血と束縛と

北川とも

文字の大きさ
上 下
234 / 1,268
第12話

(17)

しおりを挟む
 ふんぞり返るように足を組んだ鷹津に、さらに肩を抱き寄せられる。油断ならない男の手は、和彦が着ている大きめのセーターの下に入り込んできた。
「俺は昔、ある組から当てがわれた女と寝ている最中に、組員に踏み込まれたことがある」
 和彦は思わず、鷹津の横顔をまじまじと見つめてしまう。悪徳刑事だとわかってはいるのだが、こうして本人の口から聞かされると、やはり得体の知れなさを感じる。
「……ヤクザに踏み込まれるのは経験済みということか」
「美人局というやつだな。組員の女に手を出したということで、俺に因縁をつける気だったらしい。が、盛り上がっている最中を邪魔されて、俺は機嫌が悪かった。それで――どうしたと思う?」
 ニヤリと笑いかけてきた鷹津の手に、素肌の脇腹を撫でられる。嫌な予感を感じた和彦は、答える気がないと顔を背けたが、かまわず鷹津は耳元に唇を寄せてきて、嬉々とした口調で言った。
「ヤクザが見ている中、女の口に銃口を突っ込んで、最後までヤッたんだ。あのときの女の締まりはなかなかだった」
「――下衆」
「他の奴に言われたら、顔の形がわからなくなるほどぶん殴ってやるところだが、お前にそう言われるのは、ゾクゾクする」
 鷹津の手が無遠慮にセーターの下で蠢き、胸元を這い回る。指先に胸の突起を捉えられ、和彦はビクリと体を震わせた。
「俺の弱みを握って、俺を潰そうとする奴はいくらでもいた。そのたびに俺は、容赦しなかった。それ以上の弱みを握って、屈辱を与えて、クズどもを黙らせてきた。それが通じなかったのは――」
「長嶺組長だけ、か」
「えげつない男だからな、あれは。お前だって骨身に染みてそれがわかってるから、今みたいな暮らしをしてるんだろ」
 賢吾は、鷹津に一体何をして、一時的とはいえ暴力団対策の前線から追い払ったのか、いまだにわからない。予測もつかない。知りたい気持ちは確かにあるが、知ってしまえば、これまで以上に賢吾を恐れるようになるだろう。あの男は、和彦にそんな反応は望んでいない。
「長嶺が俺に何をしたか、知りたいか?」
 和彦の耳朶を舌先で弄りながら、鷹津が囁いてくる。その間も、胸の突起は刺激され、否応なく硬く凝る。その敏感な尖りを楽しむように、鷹津の指先に転がされていた。和彦は微かに声を洩らす。
「……別に。あんたの過去に興味はない」
「賢い奴だな。危険な蛇の尾を踏まないよう、余計なことは耳に入れたくないってことか」
「サソリの尾だって踏みたくない。あんたも、長嶺組長も、物騒すぎるんだ」
「俺は物騒じゃないだろ。あんなに丁寧にお前を抱いてやったんだ。けっこう、紳士なつもりだぜ」
 言葉とは裏腹に、和彦の体はソファに押し倒され、傲慢に鷹津がのしかかってくる。きつい眼差しを向けると、それ以上の眼差しの鋭さで言われた。
「あまり、俺と長嶺を同類で語るなよ。同じ悪党ではあっても、俺とあいつは敵対関係であることに変わりはない。手を組む気はないし、あいつのために何かしてやろうなんて気は、毛頭ない」
 鷹津にセーターをたくし上げられる。ごつごつとした両てのひらに荒々しく胸をまさぐられ、和彦はソファの上で軽く仰け反っていた。
「だが、長嶺のオンナ相手なら、話は別だ。俺にも身を任せてくれた可愛いオンナの頼みなら、聞いてやる。上手く俺を使えよ。――あの長嶺のオンナってだけで、お前は一部の人間にとっては美味しい存在なんだ。それどころかお前本人も……いろいろあるだろ?」
 間近に顔を寄せ、鷹津が意味ありげに囁いてくる。和彦は睨みつけてから顔を背けた。
「……別に」
「ヤクザと刑事、使い分けることだな。知りたいこと、困ったことがあれば、手を貸してやる。たとえ長嶺経由の頼まれごとだとしても、お前の口から頼まれればな。長嶺と馴れ合う気はないが、あの男あってのお前だ。多少の不愉快さは仕方ない」
「それはこっちの台詞だ」
 耳元で、鷹津が低く笑い声を洩らす。次の瞬間、首筋を熱い舌で舐め上げられた。嫌悪感とも疼きとも取れる感覚が背筋を駆け抜け、和彦は鷹津の下から抜け出そうとする。
「そんな気分じゃない。ぼくに触るなっ……」
「そう言うな。俺はご褒美を期待して、仕事中だというのにこうして会いに来てやったんだ」
 胸の突起を両てのひらで捏ねるように転がされ、手荒くまさぐられる。かと思えば、ふいに指で挟まれてから、軽く引っ張られていた。
 和彦の胸の突起を執拗に弄りながら、鷹津が真上から見下ろしてくる。わずかに息を弾ませて和彦が睨みつけると、サソリの例えがよく似合う男は、薄ら寒くなるような笑みを浮かべた。
「――ゾクゾクするな。お前みたいな色男が、俺のものかと思うと」

しおりを挟む
感想 80

あなたにおすすめの小説

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

朝起きたら幼なじみと番になってた。

オクラ粥
BL
寝ぼけてるのかと思った。目が覚めて起き上がると全身が痛い。 隣には昨晩一緒に飲みにいった幼なじみがすやすや寝ていた 思いつきの書き殴り オメガバースの設定をお借りしてます

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

処理中です...