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第15話
(23)
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呷るように飲み干した賢吾が、自然な動作で肩を抱いてきた。ビクリと体を強張らせた和彦だが、ぎこちなく賢吾にもたれかかる。
「ヤクザに囲まれて過ごす年末は、どうだ? 先生はどんなときでも、この家の中をふわふわと歩いているから、居心地がいいのか悪いのか、見ているだけじゃよくわからねーんだ」
「ぼくは……そんなふうに見られてるのか。なんだかショックだ」
「だったら、姐さんらしく、キリッとしていると言ってもらいたいか?」
「……その例えは笑えない」
和彦が応じると、代わりに賢吾が笑ってくれる。本当に、機嫌がいい。
じっと賢吾を見つめていると、視線に気づいたのか、流し目を寄越された。人によっては剣呑としたものを感じるかもしれないが、和彦が感じたのは、身震いしたくなるような体の疼きだ。
「どうした、先生」
「どうも、しない……。ただ、あんたが少し浮かれているように見えたから――」
「俺は、身内でワイワイやるのが好きなんだ。毎年こんなふうに大晦日を過ごして、そのたびに、今年も命があったことに安堵する。浮かれる気持ちもわかるだろ? 何より今年は、大事で可愛い〈オンナ〉が、こうして側にいてくれる」
本気で言っているのか怪しいものだと、和彦は自分にそう言い聞かせるが、知らず知らずのうちに頬が熱くなってくる。
賢吾の眼差しに心の中まで暴かれそうな危惧を覚え、思わず視線を伏せる。すると賢吾は、手酌で猪口を酒で満たし、一気に口に含む。和彦はあごを持ち上げられ、ゆっくりと口移しで与えられた。
賢吾の唇を吸うようにして酒を飲む。唇の端から少しこぼれ落ちたが、賢吾の舌にベロリと舐め取られ、そのまま濃厚に舌を絡め合っていた。
賢吾に帯を解かれ、丹前を肩から滑り落とされる。そして、浴衣の衿の間に手が入り込んできて、胸元を荒々しくまさぐられる。
「うっ……」
和彦が微かに声を洩らすと、唇を離した賢吾が薄い笑みを浮かべた。
「――明日は、朝、雑煮を食ってから、初詣に行くぞ。その足で、総和会の会長の家に年始の挨拶だ」
「その口ぶりだと、ぼくも、一緒に?」
「当たり前だ」
「当たり前じゃないっ。初詣はともかく、どうして総和会の会長の家にまで行かないといけない」
「俺のオヤジの家だから」
あまりに簡潔な賢吾の返事に、和彦は唇を動かしながらも、声が出なかった。言い返すべき言葉が見つからない。
「……どういう、理屈だ……」
「俺は自分の〈女〉を、オヤジに一人しか紹介したことがない。千尋の母親だ。オヤジはそれこそ、蛇蝎のごとく嫌っていたがな。そのオヤジが、俺の〈オンナ〉を紹介しろと、何度も言ってくる。もちろんいままで、俺は自分のオンナをオヤジに会わせたことはない。後腐れなく一度しか寝ない相手を、わざわざ紹介するまでもないからな」
どこか楽しげな口調で話しながら賢吾は、厚みのある固くて大きな手で、ずっと和彦の胸元を撫でていた。思わず震える吐息を洩らすと、待っていたように胸の突起を指先に捉えられる。
「だが、先生は別だ。俺の、大事で可愛いオンナで、長嶺組のビジネスパートナーでもある。それに、総和会の仕事も何度もこなしている。先生に会いたいと言い出したところで不思議じゃないだろ」
「――……困、る」
「どうして困る?」
「どんな顔をして会えばいいんだ。それに、何を話せば……」
「一人の偏屈なジジイを相手にしていると思えばいい」
思えるか、という反論は、賢吾の唇に吸い取られた。賢吾の中では決定事項で、和彦の意思は関係ないのだろう。
腹は立つが、戸惑いの気持ちのほうが強い。しかも賢吾に、浴衣の衿の合わせ目をさらに大きく広げられ、和彦の意識はそのことに向いてしまう。
露になった胸元に賢吾が顔を埋めてくる。濡れた音を立てながら、凝った突起を激しく吸われ、小さく呻き声を洩らした和彦は、本能的に後ろに逃れようとする。だが、背筋を這い上がってくる疼きに負けて、座卓の縁に片手を突き、もう片方の手を賢吾の頭にかけていた。
突起を強く吸い上げる一方で、賢吾の片手に膝を押し開かれ、和彦は仕方なく正座していた足を崩す。両足の間をまさぐった賢吾が、上目遣いに見上げてきた。
「下着を穿かないぐらいの気遣いは欲しかったな、先生」
「ふざけたことを言うなっ。大晦日の夜に、そんな恥知らずなことができるかっ」
「俺に脱がされるほうがよかったのか?」
からかわれているとわかっていながら、ムキにならずにはいられない。和彦は賢吾の手を押し退けて立ち上がろうとしたが、浴衣を引っ張られてバランスを崩し、そこを突き飛ばされて畳の上に倒れ込む。
