血と束縛と

北川とも

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第15話

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 絶頂に達し、噴き上げた精で千尋の下腹部を濡らす。千尋にしがみつくと、しなやかだが力強い腕にしっかりと抱き締められた。
 しかし、情欲が冷めることを許さないように、内奥をゆっくりと突き上げられる。
「千尋っ……、少し待ってくれっ……」
 さすがに和彦が声を上げると、気圧されるほど強い輝きを放つ目で、千尋はこう言った。
「ダメ、待てない。――それに先生、与えれば与えるほど、欲しがってくれるだろ?」
 激しい羞恥に、それでなくても汗を滴らせている体がさらに熱くなる。こんな状況であっても、羞恥は湧いてくるものなのだ。
 さらにそこに、賢吾が追い討ちをかけてくる。
「先生」
 背後から賢吾に呼ばれて振り返ると、喘ぐ唇を軽く吸われてから、耳元で露骨な言葉を囁かれる。目を見開いた和彦は、緩く首を横に振る。
「……無理だ、できない。そんな、恥知らずなこと……」
「俺と千尋は、誰よりも淫弄な先生が、必死に恥じらいを保とうとする姿勢が、たまらなく好きなんだ。だが結局は、攻められて、陥落する。そういう姿を、俺たちに見せてくれ。ほんの少しだけ早い、お年玉だ」
 和彦の返事は最初から求められていなかった。いや、和彦なら拒まないと思われているのだ。事実――。
 傍らに立った賢吾に頭を引き寄せられ、和彦は、凶暴な欲望の塊を眼前に突きつけられる。屈辱と羞恥と、それを吹き飛ばしかねない嵐のような欲情に苛まれながら、和彦はゆっくりと唇を開く。賢吾の欲望を口腔に含むと、千尋が再び腰を動かし始めた。
 内奥を千尋に、口腔を賢吾の欲望に犯され、どうしようもなく――感じる。
 自分はこの父子に所有される〈オンナ〉なのだという事実が、いまさらながら体に刻みつけられていく。賢吾と千尋は、和彦を辱めようとしているわけではなく、事実のみで感じさせようとして、実際和彦は感じている。
「――いい顔だ、先生。まだ俺を、骨抜きにする気か」
 愉悦を含んだ声で言いながら賢吾にあごの下をくすぐられ、千尋には、痛いほど強く尻を揉まれる。
 二人の男の欲望の限界を感じ取り、和彦は目を閉じる。十秒も経たないうちに、二人の熱い精が和彦の中に流し込まれた。


 さきほどまで和彦を貪ってきた千尋は、今は身を休める時間だといわんばかりに和彦の胸にしがみつき、満足そうだ。和彦はそんな千尋の頭を撫でる。こうなると千尋は、人懐こい犬っころそのものだ。
「先生とこんなふうに年越しできるなんて、すっげー嬉しい」
 無邪気な口調で可愛いことを言う千尋だが、和彦は騙されない。なんとなく腹が立つものがあり、軽く髪を引っ張ってやったが、ふざけていると思ったのか、千尋は小さく笑い声を洩らすだけだ。
 三人での淫らで濃密すぎる行為のあと、和彦は千尋と一緒に再び風呂に入ってから、一人で部屋で休もうと思ったのだが、それは許されなかった。
 賢吾の部屋に連れ戻されて見たのは、二組の布団をぴったりとくっつけて敷いてある光景だった。
 和彦は今、並んだ布団の中央に寝ている。千尋が胸にしがみつき、そんな千尋の相手をする和彦に、賢吾は腕枕を提供してくれている。さきほどからずっと、背では賢吾の体温を感じていた。
 奇妙な光景であることは、誰よりも和彦自身が痛感しているが、言ってもどうにもならないこともまた、痛感していた。
「――先生」
 背後から賢吾に呼ばれ、上体を軽く捩るようにして振り返る。賢吾に見つめられながら、柔らかく唇を吸われた。そのまま互いの唇を吸い合い、舌先を触れ合わせていると、二人の姿に刺激されたのか、千尋まで顔を寄せてくる。
 好奇心の強い子犬のような眼差しに間近から見つめられ、負けてしまう。賢吾と唇を離すと、息を吸い込む間もなく、今度は千尋と口づけを堪能する。
 そんなことをしながらも、緩やかに静かに時間は過ぎていく。
 枕元の時計を見て、もうすぐ日付が変わると賢吾が告げたとき、すでに千尋は健康的な寝息を立てていた。
「羨ましいぐらいの寝つきのよさだな……」
 千尋の髪を梳いてやりながら和彦が呟くと、笑いながら賢吾が応じる。
「さすがに疲れたんだろう。何日も総和会の幹部連中とツラをつき合わせて、会長には振り回され、やっとこの家に戻ってきたら――先生相手に興奮しまくって」
「……最後は余計だ」
 ふいに賢吾に腕を掴まれて引っ張られる。何事かと思って見つめると、頷いて返される。それだけで意図を察した和彦は、数瞬ためらってから慎重に体を動かし、賢吾の布団に入る。
 背でも感じていたが、こうして同じ布団に入ると、賢吾の体温の高さがよくわかる。

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