290 / 1,268
第15話
(9)
しおりを挟む細い指先の先まで、締め付けない程度の強さで布を巻きつける。白い布にはすぐさま内側から濃緑が滲み、斑になった。
「……はあ…」
日が暮れ、ようやく一連の作業を終えた彼は、気の抜けた呼気を吐いて床に座り込んだ。その目前には、ぐったりと四肢を投げ出している小さな体がある。頭から足の先までところどころ濃緑の滲む布が巻きつけてあり、舶来物に詳しい人物などが見ようものなら、木乃伊だと騒いだろうと思えるほどだった。
だがしかし、それでも拾った当初よりは相当に見られるようになった。少なくとも人間だとわかるようになったし、呼吸も大分整っている。呼吸の妨げにならないようにと巻かれた布の隙間から静かに息を吐き出し、また静かに吸い込んでいる小さな隙間に瓢箪から汲んだ水を雫一粒ほどずつ与え、十滴ほど飲ませたあと、華奢な身体に静かに薄い布団をかけてやる。やはり傷に響き、びくりと斑に濃緑な木乃伊は震えたが、それも一瞬のことだった。
やがてもせずに微かな寝息が聞こえる。乱れも殆どなく、途切れそうな気配もない。ほうと息を吐いて安堵した彼は、座り込んだまま、そろりと視線を木乃伊の下腹部に向け、それからなにかを振り払うように首を振った。
脳裏には、酷い火傷に覆われながらも確認できた、木乃伊の秘処が浮かんでしまう。疚しい下心があったわけでなく、純粋に薬を塗りつけるためだけに触れてしまっただけだ。しかしそれすら彼には溜息を吐いてしまうほどに緊張してしまうことだった。
焼け爛れ、元の顔かたちはもちろん性別すら危うかった布の塊は、驚いたことに股の間に二つの性があった。辛うじて火傷が軽かった男性の証にもと薬液を塗りたくって布を当てていると、ふと触れてしまった指で気付いたのだ。守られるようにひっそりとあった花莟は稚く、焦土に咲いた花のようだった。幸いにも火傷はない様子だったが、万が一があってはと薬液を布ですくって塗り、そのまま布を当ててある。それ以上は、触れることもなかった。
「…ぅ、ァ…」
ふと、木乃伊が声をあげた。見ると、僅かに腕が動いて、元あった場所からずれていた。人間は昏睡しているときは動かないが、睡眠時には無意識に動くように出来ている。腕が動いたということは昏倒ではなく、少なくとも眠りに浸っていることだ。それならば、ひとまずは安心できる。
包帯の隙間からぼさぼさと突き出ている、燃えずに残った少量の髪の先に少しだけ触れて、彼はそれからしばらく、木乃伊の焼けた口から零れる寝息を聞いていた。
58
お気に入りに追加
1,391
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる