血と束縛と

北川とも

文字の大きさ
上 下
262 / 1,268
第14話

(3)

しおりを挟む
 先生は、と問い返してこないのは、三田村の誠実さの表れだ。かつて和彦は三田村に、自分の家のことについて尋ねるなと言ったことがある。三田村は律儀に守ってくれているのだ。
 和彦は三田村の左手を取り、肉が抉れたような傷跡がある手の甲を撫でてから、自分の胸に押し当てさせる。和彦の求めがわかったのか、三田村はてのひらで捏ねるように胸の突起を転がしたかと思うと、凝ったそれを指先で抓って刺激してくる。
「んっ、んあっ」
 快感の源でもある三点を同時に責められ、和彦は三田村が見ている前で悩ましく腰を揺らす。内奥で蠢くものを、さらに奥に誘い込むように締め上げた。
 強烈だが、穏やかでもある交歓を二人は堪能する。もっと長くこの悦びに浸りたくて、ギリギリのところで和彦も三田村も快楽をコントロールしていた。
 ただ、和彦の気持ちの箍はわずかに緩む。自分の武骨なオトコが、ほろ苦い思い出話をしてくれたからだ。
「――……ぼくも、クリスマスはしたことがない」
 喘ぐ息の下、和彦がぽつりと洩らすと、三田村はそっと目を細めた。
「そうなのか?」
「イベント事を嫌う家があったところで不思議じゃないが、そういうことじゃなく、佐伯の家は変わっている。人の出入りは頻繁にあったのに、いつも家の中は淡々とした空気が流れていた。……あの家に住んで、馴染めなかったぼくだけが、そう感じていたのかもしれないが……」
 ここで三田村の手が伸ばされて頬にかかり、和彦は目を丸くする。三田村が、真剣な顔で言った。
「先生を騙してさらうようなマネをしたヤクザが、何を言っているのかと思うだろうが……、今の環境なら、先生にそんな思いはさせない――というより、させたくない。不器用で気が利かない俺にできることなんて、ささやかなものだろうけど」
「……若頭補佐は、ずいぶん口が上手くなったな」
 からかうように言いながらも、和彦は笑みをこぼす。今、たまらなく三田村にキスしたいが、繋がりを解きたくはない。
 和彦は、頬を撫でる三田村の左手を取ると、指を舐め上げる。このとき、内奥深くに収まっている三田村のものが脈打ち、さらに大きくなったようだった。
「先生……」
 和彦は三田村を見下ろしたまま指を丹念に舐め、ゆっくりと口腔に含む。舌を絡めて扱くように動かしながら、口腔から指を出し入れする。最初は好きにさせてくれた三田村だが、欲望が抑えきれなくなったらしく、和彦のものを扱く手の動きが速くなり、下から激しく突き上げられる。
 たまらず三田村の胸元に倒れ込みそうになったところを、すかさず受け止められて再び体の位置を入れ替えられる。
「あっ、あっ、あっ――ん。三田村……、三田村、もうっ……」
 三田村の力強い律動が繰り返され、和彦は奔放に乱れる。内奥深くを抉るように突かれた拍子に精を迸らせ、絶頂の余韻に酔いながら、引き絞るように三田村の欲望を締め付ける。
 獣のように低く唸ったあと、三田村が精を内奥深くに注ぎ込む。和彦は放埓に悦びの声を上げながら、三田村の背にすがりついた。
 三田村の体が熱い。それ以上に、内奥でビクビクと震えるものが熱い。それが和彦には、たまらなく愛しい。
 荒い呼吸を繰り返す三田村の顔の汗をてのひらで拭い、勇ましい虎を撫でて慰撫する。珍しいことだが、三田村が甘えるように和彦に頬ずりしてきた。


 グラスに注いだ牛乳を一息に飲んだ和彦は、天井を見上げてほっと息を吐き出す。まだ体に、三田村との激しい情交の熱が留まっている。朝だというのに、酔ったように頭がふわふわとしていた。
 小さなテーブルに頬杖をついた拍子に、空になったグラスがひょいっと取り上げられ、再び牛乳で満たされた。
「先生なら、オレンジジュースのほうがよかったかな」
 そう声をかけてきた三田村が、向かいのイスに腰掛ける。大人の男なら、こうして向かい合って座ると、足が触れるようなテーブルだ。ただ、二人がこの部屋で寛ぐことを優先して考えると、このサイズのテーブルが最適だったのだ。和彦も、不満はない。むしろ、気恥ずかしくなるぐらいの三田村との距離の近さを、楽しんでいた。
「ぼくはよっぽど、オレンジジュース好きだと思われてるんだな」
「先生の部屋の冷蔵庫には、常備してあると聞いている」
「……もしかして、冷蔵庫に何が入っているか、全部把握してるんじゃないか」
 まさか、と言って三田村は顔を綻ばせ、つられて和彦も笑ってしまう。
 朝からこうして、三田村と穏やかに会話を交わしていると、自分がとても優しい人間になったような気がする。世の中に嫌なことは何もないとすら、思えてくるのだ。もちろんそれは、この部屋を一歩出てしまえば消えてしまう錯覚だとわかっている。

しおりを挟む
感想 80

あなたにおすすめの小説

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

ある少年の体調不良について

雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。 BLもしくはブロマンス小説。 体調不良描写があります。

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

処理中です...