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第14話
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「前に先生に飲ませた薬です。先生が服用している安定剤より、少し効き目が強いですが……それはご存知ですよね?」
どうしてそんなものを飲ませたのかと、秦を睨みつける。体は確かに眠りたがっているが、悪夢を見たくなくて、和彦は自分に処方された安定剤すら飲んでいなかったのだ。
秦は、和彦のきつい眼差しを平然と受け止め、愛撫を再開する。胸元に唇を押し当てながら、熱くなって震えているものを再び扱き始めた。もちろん内奥では、ローターが小刻みに、激しく振動している。
「嫌な夢を見て憂鬱になるというなら、誰かに側にいてもらえばいいんですよ、先生」
「……一人でいたいんだ。誰かが側にいると、自分でもわけのわからない感情をぶつけて、相手に嫌な思いをさせそうだ」
「あれだけ大事にされているのに、意外に、甘えるのが下手なんですね」
「余計な、お世話だ……」
秦が微かに笑い声を洩らし、胸の突起を舌先でくすぐってくる。小さく悦びの声を洩らした和彦は、仰け反って目を閉じる。
秦の愛撫を受けているのは自分なのに、頭の中で描かれるのは、秦の愛撫を受ける中嶋の姿だった。自分の体でありながら、中嶋の身代わりとして秦の愛撫を受けるのだ。
それは、ひどく倒錯した淫靡な想像で、罪悪感を薄めるための、ある種の逃避なのかもしれない。
わざと辱めるように大きく両足を開かれ、反り返ったものを濡れた音を立てて舐め上げられる。先端を執拗に吸われ、唇を擦りつけられ、舌先で弄られると、甲高い声を上げてよがってしまう。
しかし和彦は、どこかでその声を他人事のように聞いている。これは、中嶋の上げる声だとすら思っていた。
ローターを引き抜かれ、すぐにまた内奥に呑み込まされる。挿入された指にローターをさらに奥に押し込まれたとき、たまらず内奥を収縮させていた。
快感を与えられているうちに、飲まされた安定剤が効いてきたのか、眠気が押し寄せてくる。和彦はなんとか追い払おうと目を擦るが、その手を優しく秦に止められていた。
「もう、無理ですよ。こうなったら、眠るしかありません」
「……眠りたくないんだ……」
「残念。わたしにはどうしようもありません。それに、先生にも」
和彦は力を振り絞って瞼を持ち上げるが、もう秦を睨みつけることもできない。すぐにまた目を閉じると、待っていたようにローターを引き抜かれた。
まだ慎みを保ってはいるものの、喘ぐ内奥の入り口に次に押し当てられたのは、ローターとは比べ物にならないほど逞しいものだった。
「あっ、うぅっ――」
「先生、力を抜いてください。ゆっくりと、入れてあげますから」
内奥の入り口をこじ開けられ、秦の言葉通り、〈それ〉はゆっくりと挿入されてくる。他の男たちがそうするように、発情した襞と粘膜をねっとりと擦り上げながら、否応なく内奥を押し広げていく。
「悦んでますね、先生。よく、締めつけてますよ。入り口がひくついて、真っ赤に充血して……ここは、いやらしい涎を垂らしっぱなしで」
反り返って震えるものを片手で軽く扱かれただけで、和彦は達してしまう。放った精で下腹部を濡らしながら、内奥深くまで押し入ってくるものを懸命に締め付けていた。
強烈な眠気で意識は朦朧としているが、それでも和彦の体は、快感に対して貪欲だった。
内奥を犯しているのは、秦が操る〈道具〉だ。決して、熱い欲望ではない。和彦は何度も自分に言い聞かせるが、快感が深くなるにつれ、自信がなくなってくる。
自分の中に押し入っているのは、実は秦自身なのではないか――。
そんな不安に駆られると同時に、抗いがたい肉の悦びが体の奥から溢れ出てくる。
この悦びは、本来なら中嶋が味わうべきものなのだ。
