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第15話
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ホットサンドを食べ終えた和彦が皿の上で手を払うと、待ちかねていたように三田村が立ち上がり、食器を片付け始める。几帳面な三田村には、出かけて戻ってきてから片付けるという選択肢はないようだ。
和彦はコーヒーを飲み干すと、カップをキッチンに持って行く。泡だらけの手で三田村がカップを取り上げた。
「ありがとう、先生」
当たり前のように礼を言った三田村が、こちらに背を向ける。この瞬間、昨夜の濃厚な行為の余韻が蘇り、衝動に突き動かされるように和彦は、三田村の背に身を寄せていた。両腕を腰に回すと、柔らかな声で三田村が言った。
「背中が気になって、皿を割りそうだ」
「……器用な若頭補佐は、そんな粗相はしないだろ」
そう三田村をからかって、首筋に軽くキスする。
お互い浮かれているなと思いながら、三田村が動けないことをいいことにじゃれつく。次第に和彦の行動は大胆になり、三田村が着ているトレーナーの下に手を這わせ、素肌を撫でる。
最初は本当に、ふざけているつもりだったのだ。しかし、トレーナーの下に隠れている背の刺青を撫でているうちに、体が熱くなってくる。それは三田村も同じなのか、てのひらを通して、高い体温が伝わってくる。
「三田村……」
呼びかけると、両手に泡をつけたまま三田村が体の向きを変える。和彦は今度は胸元にしがみつき、自分から三田村の唇を塞いだ。
朝から交わすには淫らすぎる口づけを、二人は堪能する。激しく唇を吸い合い、口腔を舌でまさぐったあと、差し出した舌を絡めて唾液を交わす。そんな口づけを交わしながら和彦は、三田村が両手を使えないのをいいことに、熱い体を好きなだけまさぐっていた。
「……先生、手を洗っていいか? これじゃあ、先生を抱き締められない」
「今、あんたに抱き締められたら、出かけたくなくなるから、ダメだ」
三田村が苦笑し、和彦もちらりと笑みをこぼす。ようやく唇と体を離すと、今になって自分の行動が恥ずかしくなり、和彦は逃げるようにキッチンを出ていた。
ドライブをして、行った先で寒さに震えながら軽く散策して、人目がないところでキスを交わす。地元の名物を昼食に食べ、ついでに土産物屋を覗く。帰りの車中では、エンジンの振動が心地よくて、ついうたた寝をした。起きたとき、体にかけられていたのは、三田村のジャケットだった。
今日がなんの日であるか忘れてしまうような、まっとうなデートをしたと思う。気恥ずかしくなるぐらい、ありふれて、特別な出来事などないデートだ。
だが、楽しかった。
ベッドに腰掛けた和彦は、意識しないまま口元に笑みを浮かべ、髪を掻き上げる。シャワーを浴びたあとドライヤーで乾かしたばかりの髪から、シャンプーの香りがふわりと漂った。
帰り支度を整えてしまったので、あとは、日付が変わる前に一階に下りるだけだ。無粋な着信音で、追い立てられるようにクリスマスを終わらせるのは、本意ではない。
和彦は座り直して体の向きを変え、三田村を見下ろす。まるで獣が寝そべっているように、うつ伏せの姿勢で眠っていた。
和彦がシャワーを浴びに行くときは起きていたのだが、待っている間に眠ってしまったようだ。一緒にいる二日間で、和彦が振り回したせいで疲れたのか、それとも緊張を解いているのか。なんにしても、寛いだ三田村の姿を見るのは楽しい。
三田村が静かな寝息を立てるたびに、露になっている背がわずかに上下する。刺青の虎の顔がいつもより穏やかに見えるが、もちろん、和彦の思い込みだ。
和彦は三田村の背に顔を伏せると、そっと唇を押し当てる。ピクリと三田村の体が動いたが、かまわず唇と舌を、虎に這わせる。次第に愛撫は大胆になり、背を舐め上げ、吸い上げるようになると、三田村の筋肉がぐっと緊張した。次の瞬間、和彦は手首を掴まれて、ベッドの中に引きずり込まれ、あっという間に三田村にのしかかられた。
間近で見つめ合ってから、言葉よりも先に、口づけを交わす。合間に三田村に言われた。
「すぐにシャワーを浴びて、着替える。今夜は先生を送っていけないんだから、せめて見送りぐらいしたい」
「そんなことしなくていい。それより、ギリギリまでこうしていたいんだ」
三田村は目元を和らげ、和彦の耳に唇を押し当ててくる。小さく喘いだ和彦は、三田村に身を任せることにした。
シャツのボタンを外されると、すぐに胸元に唇が這わされる。微かに濡れた音を立てながら肌を吸われ、しっかりと愛撫の痕跡を残されていた。いつもの三田村なら、自制心が働いているのか、ここまであからさまなことはしない。和彦がどういう存在かよくわかっているからだ。
和彦はコーヒーを飲み干すと、カップをキッチンに持って行く。泡だらけの手で三田村がカップを取り上げた。
「ありがとう、先生」
当たり前のように礼を言った三田村が、こちらに背を向ける。この瞬間、昨夜の濃厚な行為の余韻が蘇り、衝動に突き動かされるように和彦は、三田村の背に身を寄せていた。両腕を腰に回すと、柔らかな声で三田村が言った。
「背中が気になって、皿を割りそうだ」
「……器用な若頭補佐は、そんな粗相はしないだろ」
そう三田村をからかって、首筋に軽くキスする。
お互い浮かれているなと思いながら、三田村が動けないことをいいことにじゃれつく。次第に和彦の行動は大胆になり、三田村が着ているトレーナーの下に手を這わせ、素肌を撫でる。
最初は本当に、ふざけているつもりだったのだ。しかし、トレーナーの下に隠れている背の刺青を撫でているうちに、体が熱くなってくる。それは三田村も同じなのか、てのひらを通して、高い体温が伝わってくる。
「三田村……」
呼びかけると、両手に泡をつけたまま三田村が体の向きを変える。和彦は今度は胸元にしがみつき、自分から三田村の唇を塞いだ。
朝から交わすには淫らすぎる口づけを、二人は堪能する。激しく唇を吸い合い、口腔を舌でまさぐったあと、差し出した舌を絡めて唾液を交わす。そんな口づけを交わしながら和彦は、三田村が両手を使えないのをいいことに、熱い体を好きなだけまさぐっていた。
「……先生、手を洗っていいか? これじゃあ、先生を抱き締められない」
「今、あんたに抱き締められたら、出かけたくなくなるから、ダメだ」
三田村が苦笑し、和彦もちらりと笑みをこぼす。ようやく唇と体を離すと、今になって自分の行動が恥ずかしくなり、和彦は逃げるようにキッチンを出ていた。
ドライブをして、行った先で寒さに震えながら軽く散策して、人目がないところでキスを交わす。地元の名物を昼食に食べ、ついでに土産物屋を覗く。帰りの車中では、エンジンの振動が心地よくて、ついうたた寝をした。起きたとき、体にかけられていたのは、三田村のジャケットだった。
今日がなんの日であるか忘れてしまうような、まっとうなデートをしたと思う。気恥ずかしくなるぐらい、ありふれて、特別な出来事などないデートだ。
だが、楽しかった。
ベッドに腰掛けた和彦は、意識しないまま口元に笑みを浮かべ、髪を掻き上げる。シャワーを浴びたあとドライヤーで乾かしたばかりの髪から、シャンプーの香りがふわりと漂った。
帰り支度を整えてしまったので、あとは、日付が変わる前に一階に下りるだけだ。無粋な着信音で、追い立てられるようにクリスマスを終わらせるのは、本意ではない。
和彦は座り直して体の向きを変え、三田村を見下ろす。まるで獣が寝そべっているように、うつ伏せの姿勢で眠っていた。
和彦がシャワーを浴びに行くときは起きていたのだが、待っている間に眠ってしまったようだ。一緒にいる二日間で、和彦が振り回したせいで疲れたのか、それとも緊張を解いているのか。なんにしても、寛いだ三田村の姿を見るのは楽しい。
三田村が静かな寝息を立てるたびに、露になっている背がわずかに上下する。刺青の虎の顔がいつもより穏やかに見えるが、もちろん、和彦の思い込みだ。
和彦は三田村の背に顔を伏せると、そっと唇を押し当てる。ピクリと三田村の体が動いたが、かまわず唇と舌を、虎に這わせる。次第に愛撫は大胆になり、背を舐め上げ、吸い上げるようになると、三田村の筋肉がぐっと緊張した。次の瞬間、和彦は手首を掴まれて、ベッドの中に引きずり込まれ、あっという間に三田村にのしかかられた。
間近で見つめ合ってから、言葉よりも先に、口づけを交わす。合間に三田村に言われた。
「すぐにシャワーを浴びて、着替える。今夜は先生を送っていけないんだから、せめて見送りぐらいしたい」
「そんなことしなくていい。それより、ギリギリまでこうしていたいんだ」
三田村は目元を和らげ、和彦の耳に唇を押し当ててくる。小さく喘いだ和彦は、三田村に身を任せることにした。
シャツのボタンを外されると、すぐに胸元に唇が這わされる。微かに濡れた音を立てながら肌を吸われ、しっかりと愛撫の痕跡を残されていた。いつもの三田村なら、自制心が働いているのか、ここまであからさまなことはしない。和彦がどういう存在かよくわかっているからだ。
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