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第16話
(25)
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「どう、答えてもらいたいんだ? 君の気が済むように答えてやる。……ぼくも、君のことは好きだからな」
激情に駆られたように中嶋に肩を掴まれ、力を込められる。和彦はイスに座ったまま、中嶋を見上げた。
「……秦が、好きなのか? 前に言ってただろ。秦の感触に興味はあると。それはつまり――」
「先生は、本当に甘い。この状況で言い出すことじゃないですよ。野心満々のヤクザと二人きりで、そのヤクザは、先生相手に手酷いことをしたくてウズウズしている。一方の先生は……平手で殴っただけでおとなしくなるような人だ」
「ぼくを殴って、キスするのか? だったらキスぐらい、いくらでもしてやる」
和彦は、あえて中嶋を挑発するような物言いをする。中嶋の感情を爆発させるためだ。
そして思惑通り、中嶋は理性をかなぐり捨てたような行動に出た。和彦の髪を鷲掴んだかと思うと、強引に唇を塞いできたのだ。
噛み付く勢いで唇を吸われ、口腔に舌がねじ込まれる。和彦はされるがままになっていたが、それが中嶋は気に食わないのか、唇を離して睨みつけられた。
「いままでみたいに、俺のキスに応えてくださいよ」
「君が、いままでみたいなキスをしてくれるなら」
中嶋がうろたえた素振りを見せる。和彦は両手で中嶋の頬を捉え、今度は自分から唇を重ねた。熱っぽく唇を吸い上げ、舌先でくすぐってやると、我に返ったように中嶋は軽く抵抗する素振りを見せたが、本気ではない。それどころか、和彦が唇を離そうとすると、中嶋に頭を抱え込まれ、一気に口づけが深くなる。
口腔に中嶋の舌を迎え入れ、甘やかすように吸ってやる。差し出した舌を絡め合い、唾液を交わし、互いの舌をきつく吸い合っていた。
二人は濡れた唇を啄み合いながら、乱れた息を整える。
「どうして、こんな……」
中嶋が小さく呟いたのをきっかけに、和彦は囁くように問いかけた。
「感じたか? これは、秦のキスのやり方だ」
「……どうして知っているんですか、と聞くのは野暮ですね。俺、先生とするキスが気持ちよくて好きだったんですよ。――なるほど。俺は、先生を通して、秦さんとキスしていたようなものだったんですね。あの人らしい悪ふざけというか、なんというか……」
苦々しい笑みを唇に浮かべた中嶋は、何度も髪を掻き上げながら、ダイニングを歩き回る。そうすることで、自分の頭と気持ちを整理しているのだろう。ときおり横顔に、強い苛立ちを滲ませている。
和彦は立ち上がり、中嶋に歩み寄ろうとする。すかさず釘を刺された。
「今、俺の近くにきたら、今度こそ拳で殴らせてもらいますよ」
「……言っただろ。こう見えても、殴られるのは慣れてるんだ」
「だったら、本当に犯しますよ。秦さんが原因で先生がそういう目に遭ったら――長嶺組が、俺だけじゃなく、秦さんを潰してくれるかもしれない」
「それはそれで、君と秦の心中みたいなものだな」
カッとしたように中嶋のほうから歩み寄ってきて、拳を振り上げる。ここで和彦は、淡々とした口調で告げた。
「――秦は、ぼくを利用したんだ。君が、男と寝るということを、リアルに感じるために。ぼくが秦と何かあるかもしれないと思ったら、いろいろと想像しただろ。どんなふうに秦に抱かれるのか、どんな声を上げるのか。秦の舌と唇の感触、貫いてくる性器の感触も。それこそ、獣みたいな行為だ。ただ、欲望をぶつけて、擦りつけ合う」
和彦の放つ言葉の生々しさに気圧されたように、中嶋はゆっくりと拳を下ろした。和彦は、そんな中嶋の拳を両手で握り締める。
「どうして秦さんは、そんなこと……」
「秦は、君を抱きたがっている。だけど君は、野心たっぷりに這い上がろうとしているヤクザだ。君が支えにしている矜持や価値観を、壊したくないと思っているんだろ。見た目とは違って、秦の中身は獣みたいだが、そんな男が君に対しては気遣いを示している。つまり……そういうことだろ」
本当は、ここまで説明する必要があるのだろうかと思わなくもないが、和彦を巻き込んだのは秦本人だ。好きにさせてもらう権利はあるはずだ。それに、和彦の性質ゆえなのか、秦と中嶋の関係に関わることで、性的な高ぶりを覚えてしまった。
秦を獣みたいだと言いながら、自分のほうがよほど、胸の内に手に負えない獣を飼っているようだと、わずかな恥じらいを覚えて和彦は手を引く。
「……何もなかったとは言わないが、ぼくと秦は深い仲じゃない。納得したなら、もう帰ったほうがいい」
