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第12話
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さすがの和彦も返事ができないでいると、千尋が恨みがましい目で見つめてくる。和彦は苦し紛れに、もう一度千尋の頬を軽く抓った。
「そういうことを聞くのは、はしたないぞ、お前」
「……俺、難しい言葉わかんない」
「ウソを言えっ」
広いベッドの上で千尋と揉み合う――というより、じゃれ合っていると、柔らかなバリトンが割って入った。
「仲がいいな、二人とも。母犬に、子犬がじゃれついているみたいだ」
ベッドの上をころりと転がった和彦は、ドアのほうに視線を向ける。薄い笑みを浮かべた賢吾が立っていた。
「誰が、母犬だ」
「絶妙な例えだと思うが」
ゆったりとした足取りで賢吾が歩み寄ってきて、ベッドに腰掛ける。見下ろされるのもなんだか嫌なので、賢吾の手を借りて和彦は起き上がる。すかさず、背後からぴったりと千尋が抱きついてきた。
その姿を見て、賢吾は低く声を洩らして笑う。
「やっぱり仲がいいな」
「好きに言ってくれ……」
寝乱れた髪を掻き上げた和彦は、気になっていることを率直に賢吾に尋ねた。
「……鷹津は、どうしたんだ……?」
「気になるか?」
賢吾から意味ありなげな眼差しを向けられ、反射的に顔を背ける。
「あの男は刑事だ。何かあったら、ぼくが危ないだろ」
「先生が心配するようなことにはなってない。なんといっても、先生の新しい番犬だ。大事にしてやる必要はないが、下手に扱うと、噛み付かれるからな。この先、しっかり躾けてくれよ」
賢吾の手があごにかかり、正面を向かされる。ベッドに乗りあがってきた賢吾の顔が間近に迫り、傲慢に唇を塞がれた。
痛いほど強く唇を吸われてから、差し込まれた舌で口腔を舐め回される。まるで、鷹津の名残りを消そうとしているかのようだと思ったとき、あごに手がかかって振り向かされ、口づけの相手は千尋に変わった。
すると、賢吾にTシャツをたくし上げられ、素肌を撫でられる。反射的に和彦は身を捩ろうとしていた。
「あの男に可愛がられた体を見られるのは嫌か、先生? この間、鷹津に汚されたときも、俺から体を隠そうとしていただろ」
バリトンの声を際立たせるように囁きながら、賢吾の唇が首筋に這わされる。
賢吾の言葉通り、鷹津に好きに扱われたばかりの体を、今は誰にも見られたくなかったし、触れられたくなかった。自分の淫弄さをよく知っているからこそ、他人にそう指摘されることが、たまらなく苦痛なときがある。今がそのときなのかもしれない。
もっとも、大蛇の化身のような男は、和彦のそんな繊細な部分を弄ぶことを望むだろう。その証拠に、柔らかな笑いを含んだ声で、こう言うのだ。
「――……先生が嫌がるからこそ、見て、触れたいんだ。誰に抱かれようが、先生は俺〈たち〉にとって大事なオンナだ。後ろめたさも屈辱も感じる必要はないと、そうしっかりと教えてやるのは、義務みたいなもんだ。それに先生は、自分で選んだんだろ。――鷹津を飼うと」
賢吾の言葉に反応して、和彦は眼差しに力を込める。唇を重ねている千尋と間近で目が合うと、父親には劣るものの、剣呑とした笑みを向けられた。
「先生、怖い目」
「ウソだ。ぼくは、そんな目はできない」
「だったら、ゾクゾクするほど色っぽい目、って言い直そうか?」
そう言って千尋の唇が目元に押し当てられる。
こいつのどこが子犬なのかと、和彦は軽い腹立たしさを覚えながら、千尋の頬をまた抓り上げる。千尋は痛がる素振りを見せるどころか、くすぐったそうに首をすくめて笑い、和彦の唇を啄ばんでくる。
一方の賢吾は、和彦が穿いているスウェットパンツに手をかけ、下着ごと脱がせ始めた。
「待てっ……、本気かっ」
慌てる和彦に対し、賢吾はニヤリと笑いかけてくる。
「――怯えなくていい。お前は、俺と千尋のオンナなんだから、素直に体を任せればいい」
怖いほど甘い面を見せることもある賢吾だが、やはりこういう物言いをされると、背筋に冷たいものが駆け抜ける。図体の大きな子犬のような千尋は平気でも、賢吾には、逆らえない。
体を強張らせる和彦を宥めるように、千尋が背後から抱き締めてくる。その千尋の腕に手をかけながら、和彦は賢吾を睨みつけた。
