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第13話
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「俺が興味あるのは、佐伯だ。とりあえずこいつと繋がっていれば、長嶺や、お前みたいな連中の動向が掴めるからな。……何より、こいつの存在自体が、楽しめる。長嶺どころか、その息子や子分まで垂らし込むぐらいだ。男とはいっても、最高に具合がいい。何より、こんな色男のくせして、女より淫乱だ」
屈辱と羞恥で、めまいがしてくる。そこに怒りも加わり、本気で鷹津を殴りたくなる。一方、鷹津の生々しい発言を受けても、秦は柔らかな表情を変えなかった。そのくせ唇から出た言葉は、鷹津に負けず劣らず生々しい。
「先生の感じやすさといやらしさを知っているのは、ご自分だけだと思わないほうがいいですよ。わたしも、よく知っていますから。先生の感じやすい場所が、与えたものをいやらしく咥え込む様子も、もちろん、感触も……」
ほお、と声を洩らした鷹津がこちらを見たので、和彦は必死に睨みつける。虚勢としては、これが限界だった。そしてテーブルの下では、靴先で秦の足を蹴りつける。このときだけは秦は、悪戯っぽい表情で目を眇めた。
「長嶺が何を企んで、自分の大事なオンナに、お前みたいな男が手を出すのを許したか気になるな」
「わたしは、先生の〈遊び相手〉です。あなたが先生の〈番犬〉であるように、役割を与えられているんです」
「――……長嶺といい、お前といい、食えない奴らだ……」
そう呟いた鷹津が、突然立ち上がる。手首を掴まれたままの和彦も、やむをえず倣う。
「秦との用は済んだ。これからは、俺とお前の用を済ませる時間だ」
鷹津の言葉の意味をよく理解している和彦は、一度だけ肩を震わせる。
約束を取り付けて鷹津と会えば、その後に起こりうることは一つしかないのだ。
なんとか鷹津の手を振り払い、並んで歩きながら振り返る。秦が、嫌味なほど艶やかな笑みで見送っていた。
「長嶺組に、部屋を取らせた」
ロビーを歩きながら、そう言って鷹津がカードキーを見せてくる。何をされるよりも生々しさを感じ、思わず和彦は顔を背ける。そんな和彦を見て、鷹津は鼻を鳴らす。
「――この間、自分に触れたいなら、しっかり働けと言ったんだ。発言に責任を持たないとな、佐伯」
「悪徳刑事が、人並みのことを言うな……」
和彦としては精一杯の毒を吐いたつもりだが、鷹津の耳を素通りしたのか、やけに熱心にカードキーを手の中で弄んでいる。そのくせ、エレベーターの到着を告げる音楽には、素早く反応した。
急に引き返したい気分になったが、それはできない。嫌になるほどヤクザの思考に染まっていると思うが、和彦は、賢吾だけでなく、鷹津の面子のことも考えていた。面子を潰された男は――怖い獣になる。
長嶺組が取ったという部屋は、男二人が寝ても持て余しそうな広いベッドがある、ダブルルームだった。大きな窓から見渡せる風景は感嘆するほどで、この眺望込みで、部屋の料金は安くないだろう。すでにワインまで準備されていた。
この部屋は、鷹津のためというより、和彦のために用意されたようだった。部屋を見回して感じるのは、和彦を安く扱う気はないという意思だ。
「俺は、ホテルの部屋を取ってくれとしか言ってないんだぜ」
ソファにブルゾンを投げ置いた鷹津が口を開く。和彦が見つめると、鷹津は皮肉っぽく唇を歪めた。
「あの組のことだから、それなりの部屋を取ると思ったんだ。それで今日、このホテルに部屋を取ったと連絡が入ったんだが……そのとき、組員がなんと言ったと思う?」
「……さあ」
「さすがに昨日の今日では、スイートルームの予約は無理でした、だと。――大事にされているな。組長のオンナは」
和彦が何も言えないでいると、鷹津はバスルームのほうを指さした。
「シャワーを浴びてこい」
ここまできて鷹津に逆らう気も起きなかった。コートとジャケットをハンガーにかけてから、バスルームに向かう。
バスタオルとバスローブを洗面台のカウンターに並べてから、和彦は鏡を覗き込む。そこには、いつも通りの自分が映っていた。
落ち着いている自分が不思議だった。感情的にはいろいろと複雑で、割り切れないものもあるのだが、逃げ出すことも、抗うこともせず、和彦はここにいる。
意外に自分は、男たちの利害や企みに巻き込まれる今の状況が、性に合っているのかもしれない。そんなことを考えながらも和彦は、ワイシャツのボタンを外していた。
バスタブに入ってシャワーカーテンを引くと、頭から湯を浴びる。
