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第16話
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「――俺は先生と知り合ってから、嫌になるほどリアルに、男と寝るってことがどんなものなのか、想像してきましたよ。先生という、いい見本があるんです。先生みたいな色男が、長嶺組長や他の男にどんなふうに抱かれているのか、と。そして俺は、艶かしい気分になるんです。……先生のように男に抱かれたくて、他の男のように先生を抱いてみたくて」
中嶋の唇が耳に押し当てられ、熱い吐息を注ぎ込まれる。身震いしたくなるような強烈な疼きが、和彦の背筋を駆け抜けた。同時に、倒錯した欲情を抱えていたのは自分だけではないのだと、安堵とも歓喜ともつかない感情に胸をくすぐられる。
「俺は、秦さん相手に確かに肉欲はありますが、どうしたらいいのか、よくわからないんです。秦さんに抱かれたら、俺は俺じゃなくなって、ヤクザですらなくなってしまうんじゃないかと、怖くなる。今の先生の話を聞いて、なおさら怖くなりましたよ。俺の知っている秦さんは、あくまで紳士ですから」
中嶋の告白に、和彦はゆっくりと振り返る。興奮しているのか、中嶋の目は熱っぽさを帯び、強い光を放っていた。まるで、獲物を前にして舌なめずりをしているような――。
「先生、俺に教えてください」
「……何、を……」
「〈オンナ〉の悦びを。――俺と先生の関係は、単なる友人同士じゃ物足りない。きっと、もっとセクシャルな関係のほうが、しっくりきますよ」
「ジム仲間じゃ、ダメなのか?」
「俺は独占欲が強いんです。秦さんが、保身や欲望のために先生を必要だとしているんなら、俺も、先生が欲しい。そうすれば、秦さんとより強く結びつける。謎の多いあの人を知るために、先生は欠かせない」
普通の青年に見えても中嶋は、中身はやはりヤクザなのだ。秦のことだけではなく、総和会内での出世のためにも、和彦は利用できる貴重な存在だ。そこに欲情も絡んで、中嶋にとって和彦は、さぞかし使い勝手がよく見えるだろう。
中嶋と向き合った和彦は、表情を険しくして見据える。
「自分のことばかり言っているが、ぼくにメリットはあるのか? 秦は、長嶺組に飼われているようなもので、いまさらぼく個人が秦と結びつく必要はない。君とは、今の友人関係で満足して――」
「総和会の中で、先生のために働く手駒を手に入れる、というのは、どうですか?」
ヤクザなんて食えない男たちばかりだと思っていたが、自分も立派にその一員だ。半ば自嘲気味にそう思った和彦だが、このしたたかさは賢吾によって磨かれたものだと感じ、感慨深さも覚える。
賢吾はきっと、中嶋と関係を持つことを許してくれると、確信があった。あの男は、和彦の淫奔さとしたたかさを愛でている。
「――それで手を打とう」
和彦が答えると、まるで契約を交わすように中嶋がそっと唇を重ねてきた。
ジムでシャワーを浴びるたびに、中嶋の体は見ていた。細身だがしなやかな筋肉に覆われて、いかにも機能的に鍛えており、鑑賞物としても文句のつけようのないきれいな体をしている。かつての商売道具ですからね、と澄ました顔で中嶋は言っていたが、まさか、その体に触れることになるとは、想像もしていなかった。
どちらがリードしていいのかわからないまま、とりあえず和彦と中嶋は、何も身につけていない姿で抱き合いながら、ベッドの上を転がる。
なんとなく、千尋とじゃれ合っているようだなと思った和彦は、いつも千尋にそうしているように、頭を撫でる。すると、顔を覗き込んできた中嶋にベッドに押さえつけられ、唇を塞がれた。
のしかかってくる体を受け止めながら、刺青のない背にてのひらを這わせる。ふっと一瞬の違和感が和彦を襲った。
快感に身を捩り、悦びの声を上げる中嶋を、秦が見下ろしている光景が脳裏に浮かんだところで、違和感の正体がわかった。
和彦は、背から腰にかけて何度もてのひらを這わせたあと、中嶋の尻に触れる。ピクリと身を震わせた中嶋が、ああ、と声を洩らした。
「……そうでした。俺は、〈オンナ〉になるんだ」
「別に、そんなことは意識しなくていい。ぼくだって、ヤクザなんかと関わる前までは、男と寝ることに、理屈や役割なんて求めてなかったし、考えてもなかった。大事なのは、相手が快感を与えてくれるか、自分が与えてやれるか、それだけだ」
和彦は自分の指を舐めて唾液で濡らすと、中嶋の秘裂の間にそっと這わせた。
「くっ……」