そう告げて中嶋に背を向けた瞬間、背後から拘束されて動けなくなった。驚いた和彦が身を捩ろうとしたが、ますます強く体を縛められ、このときになってようやく、中嶋に抱き締められたのだとわかる。
「中嶋くん……」
激情に駆られたように中嶋に肩を掴まれ、力を込められる。和彦はイスに座ったまま、中嶋を見上げた。
「……秦が、好きなのか? 前に言ってただろ。秦の感触に興味はあると。それはつまり――」
「先生は、本当に甘い。この状況で言い出すことじゃないですよ。野心満々のヤクザと二人きりで、そのヤクザは、先生相手に手酷いことをしたくてウズウズしている。一方の先生は……平手で殴っただけでおとなしくなるような人だ」
「ぼくを殴って、キスするのか? だったらキスぐらい、いくらでもしてやる」
和彦は、あえて中嶋を挑発するような物言いをする。中嶋の感情を爆発させるためだ。
そして思惑通り、中嶋は理性をかなぐり捨てたような行動に出た。和彦の髪を鷲掴んだかと思うと、強引に唇を塞いできたのだ。
噛み付く勢いで唇を吸われ、口腔に舌がねじ込まれる。和彦はされるがままになっていたが、それが中嶋は気に食わないのか、唇を離して睨みつけられた。
「いままでみたいに、俺のキスに応えてくださいよ」
「君が、いままでみたいなキスをしてくれるなら」
中嶋がうろたえた素振りを見せる。和彦は両手で中嶋の頬を捉え、今度は自分から唇を重ねた。熱っぽく唇を吸い上げ、舌先でくすぐってやると、我に返ったように中嶋は軽く抵抗する素振りを見せたが、本気ではない。それどころか、和彦が唇を離そうとすると、中嶋に頭を抱え込まれ、一気に口づけが深くなる。
口腔に中嶋の舌を迎え入れ、甘やかすように吸ってやる。差し出した舌を絡め合い、唾液を交わし、互いの舌をきつく吸い合っていた。
二人は濡れた唇を啄み合いながら、乱れた息を整える。
「どうして、こんな……」
中嶋が小さく呟いたのをきっかけに、和彦は囁くように問いかけた。
「感じたか? これは、秦のキスのやり方だ」
「……どうして知っているんですか、と聞くのは野暮ですね。俺、先生とするキスが気持ちよくて好きだったんですよ。――なるほど。俺は、先生を通して、秦さんとキスしていたようなものだったんですね。あの人らしい悪ふざけというか、なんというか……」
苦々しい笑みを唇に浮かべた中嶋は、何度も髪を掻き上げながら、ダイニングを歩き回る。そうすることで、自分の頭と気持ちを整理しているのだろう。ときおり横顔に、強い苛立ちを滲ませている。
和彦は立ち上がり、中嶋に歩み寄ろうとする。すかさず釘を刺された。
「今、俺の近くにきたら、今度こそ拳で殴らせてもらいますよ」
「……言っただろ。こう見えても、殴られるのは慣れてるんだ」
「だったら、本当に犯しますよ。秦さんが原因で先生がそういう目に遭ったら――長嶺組が、俺だけじゃなく、秦さんを潰してくれるかもしれない」
「それはそれで、君と秦の心中みたいなものだな」
カッとしたように中嶋のほうから歩み寄ってきて、拳を振り上げる。ここで和彦は、淡々とした口調で告げた。
「――秦は、ぼくを利用したんだ。君が、男と寝るということを、リアルに感じるために。ぼくが秦と何かあるかもしれないと思ったら、いろいろと想像しただろ。どんなふうに秦に抱かれるのか、どんな声を上げるのか。秦の舌と唇の感触、貫いてくる性器の感触も。それこそ、獣みたいな行為だ。ただ、欲望をぶつけて、擦りつけ合う」
和彦の放つ言葉の生々しさに気圧されたように、中嶋はゆっくりと拳を下ろした。和彦は、そんな中嶋の拳を両手で握り締める。
「どうして秦さんは、そんなこと……」
「秦は、君を抱きたがっている。だけど君は、野心たっぷりに這い上がろうとしているヤクザだ。君が支えにしている矜持や価値観を、壊したくないと思っているんだろ。見た目とは違って、秦の中身は獣みたいだが、そんな男が君に対しては気遣いを示している。つまり……そういうことだろ」
本当は、ここまで説明する必要があるのだろうかと思わなくもないが、和彦を巻き込んだのは秦本人だ。好きにさせてもらう権利はあるはずだ。それに、和彦の性質ゆえなのか、秦と中嶋の関係に関わることで、性的な高ぶりを覚えてしまった。
秦を獣みたいだと言いながら、自分のほうがよほど、胸の内に手に負えない獣を飼っているようだと、わずかな恥じらいを覚えて和彦は手を引く。
「……何もなかったとは言わないが、ぼくと秦は深い仲じゃない。納得したなら、もう帰ったほうがいい」
そう告げて中嶋に背を向けた瞬間、背後から拘束されて動けなくなった。驚いた和彦が身を捩ろうとしたが、ますます強く体を縛められ、このときになってようやく、中嶋に抱き締められたのだとわかる。
「中嶋くん……」
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