからヤクザは厄介なんです。表面上は笑いながら相手を油断させて、嫌と言えない状況に持ち込む。たとえば今の、俺と先生です」
 中嶋が上体を起こし、和彦の両足の間にぐっと腰を割り込ませてくる。寸前まで和彦が愛撫していた中嶋の欲望が、内奥の入り口に擦りつけられた。さすがに和彦は目を見開き、抵抗も忘れて中嶋を見上げる。
「中嶋くん……」
「――先生、いいですよね?」
 真剣な顔で中嶋に言われる。冗談を言っている雰囲気ではなかった。
 和彦は数十秒ほどの間を置いて、中嶋の頭を抱き寄せた。

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