血と束縛と

北川とも

文字の大きさ
上 下
269 / 1,268
第14話

(10)

しおりを挟む
 どうかな、と呟いた和彦は、緩く首を左右に振る。優しく穏やかな秦の愛撫は、確かに心地いい。しかし、容易に身を任せられない。
 自分が抱えている事情の他に、和彦の脳裏をちらつくのは、中嶋の顔だった。
 普通の青年の顔をしていながら実は物騒な筋者で、なのに秦が絡むときだけ――厄介で健気な〈女〉を感じさせる彼を裏切っているようで、胸が痛むというより、切ない気分になる。
 秦ほどの男が、中嶋が向ける気持ちに気づいていないとも思えない。どういうつもりなのだろうかと、和彦がじっと見上げると、秦が微笑を浮かべて唇を啄ばんできた。
「何か、言いたそうですね、先生」
「別に……」
「だったら一つ、わたしの頼みを聞いてもらえませんか?」
 訝しんで眉をひそめる和彦の耳元で、秦が露骨な言葉を囁いてくる。和彦は目を見開き、羞恥で全身を熱くした。
「なっ……、何言って――」
 和彦は慌てて身を捩ろうとしたが、かまわず秦に両足を抱え上げられ、左右に広げられる。そして、頭を埋められた。
「あっ、うぅっ」
 反り返ったものを濡れた舌でゆっくりと舐めあげられ、背筋にゾクゾクとするような快美さが駆け抜ける。和彦は反射的に秦の頭を押しのけようとしたが、括れを舌先でくすぐられ、体から力が抜ける。
 柔らかく先端を吸われ、滲んだ透明なしずくを舐め取られる。同時に、内奥に指が侵入してきた。
「んうっ……」
「先生は、〈あいつ〉と仲がいいでしょう? 機会があれば、教えてやってください。男の受け入れ方を。――人を挑発するくせに、あいつは男を怖がっている。頭はいいが、感覚が獣と一緒だ。本能的に、どちらの立場が上か下か、服従を示すか否か、そういうふうにしか判断できない。男と寝るという欲望が具体的であればあるほど、あいつは苦しむんですよ。自分の理想と、本能が求めるものの違いに」
 秦が何を言っているのか、最初はわけがわからなかった和彦だが、親しみを感じさせる口調から、ようやく、〈あいつ〉が誰を指しているのか理解する。
「だけど先生に対しては、様子が違う。ヤクザの世界にいて、先生だけは自分を傷つけられないと確信しているんでしょうね。先生を弱い存在だと見くびっているんじゃなく、安全な存在だと認識している」
 思わず秦の話に聞き入ってしまうが、内奥の入り口に滑らかな感触を擦りつけられ、和彦はビクリと身を震わせる。ヌルリと内奥に入り込んできたものの感触に、覚えがあった。
「んっ」
 突然、内奥で小刻みな振動が響き渡り、否応なく官能を刺激される。和彦は腰を跳ねさせるように反応するが、体はしっかりと秦に押さえ込まれた。
 指でさらに押し込まれたローターの振動が激しさを増し、和彦の息遣いは妖しさを帯びる。やめるよう言えないのは、秦の言葉に引き込まれるからだ。
「わたしは、あいつの価値観だとか、ヤクザの矜持だとかをぶち壊して、泣かせたい。暴力によってじゃないですよ。快感で、そうしたいんです。……そんなことを考えると、興奮するんです。でもあいつは、きっとこういう関係は望まないでしょうね。男を怖がって、その男の中で肩肘を張って生きているからこそ」
 秦の告白を、屈折しているとか、おかしいという一言では片付けられなかった。語られる言葉に込められているのは、秦が、〈中嶋〉に向ける倒錯した執着だ。
「……彼の気持ちに気づいているとは、思っていた。だけど、応える気がないから、気づかないふりをしているのかと、思っていた」
 内奥にローターを含まされたまま、震える声で和彦が言うと、秦は艶やかな笑みを浮かべた。
「あいつが、どんな形であろうが応えてくれるというなら、わたしは悦んで、ヤクザのあいつを犯しますよ。だけど、あいつが望んでいるのは、頼りになるが謎の多い、紳士的な先輩としての秦静馬だ。利用したり、されたりの緊張感の高い関係も望みでしょう。頭のいいあいつらしく」
 しかし、ここにいる秦の望みは、外見からは想像もつかないほど動物的で、暴力的だ。直情的といえるかもしれない。
 それでも、自分の望みを中嶋にぶつけないということは――この男なりに、中嶋との関係を壊したくないと思っているのだろう。
「――……ヤクザも、そのヤクザに関わる男も、おかしい奴ばかりだ……」
 吐息交じりに和彦が洩らすと、秦の指に唇を割り開かれ、小さな錠剤を舌の上にのせられた。驚いた和彦が目を見開くと、安心させるように微笑みかけてきた秦に、口移しで水を飲まされ、そのまま喉に流し込む。次に与えられたのは、深い口づけだった。
 ようやく唇が離されると、和彦は息を喘がせながら問いかける。
「何を、飲ませた」

しおりを挟む
感想 80

あなたにおすすめの小説

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

処理中です...