声を洩らした中嶋が背をしならせ、わずかに不安そうな表情を見せたので、和彦は片手で中嶋の頭を引き寄せて、優しく唇を啄んでやる。
「さっき殴られた分、仕返しはするからな」
和彦の冗談交じりの囁きに、中嶋はやっと笑みを見せる。
「怖いな、先生……」
中嶋の唇が耳に押し当てられ、熱い吐息を注ぎ込まれる。身震いしたくなるような強烈な疼きが、和彦の背筋を駆け抜けた。同時に、倒錯した欲情を抱えていたのは自分だけではないのだと、安堵とも歓喜ともつかない感情に胸をくすぐられる。
「俺は、秦さん相手に確かに肉欲はありますが、どうしたらいいのか、よくわからないんです。秦さんに抱かれたら、俺は俺じゃなくなって、ヤクザですらなくなってしまうんじゃないかと、怖くなる。今の先生の話を聞いて、なおさら怖くなりましたよ。俺の知っている秦さんは、あくまで紳士ですから」
中嶋の告白に、和彦はゆっくりと振り返る。興奮しているのか、中嶋の目は熱っぽさを帯び、強い光を放っていた。まるで、獲物を前にして舌なめずりをしているような――。
「先生、俺に教えてください」
「……何、を……」
「〈オンナ〉の悦びを。――俺と先生の関係は、単なる友人同士じゃ物足りない。きっと、もっとセクシャルな関係のほうが、しっくりきますよ」
「ジム仲間じゃ、ダメなのか?」
「俺は独占欲が強いんです。秦さんが、保身や欲望のために先生を必要だとしているんなら、俺も、先生が欲しい。そうすれば、秦さんとより強く結びつける。謎の多いあの人を知るために、先生は欠かせない」
普通の青年に見えても中嶋は、中身はやはりヤクザなのだ。秦のことだけではなく、総和会内での出世のためにも、和彦は利用できる貴重な存在だ。そこに欲情も絡んで、中嶋にとって和彦は、さぞかし使い勝手がよく見えるだろう。
中嶋と向き合った和彦は、表情を険しくして見据える。
「自分のことばかり言っているが、ぼくにメリットはあるのか? 秦は、長嶺組に飼われているようなもので、いまさらぼく個人が秦と結びつく必要はない。君とは、今の友人関係で満足して――」
「総和会の中で、先生のために働く手駒を手に入れる、というのは、どうですか?」
ヤクザなんて食えない男たちばかりだと思っていたが、自分も立派にその一員だ。半ば自嘲気味にそう思った和彦だが、このしたたかさは賢吾によって磨かれたものだと感じ、感慨深さも覚える。
賢吾はきっと、中嶋と関係を持つことを許してくれると、確信があった。あの男は、和彦の淫奔さとしたたかさを愛でている。
「――それで手を打とう」
和彦が答えると、まるで契約を交わすように中嶋がそっと唇を重ねてきた。
ジムでシャワーを浴びるたびに、中嶋の体は見ていた。細身だがしなやかな筋肉に覆われて、いかにも機能的に鍛えており、鑑賞物としても文句のつけようのないきれいな体をしている。かつての商売道具ですからね、と澄ました顔で中嶋は言っていたが、まさか、その体に触れることになるとは、想像もしていなかった。
どちらがリードしていいのかわからないまま、とりあえず和彦と中嶋は、何も身につけていない姿で抱き合いながら、ベッドの上を転がる。
なんとなく、千尋とじゃれ合っているようだなと思った和彦は、いつも千尋にそうしているように、頭を撫でる。すると、顔を覗き込んできた中嶋にベッドに押さえつけられ、唇を塞がれた。
のしかかってくる体を受け止めながら、刺青のない背にてのひらを這わせる。ふっと一瞬の違和感が和彦を襲った。
快感に身を捩り、悦びの声を上げる中嶋を、秦が見下ろしている光景が脳裏に浮かんだところで、違和感の正体がわかった。
和彦は、背から腰にかけて何度もてのひらを這わせたあと、中嶋の尻に触れる。ピクリと身を震わせた中嶋が、ああ、と声を洩らした。
「……そうでした。俺は、〈オンナ〉になるんだ」
「別に、そんなことは意識しなくていい。ぼくだって、ヤクザなんかと関わる前までは、男と寝ることに、理屈や役割なんて求めてなかったし、考えてもなかった。大事なのは、相手が快感を与えてくれるか、自分が与えてやれるか、それだけだ」
和彦は自分の指を舐めて唾液で濡らすと、中嶋の秘裂の間にそっと這わせた。
「くっ……」
声を洩らした中嶋が背をしならせ、わずかに不安そうな表情を見せたので、和彦は片手で中嶋の頭を引き寄せて、優しく唇を啄んでやる。
「さっき殴られた分、仕返しはするからな」
和彦の冗談交じりの囁きに、中嶋はやっと笑みを見せる。
「怖いな、先生……」
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