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第13話
(14)
しおりを挟む怒っていることを隠そうとしない和彦を、賢吾は楽しげに眺めている。横目でちらりと一瞥するたびに、芝居がかったような下卑た笑みを向けてくるぐらいだ。それがまた、腹が立つ。
和彦はキッと賢吾を睨みつけてから、顔を思いきりウィンドーのほうに向けたが、馴れ馴れしく肩に腕が回され、半ば強引に抱き寄せられた。
「先生、怒っているのか?」
耳元に顔が寄せられ、囁かれる。あごに手がかかると、力を込められるのが怖くて、結局和彦はまた、賢吾を見た。機嫌を取るように、優しく唇を吸われる。
ここが移動中の車の後部座席だということを、もちろん賢吾は気にしていない。運転席と助手席には組員たちが座っているが、完璧に存在感を消している。必要がない限り、振り返ることも、声をかけてくることもない。
彼らに賢吾とのやり取りを見聞きされることに、和彦はもう慣れていた。しかし、今日は別だ。つい三十分ほど前まで、自分と賢吾が何をしていたか、誰にも知られたくなかった。一応和彦にも、人間として最低限の慎みはあるのだ。
「……頼むから、余計なことを言うな」
和彦が声を潜めて言うと、賢吾は嬉しそうに口元に笑みを刻む。この笑みがまた、性質が悪い。実に物騒に見えるのだ。
「俺相手に、余計なことを言うなとは、大した度胸だな、先生」
「度胸の問題じゃない。恥じらいの問題だっ」
「恥じらい……。そそる言葉だな。特に、さっき俺の腕の中で――」
和彦は、慌てて賢吾の口を手で塞ぐ。それでも賢吾は、目を細めるようにして笑いかけてくる。ムキになる和彦の反応が、楽しくてたまらないらしい。
口を塞いだ手を除けられ、しっかりと賢吾の胸に抱き寄せられる。仕立てのいいダークスーツに包まれた体は、いつになく近寄りがたさを放っており、触れることにためらいを覚えるが、逆らえない。すっかり抵抗する気が失せた和彦は、おとなしく身を任せる。
ヤクザという人種が黒を身にまとったときの迫力は、圧倒的だ。静かな佇まいである分、底知れない闇を感じさせる。
本宅で、着替えた賢吾を見たとき、和彦はその迫力に呑まれ、すぐには声が出せなかったぐらいだ。
特別な行事があると思わせるダークスーツを着た賢吾だが、こうして車に乗っていても、いまだに理由を教えてくれない。なぜ、自分まで連れて行かれているのかも、もちろん和彦は知らない。
たまらなく体がだるくて、出かけるどころか、横になって休みたかったぐらいだが、嫌だという暇すら与えられなかった。
振り回されるのはいつものことかと、ふっと息を吐き出した和彦は、おずおずと賢吾の肩に頭をのせる。すると、賢吾にきつく片手を握り締められた。
その感触にわずかに体が熱くなる。同時に、腰が疼いた。和彦の体の変化を感じ取ったのか、肩にかかった賢吾の手に、あごを掬い上げられる。咄嗟に顔を背けたかったが、射竦めるように強い眼差しを向けられると、体が動かない。次の瞬間には、しっとりと唇が重なってきた。
さきほどまでの、朝とは思えないぐらい濃厚な交わりは、和彦だけでなく、賢吾もまだ高ぶらせているようだった。
「――先生、舌を吸わせろ」
傲慢に命令された和彦は、言われるまま舌を差し出し、賢吾にじっくりと舐られる。
「んっ……」
鼻にかかった声を洩らしたあと和彦は、緩やかに賢吾と舌を絡め合う。握っていた手を離した賢吾は、ためらう様子もなく和彦の両足の中心をまさぐってきた。また腰が疼き、座っているのもつらくなるほど、下肢に力が入らなくなる。
それほど、さきほどまでの賢吾の攻めは激しくて、執拗だった。狂おしいほどの快感を、和彦に与えてきたのだ。
和彦の敏感なものを、賢吾は手慰みのようにスラックスの上から揉みしだき始める。和彦はビクビクと腰を震わせながら、懸命に賢吾の手を押し退けようとする。
「やめろっ……。人を、歩けなくする気か……」
「歩けなくなったら、俺が抱きかかえてやる」
「……絶対、嫌だ」
和彦が気丈に睨みつけると、賢吾は満足したように表情を和らげ、軽く唇を吸い上げてきた。
「涙目でそういうことを言うのが、たまらないな、先生」
「やっぱりあんたは、性癖に問題がありすぎる」
「だが、そういう俺に攻められると、感じるだろ? ――泣きじゃくるほど」
最後の言葉は、耳に唇を押し当てて注ぎ込まれた。ここで和彦は限界となり、賢吾にしがみつく。まるで子供をあやすように、賢吾は和彦の背を何度も撫でる。
和彦は、さきほどまでの自分の痴態を、嫌でも思い出してしまう。
眠っているところを叩き起こされるようにして賢吾に求められ、繋がり、快感を貪り合った。そのうえ賢吾は貪欲に、快感で追い詰めてきたのだ。
ぐったりとした和彦は、賢吾に抱えられて風呂場に連れて行かれ、そこでさらに求められて、賢吾の逞しいものを受け入れた。
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