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第14話
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先生は、と問い返してこないのは、三田村の誠実さの表れだ。かつて和彦は三田村に、自分の家のことについて尋ねるなと言ったことがある。三田村は律儀に守ってくれているのだ。
和彦は三田村の左手を取り、肉が抉れたような傷跡がある手の甲を撫でてから、自分の胸に押し当てさせる。和彦の求めがわかったのか、三田村はてのひらで捏ねるように胸の突起を転がしたかと思うと、凝ったそれを指先で抓って刺激してくる。
「んっ、んあっ」
快感の源でもある三点を同時に責められ、和彦は三田村が見ている前で悩ましく腰を揺らす。内奥で蠢くものを、さらに奥に誘い込むように締め上げた。
強烈だが、穏やかでもある交歓を二人は堪能する。もっと長くこの悦びに浸りたくて、ギリギリのところで和彦も三田村も快楽をコントロールしていた。
ただ、和彦の気持ちの箍はわずかに緩む。自分の武骨なオトコが、ほろ苦い思い出話をしてくれたからだ。
「――……ぼくも、クリスマスはしたことがない」
喘ぐ息の下、和彦がぽつりと洩らすと、三田村はそっと目を細めた。
「そうなのか?」
「イベント事を嫌う家があったところで不思議じゃないが、そういうことじゃなく、佐伯の家は変わっている。人の出入りは頻繁にあったのに、いつも家の中は淡々とした空気が流れていた。……あの家に住んで、馴染めなかったぼくだけが、そう感じていたのかもしれないが……」
ここで三田村の手が伸ばされて頬にかかり、和彦は目を丸くする。三田村が、真剣な顔で言った。
「先生を騙してさらうようなマネをしたヤクザが、何を言っているのかと思うだろうが……、今の環境なら、先生にそんな思いはさせない――というより、させたくない。不器用で気が利かない俺にできることなんて、ささやかなものだろうけど」
「……若頭補佐は、ずいぶん口が上手くなったな」
からかうように言いながらも、和彦は笑みをこぼす。今、たまらなく三田村にキスしたいが、繋がりを解きたくはない。
和彦は、頬を撫でる三田村の左手を取ると、指を舐め上げる。このとき、内奥深くに収まっている三田村のものが脈打ち、さらに大きくなったようだった。
「先生……」
和彦は三田村を見下ろしたまま指を丹念に舐め、ゆっくりと口腔に含む。舌を絡めて扱くように動かしながら、口腔から指を出し入れする。最初は好きにさせてくれた三田村だが、欲望が抑えきれなくなったらしく、和彦のものを扱く手の動きが速くなり、下から激しく突き上げられる。
たまらず三田村の胸元に倒れ込みそうになったところを、すかさず受け止められて再び体の位置を入れ替えられる。
「あっ、あっ、あっ――ん。三田村……、三田村、もうっ……」
三田村の力強い律動が繰り返され、和彦は奔放に乱れる。内奥深くを抉るように突かれた拍子に精を迸らせ、絶頂の余韻に酔いながら、引き絞るように三田村の欲望を締め付ける。
獣のように低く唸ったあと、三田村が精を内奥深くに注ぎ込む。和彦は放埓に悦びの声を上げながら、三田村の背にすがりついた。
三田村の体が熱い。それ以上に、内奥でビクビクと震えるものが熱い。それが和彦には、たまらなく愛しい。
荒い呼吸を繰り返す三田村の顔の汗をてのひらで拭い、勇ましい虎を撫でて慰撫する。珍しいことだが、三田村が甘えるように和彦に頬ずりしてきた。
グラスに注いだ牛乳を一息に飲んだ和彦は、天井を見上げてほっと息を吐き出す。まだ体に、三田村との激しい情交の熱が留まっている。朝だというのに、酔ったように頭がふわふわとしていた。
小さなテーブルに頬杖をついた拍子に、空になったグラスがひょいっと取り上げられ、再び牛乳で満たされた。
「先生なら、オレンジジュースのほうがよかったかな」
そう声をかけてきた三田村が、向かいのイスに腰掛ける。大人の男なら、こうして向かい合って座ると、足が触れるようなテーブルだ。ただ、二人がこの部屋で寛ぐことを優先して考えると、このサイズのテーブルが最適だったのだ。和彦も、不満はない。むしろ、気恥ずかしくなるぐらいの三田村との距離の近さを、楽しんでいた。
「ぼくはよっぽど、オレンジジュース好きだと思われてるんだな」
「先生の部屋の冷蔵庫には、常備してあると聞いている」
「……もしかして、冷蔵庫に何が入っているか、全部把握してるんじゃないか」
まさか、と言って三田村は顔を綻ばせ、つられて和彦も笑ってしまう。