一見、穏やかで優美で紳士的な男に、獣のように犯されながら、普通の青年の顔をしたヤクザが、どんなふうに悦びの声を上げ、身を捩るのか。想像するだけで和彦は、快感を覚える。
内奥を道具で擦り上げられながら、自分がよくわからなくなっていた。
犯す秦の立場で感じているのか、犯される中嶋の立場で感じているのか、判断がつかないのだ。それとも、こう思うこと自体、薬の作用によって惑乱しているのかもしれない。
なんにしても、淫らな妄想によって頭が満たされ、他のことは何も考えられなくなる。もちろん、自分の家族のことすら。
内奥深くを抉られ、うねるような熱い痺れが背筋を駆け上がってくる。大きく仰け反った和彦は、そのまま意識を手放していた。
体を揺さぶられて目を開けたとき、自宅の寝室の天井が視界に入った。
さきほどまで夢を見ていたのだが、今もまだ、夢の中にいるのかもしれない。意識もはっきりしないまま、和彦はそう判断する。
そうでなければ、賢吾に顔を覗き込まれる状況が理解できない。
「――気分は悪くないか、先生」
囁きかけてくる賢吾の声は、蕩けそうなほど優しい。やはりこれは夢なのだと納得した和彦は、それでも律儀に応じる。
「悪くはないが、眠い……」
「なら、好きなだけ寝ろ。起こして悪かったな。あんまりピクリともしないから、心配になった。先生の大事な番犬は置いていってやるから、夢の中でもしっかり守ってもらえ」
この物言いは好きだなと思い、和彦は笑う。もっとも、顔の筋肉は少しも動いていないかもしれない。
「何か、言いたいことはあるか?」
賢吾に問われ、目を閉じた和彦は少し考えてから答えた。
「……兄に会った」
「塞ぎ込んで、メシも食えず、眠れなくなるほど、嫌いなのか?」
「佐伯の家の人間とは、関わりたくない……」
「先生にとっては、いい家じゃないみたいだな」
布団の中に賢吾の手が入り込む。しっかりと手を握られ、軽く握り返した和彦は、これだけは言っておいた。
「――……あんたみたいな父親がいて、千尋を羨ましく感じるぐらい、ひどい家だ」
賢吾は何も言わず、和彦が再び眠りにつくまで、頭を撫でてくれた。
どうしてそんなものを飲ませたのかと、秦を睨みつける。体は確かに眠りたがっているが、悪夢を見たくなくて、和彦は自分に処方された安定剤すら飲んでいなかったのだ。
秦は、和彦のきつい眼差しを平然と受け止め、愛撫を再開する。胸元に唇を押し当てながら、熱くなって震えているものを再び扱き始めた。もちろん内奥では、ローターが小刻みに、激しく振動している。
「嫌な夢を見て憂鬱になるというなら、誰かに側にいてもらえばいいんですよ、先生」
「……一人でいたいんだ。誰かが側にいると、自分でもわけのわからない感情をぶつけて、相手に嫌な思いをさせそうだ」
「あれだけ大事にされているのに、意外に、甘えるのが下手なんですね」
「余計な、お世話だ……」
秦が微かに笑い声を洩らし、胸の突起を舌先でくすぐってくる。小さく悦びの声を洩らした和彦は、仰け反って目を閉じる。
秦の愛撫を受けているのは自分なのに、頭の中で描かれるのは、秦の愛撫を受ける中嶋の姿だった。自分の体でありながら、中嶋の身代わりとして秦の愛撫を受けるのだ。
それは、ひどく倒錯した淫靡な想像で、罪悪感を薄めるための、ある種の逃避なのかもしれない。
わざと辱めるように大きく両足を開かれ、反り返ったものを濡れた音を立てて舐め上げられる。先端を執拗に吸われ、唇を擦りつけられ、舌先で弄られると、甲高い声を上げてよがってしまう。
しかし和彦は、どこかでその声を他人事のように聞いている。これは、中嶋の上げる声だとすら思っていた。
ローターを引き抜かれ、すぐにまた内奥に呑み込まされる。挿入された指にローターをさらに奥に押し込まれたとき、たまらず内奥を収縮させていた。
快感を与えられているうちに、飲まされた安定剤が効いてきたのか、眠気が押し寄せてくる。和彦はなんとか追い払おうと目を擦るが、その手を優しく秦に止められていた。