顔を仰向かせ、目を閉じながら、肌を流れ落ちていく湯の感触に意識を傾けていたが、ふと異変に気づく。ハッとして和彦が視線を向けた先に、いつの間にかシャワーカーテンが開いており、鷹津が立っていた。もちろん、何も身につけていない。
屈辱と羞恥で、めまいがしてくる。そこに怒りも加わり、本気で鷹津を殴りたくなる。一方、鷹津の生々しい発言を受けても、秦は柔らかな表情を変えなかった。そのくせ唇から出た言葉は、鷹津に負けず劣らず生々しい。
「先生の感じやすさといやらしさを知っているのは、ご自分だけだと思わないほうがいいですよ。わたしも、よく知っていますから。先生の感じやすい場所が、与えたものをいやらしく咥え込む様子も、もちろん、感触も……」
ほお、と声を洩らした鷹津がこちらを見たので、和彦は必死に睨みつける。虚勢としては、これが限界だった。そしてテーブルの下では、靴先で秦の足を蹴りつける。このときだけは秦は、悪戯っぽい表情で目を眇めた。
「長嶺が何を企んで、自分の大事なオンナに、お前みたいな男が手を出すのを許したか気になるな」
「わたしは、先生の〈遊び相手〉です。あなたが先生の〈番犬〉であるように、役割を与えられているんです」
「――……長嶺といい、お前といい、食えない奴らだ……」
そう呟いた鷹津が、突然立ち上がる。手首を掴まれたままの和彦も、やむをえず倣う。
「秦との用は済んだ。これからは、俺とお前の用を済ませる時間だ」
鷹津の言葉の意味をよく理解している和彦は、一度だけ肩を震わせる。
約束を取り付けて鷹津と会えば、その後に起こりうることは一つしかないのだ。
なんとか鷹津の手を振り払い、並んで歩きながら振り返る。秦が、嫌味なほど艶やかな笑みで見送っていた。
「長嶺組に、部屋を取らせた」
ロビーを歩きながら、そう言って鷹津がカードキーを見せてくる。何をされるよりも生々しさを感じ、思わず和彦は顔を背ける。そんな和彦を見て、鷹津は鼻を鳴らす。
「――この間、自分に触れたいなら、しっかり働けと言ったんだ。発言に責任を持たないとな、佐伯」
「悪徳刑事が、人並みのことを言うな……」
和彦としては精一杯の毒を吐いたつもりだが、鷹津の耳を素通りしたのか、やけに熱心にカードキーを手の中で弄んでいる。そのくせ、エレベーターの到着を告げる音楽には、素早く反応した。
急に引き返したい気分になったが、それはできない。嫌になるほどヤクザの思考に染まっていると思うが、和彦は、賢吾だけでなく、鷹津の面子のことも考えていた。面子を潰された男は――怖い獣になる。
長嶺組が取ったという部屋は、男二人が寝ても持て余しそうな広いベッドがある、ダブルルームだった。大きな窓から見渡せる風景は感嘆するほどで、この眺望込みで、部屋の料金は安くないだろう。すでにワインまで準備されていた。
この部屋は、鷹津のためというより、和彦のために用意されたようだった。部屋を見回して感じるのは、和彦を安く扱う気はないという意思だ。
「俺は、ホテルの部屋を取ってくれとしか言ってないんだぜ」
ソファにブルゾンを投げ置いた鷹津が口を開く。和彦が見つめると、鷹津は皮肉っぽく唇を歪めた。
「あの組のことだから、それなりの部屋を取ると思ったんだ。それで今日、このホテルに部屋を取ったと連絡が入ったんだが……そのとき、組員がなんと言ったと思う?」
「……さあ」
「さすがに昨日の今日では、スイートルームの予約は無理でした、だと。――大事にされているな。組長のオンナは」
和彦が何も言えないでいると、鷹津はバスルームのほうを指さした。
「シャワーを浴びてこい」
ここまできて鷹津に逆らう気も起きなかった。コートとジャケットをハンガーにかけてから、バスルームに向かう。
バスタオルとバスローブを洗面台のカウンターに並べてから、和彦は鏡を覗き込む。そこには、いつも通りの自分が映っていた。
落ち着いている自分が不思議だった。感情的にはいろいろと複雑で、割り切れないものもあるのだが、逃げ出すことも、抗うこともせず、和彦はここにいる。
意外に自分は、男たちの利害や企みに巻き込まれる今の状況が、性に合っているのかもしれない。そんなことを考えながらも和彦は、ワイシャツのボタンを外していた。
バスタブに入ってシャワーカーテンを引くと、頭から湯を浴びる。
顔を仰向かせ、目を閉じながら、肌を流れ落ちていく湯の感触に意識を傾けていたが、ふと異変に気づく。ハッとして和彦が視線を向けた先に、いつの間にかシャワーカーテンが開いており、鷹津が立っていた。もちろん、何も身につけていない。
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