朝からこうして、三田村と穏やかに会話を交わしていると、自分がとても優しい人間になったような気がする。世の中に嫌なことは何もないとすら、思えてくるのだ。もちろんそれは、この部屋を一歩出てしまえば消えてしまう錯覚だとわかっている。
和彦は三田村の左手を取り、肉が抉れたような傷跡がある手の甲を撫でてから、自分の胸に押し当てさせる。和彦の求めがわかったのか、三田村はてのひらで捏ねるように胸の突起を転がしたかと思うと、凝ったそれを指先で抓って刺激してくる。
「んっ、んあっ」
快感の源でもある三点を同時に責められ、和彦は三田村が見ている前で悩ましく腰を揺らす。内奥で蠢くものを、さらに奥に誘い込むように締め上げた。
強烈だが、穏やかでもある交歓を二人は堪能する。もっと長くこの悦びに浸りたくて、ギリギリのところで和彦も三田村も快楽をコントロールしていた。
ただ、和彦の気持ちの箍はわずかに緩む。自分の武骨なオトコが、ほろ苦い思い出話をしてくれたからだ。
「――……ぼくも、クリスマスはしたことがない」
喘ぐ息の下、和彦がぽつりと洩らすと、三田村はそっと目を細めた。
「そうなのか?」
「イベント事を嫌う家があったところで不思議じゃないが、そういうことじゃなく、佐伯の家は変わっている。人の出入りは頻繁にあったのに、いつも家の中は淡々とした空気が流れていた。……あの家に住んで、馴染めなかったぼくだけが、そう感じていたのかもしれないが……」
ここで三田村の手が伸ばされて頬にかかり、和彦は目を丸くする。三田村が、真剣な顔で言った。
「先生を騙してさらうようなマネをしたヤクザが、何を言っているのかと思うだろうが……、今の環境なら、先生にそんな思いはさせない――というより、させたくない。不器用で気が利かない俺にできることなんて、ささやかなものだろうけど」
「……若頭補佐は、ずいぶん口が上手くなったな」
からかうように言いながらも、和彦は笑みをこぼす。今、たまらなく三田村にキスしたいが、繋がりを解きたくはない。
和彦は、頬を撫でる三田村の左手を取ると、指を舐め上げる。このとき、内奥深くに収まっている三田村のものが脈打ち、さらに大きくなったようだった。
「先生……」
和彦は三田村を見下ろしたまま指を丹念に舐め、ゆっくりと口腔に含む。舌を絡めて扱くように動かしながら、口腔から指を出し入れする。最初は好きにさせてくれた三田村だが、欲望が抑えきれなくなったらしく、和彦のものを扱く手の動きが速くなり、下から激しく突き上げられる。
たまらず三田村の胸元に倒れ込みそうになったところを、すかさず受け止められて再び体の位置を入れ替えられる。
「あっ、あっ、あっ――ん。三田村……、三田村、もうっ……」
三田村の力強い律動が繰り返され、和彦は奔放に乱れる。内奥深くを抉るように突かれた拍子に精を迸らせ、絶頂の余韻に酔いながら、引き絞るように三田村の欲望を締め付ける。
獣のように低く唸ったあと、三田村が精を内奥深くに注ぎ込む。和彦は放埓に悦びの声を上げながら、三田村の背にすがりついた。
三田村の体が熱い。それ以上に、内奥でビクビクと震えるものが熱い。それが和彦には、たまらなく愛しい。
荒い呼吸を繰り返す三田村の顔の汗をてのひらで拭い、勇ましい虎を撫でて慰撫する。珍しいことだが、三田村が甘えるように和彦に頬ずりしてきた。
グラスに注いだ牛乳を一息に飲んだ和彦は、天井を見上げてほっと息を吐き出す。まだ体に、三田村との激しい情交の熱が留まっている。朝だというのに、酔ったように頭がふわふわとしていた。
小さなテーブルに頬杖をついた拍子に、空になったグラスがひょいっと取り上げられ、再び牛乳で満たされた。
「先生なら、オレンジジュースのほうがよかったかな」
そう声をかけてきた三田村が、向かいのイスに腰掛ける。大人の男なら、こうして向かい合って座ると、足が触れるようなテーブルだ。ただ、二人がこの部屋で寛ぐことを優先して考えると、このサイズのテーブルが最適だったのだ。和彦も、不満はない。むしろ、気恥ずかしくなるぐらいの三田村との距離の近さを、楽しんでいた。
「ぼくはよっぽど、オレンジジュース好きだと思われてるんだな」
「先生の部屋の冷蔵庫には、常備してあると聞いている」
「……もしかして、冷蔵庫に何が入っているか、全部把握してるんじゃないか」
まさか、と言って三田村は顔を綻ばせ、つられて和彦も笑ってしまう。
朝からこうして、三田村と穏やかに会話を交わしていると、自分がとても優しい人間になったような気がする。世の中に嫌なことは何もないとすら、思えてくるのだ。もちろんそれは、この部屋を一歩出てしまえば消えてしまう錯覚だとわかっている。
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