「もう、無理ですよ。こうなったら、眠るしかありません」
「……眠りたくないんだ……」
「残念。わたしにはどうしようもありません。それに、先生にも」
和彦は力を振り絞って瞼を持ち上げるが、もう秦を睨みつけることもできない。すぐにまた目を閉じると、待っていたようにローターを引き抜かれた。
まだ慎みを保ってはいるものの、喘ぐ内奥の入り口に次に押し当てられたのは、ローターとは比べ物にならないほど逞しいものだった。
「あっ、うぅっ――」
「先生、力を抜いてください。ゆっくりと、入れてあげますから」
内奥の入り口をこじ開けられ、秦の言葉通り、〈それ〉はゆっくりと挿入されてくる。他の男たちがそうするように、発情した襞と粘膜をねっとりと擦り上げながら、否応なく内奥を押し広げていく。
「悦んでますね、先生。よく、締めつけてますよ。入り口がひくついて、真っ赤に充血して……ここは、いやらしい涎を垂らしっぱなしで」
反り返って震えるものを片手で軽く扱かれただけで、和彦は達してしまう。放った精で下腹部を濡らしながら、内奥深くまで押し入ってくるものを懸命に締め付けていた。
強烈な眠気で意識は朦朧としているが、それでも和彦の体は、快感に対して貪欲だった。
内奥を犯しているのは、秦が操る〈道具〉だ。決して、熱い欲望ではない。和彦は何度も自分に言い聞かせるが、快感が深くなるにつれ、自信がなくなってくる。
自分の中に押し入っているのは、実は秦自身なのではないか――。
そんな不安に駆られると同時に、抗いがたい肉の悦びが体の奥から溢れ出てくる。
この悦びは、本来なら中嶋が味わうべきものなのだ。
一見、穏やかで優美で紳士的な男に、獣のように犯されながら、普通の青年の顔をしたヤクザが、どんなふうに悦びの声を上げ、身を捩るのか。想像するだけで和彦は、快感を覚える。
内奥を道具で擦り上げられながら、自分がよくわからなくなっていた。
犯す秦の立場で感じているのか、犯される中嶋の立場で感じているのか、判断がつかないのだ。それとも、こう思うこと自体、薬の作用によって惑乱しているのかもしれない。
なんにしても、淫らな妄想によって頭が満たされ、他のことは何も考えられなくなる。もちろん、自分の家族のことすら。
内奥深くを抉られ、うねるような熱い痺れが背筋を駆け上がってくる。大きく仰け反った和彦は、そのまま意識を手放していた。
体を揺さぶられて目を開けたとき、自宅の寝室の天井が視界に入った。
さきほどまで夢を見ていたのだが、今もまだ、夢の中にいるのかもしれない。意識もはっきりしないまま、和彦はそう判断する。
そうでなければ、賢吾に顔を覗き込まれる状況が理解できない。
「――気分は悪くないか、先生」
囁きかけてくる賢吾の声は、蕩けそうなほど優しい。やはりこれは夢なのだと納得した和彦は、それでも律儀に応じる。
「悪くはないが、眠い……」
「なら、好きなだけ寝ろ。起こして悪かったな。あんまりピクリともしないから、心配になった。先生の大事な番犬は置いていってやるから、夢の中でもしっかり守ってもらえ」
この物言いは好きだなと思い、和彦は笑う。もっとも、顔の筋肉は少しも動いていないかもしれない。
「何か、言いたいことはあるか?」
賢吾に問われ、目を閉じた和彦は少し考えてから答えた。
「……兄に会った」
「塞ぎ込んで、メシも食えず、眠れなくなるほど、嫌いなのか?」
「佐伯の家の人間とは、関わりたくない……」
「先生にとっては、いい家じゃないみたいだな」
布団の中に賢吾の手が入り込む。しっかりと手を握られ、軽く握り返した和彦は、これだけは言っておいた。
「――……あんたみたいな父親がいて、千尋を羨ましく感じるぐらい、ひどい家だ」
賢吾は何も言わず、和彦が再び眠りにつくまで、頭を撫でてくれた。
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