獲物に挑みかかる獣のように、賢吾がのしかかってきた。
「ヤクザに囲まれて過ごす年末は、どうだ? 先生はどんなときでも、この家の中をふわふわと歩いているから、居心地がいいのか悪いのか、見ているだけじゃよくわからねーんだ」
「ぼくは……そんなふうに見られてるのか。なんだかショックだ」
「だったら、姐さんらしく、キリッとしていると言ってもらいたいか?」
「……その例えは笑えない」
和彦が応じると、代わりに賢吾が笑ってくれる。本当に、機嫌がいい。
じっと賢吾を見つめていると、視線に気づいたのか、流し目を寄越された。人によっては剣呑としたものを感じるかもしれないが、和彦が感じたのは、身震いしたくなるような体の疼きだ。
「どうした、先生」
「どうも、しない……。ただ、あんたが少し浮かれているように見えたから――」
「俺は、身内でワイワイやるのが好きなんだ。毎年こんなふうに大晦日を過ごして、そのたびに、今年も命があったことに安堵する。浮かれる気持ちもわかるだろ? 何より今年は、大事で可愛い〈オンナ〉が、こうして側にいてくれる」
本気で言っているのか怪しいものだと、和彦は自分にそう言い聞かせるが、知らず知らずのうちに頬が熱くなってくる。
賢吾の眼差しに心の中まで暴かれそうな危惧を覚え、思わず視線を伏せる。すると賢吾は、手酌で猪口を酒で満たし、一気に口に含む。和彦はあごを持ち上げられ、ゆっくりと口移しで与えられた。
賢吾の唇を吸うようにして酒を飲む。唇の端から少しこぼれ落ちたが、賢吾の舌にベロリと舐め取られ、そのまま濃厚に舌を絡め合っていた。
賢吾に帯を解かれ、丹前を肩から滑り落とされる。そして、浴衣の衿の間に手が入り込んできて、胸元を荒々しくまさぐられる。
「うっ……」
和彦が微かに声を洩らすと、唇を離した賢吾が薄い笑みを浮かべた。
「――明日は、朝、雑煮を食ってから、初詣に行くぞ。その足で、総和会の会長の家に年始の挨拶だ」
「その口ぶりだと、ぼくも、一緒に?」
「当たり前だ」
「当たり前じゃないっ。初詣はともかく、どうして総和会の会長の家にまで行かないといけない」
「俺のオヤジの家だから」
あまりに簡潔な賢吾の返事に、和彦は唇を動かしながらも、声が出なかった。言い返すべき言葉が見つからない。
「……どういう、理屈だ……」
「俺は自分の〈女〉を、オヤジに一人しか紹介したことがない。千尋の母親だ。オヤジはそれこそ、蛇蝎のごとく嫌っていたがな。そのオヤジが、俺の〈オンナ〉を紹介しろと、何度も言ってくる。もちろんいままで、俺は自分のオンナをオヤジに会わせたことはない。後腐れなく一度しか寝ない相手を、わざわざ紹介するまでもないからな」
どこか楽しげな口調で話しながら賢吾は、厚みのある固くて大きな手で、ずっと和彦の胸元を撫でていた。思わず震える吐息を洩らすと、待っていたように胸の突起を指先に捉えられる。
「だが、先生は別だ。俺の、大事で可愛いオンナで、長嶺組のビジネスパートナーでもある。それに、総和会の仕事も何度もこなしている。先生に会いたいと言い出したところで不思議じゃないだろ」
「――……困、る」
「どうして困る?」
「どんな顔をして会えばいいんだ。それに、何を話せば……」
「一人の偏屈なジジイを相手にしていると思えばいい」
思えるか、という反論は、賢吾の唇に吸い取られた。賢吾の中では決定事項で、和彦の意思は関係ないのだろう。
腹は立つが、戸惑いの気持ちのほうが強い。しかも賢吾に、浴衣の衿の合わせ目をさらに大きく広げられ、和彦の意識はそのことに向いてしまう。
露になった胸元に賢吾が顔を埋めてくる。濡れた音を立てながら、凝った突起を激しく吸われ、小さく呻き声を洩らした和彦は、本能的に後ろに逃れようとする。だが、背筋を這い上がってくる疼きに負けて、座卓の縁に片手を突き、もう片方の手を賢吾の頭にかけていた。
突起を強く吸い上げる一方で、賢吾の片手に膝を押し開かれ、和彦は仕方なく正座していた足を崩す。両足の間をまさぐった賢吾が、上目遣いに見上げてきた。
「下着を穿かないぐらいの気遣いは欲しかったな、先生」
「ふざけたことを言うなっ。大晦日の夜に、そんな恥知らずなことができるかっ」
「俺に脱がされるほうがよかったのか?」
からかわれているとわかっていながら、ムキにならずにはいられない。和彦は賢吾の手を押し退けて立ち上がろうとしたが、浴衣を引っ張られてバランスを崩し、そこを突き飛ばされて畳の上に倒れ込む。
獲物に挑みかかる獣のように、賢吾がのしかかってきた。
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