「そういう気分じゃないんだ。相手はしないからな」
「もちろん。俺たちはただ、先生の体を心配しているだけだ」
ヌケヌケと言い放った賢吾に下肢を剥かれ、Tシャツは千尋に脱がされる。
大きなベッドの上に三人の男が乗り、何も身につけていないのは和彦だけだ。これがどれだけ心細いか、この男たちに説明するだけ無駄だろう。
「……甘い言葉を囁きながら、ひどいことをするのが、ヤクザだったな」
「そういうことを聞くのは、はしたないぞ、お前」
「……俺、難しい言葉わかんない」
「ウソを言えっ」
広いベッドの上で千尋と揉み合う――というより、じゃれ合っていると、柔らかなバリトンが割って入った。
「仲がいいな、二人とも。母犬に、子犬がじゃれついているみたいだ」
ベッドの上をころりと転がった和彦は、ドアのほうに視線を向ける。薄い笑みを浮かべた賢吾が立っていた。
「誰が、母犬だ」
「絶妙な例えだと思うが」
ゆったりとした足取りで賢吾が歩み寄ってきて、ベッドに腰掛ける。見下ろされるのもなんだか嫌なので、賢吾の手を借りて和彦は起き上がる。すかさず、背後からぴったりと千尋が抱きついてきた。
その姿を見て、賢吾は低く声を洩らして笑う。
「やっぱり仲がいいな」
「好きに言ってくれ……」
寝乱れた髪を掻き上げた和彦は、気になっていることを率直に賢吾に尋ねた。
「……鷹津は、どうしたんだ……?」
「気になるか?」
賢吾から意味ありなげな眼差しを向けられ、反射的に顔を背ける。
「あの男は刑事だ。何かあったら、ぼくが危ないだろ」
「先生が心配するようなことにはなってない。なんといっても、先生の新しい番犬だ。大事にしてやる必要はないが、下手に扱うと、噛み付かれるからな。この先、しっかり躾けてくれよ」
賢吾の手があごにかかり、正面を向かされる。ベッドに乗りあがってきた賢吾の顔が間近に迫り、傲慢に唇を塞がれた。
痛いほど強く唇を吸われてから、差し込まれた舌で口腔を舐め回される。まるで、鷹津の名残りを消そうとしているかのようだと思ったとき、あごに手がかかって振り向かされ、口づけの相手は千尋に変わった。
すると、賢吾にTシャツをたくし上げられ、素肌を撫でられる。反射的に和彦は身を捩ろうとしていた。
「あの男に可愛がられた体を見られるのは嫌か、先生? この間、鷹津に汚されたときも、俺から体を隠そうとしていただろ」
バリトンの声を際立たせるように囁きながら、賢吾の唇が首筋に這わされる。
賢吾の言葉通り、鷹津に好きに扱われたばかりの体を、今は誰にも見られたくなかったし、触れられたくなかった。自分の淫弄さをよく知っているからこそ、他人にそう指摘されることが、たまらなく苦痛なときがある。今がそのときなのかもしれない。
もっとも、大蛇の化身のような男は、和彦のそんな繊細な部分を弄ぶことを望むだろう。その証拠に、柔らかな笑いを含んだ声で、こう言うのだ。
「――……先生が嫌がるからこそ、見て、触れたいんだ。誰に抱かれようが、先生は俺〈たち〉にとって大事なオンナだ。後ろめたさも屈辱も感じる必要はないと、そうしっかりと教えてやるのは、義務みたいなもんだ。それに先生は、自分で選んだんだろ。――鷹津を飼うと」
賢吾の言葉に反応して、和彦は眼差しに力を込める。唇を重ねている千尋と間近で目が合うと、父親には劣るものの、剣呑とした笑みを向けられた。
「先生、怖い目」
「ウソだ。ぼくは、そんな目はできない」
「だったら、ゾクゾクするほど色っぽい目、って言い直そうか?」
そう言って千尋の唇が目元に押し当てられる。
こいつのどこが子犬なのかと、和彦は軽い腹立たしさを覚えながら、千尋の頬をまた抓り上げる。千尋は痛がる素振りを見せるどころか、くすぐったそうに首をすくめて笑い、和彦の唇を啄ばんでくる。
一方の賢吾は、和彦が穿いているスウェットパンツに手をかけ、下着ごと脱がせ始めた。
「待てっ……、本気かっ」
慌てる和彦に対し、賢吾はニヤリと笑いかけてくる。
「――怯えなくていい。お前は、俺と千尋のオンナなんだから、素直に体を任せればいい」
怖いほど甘い面を見せることもある賢吾だが、やはりこういう物言いをされると、背筋に冷たいものが駆け抜ける。図体の大きな子犬のような千尋は平気でも、賢吾には、逆らえない。
体を強張らせる和彦を宥めるように、千尋が背後から抱き締めてくる。その千尋の腕に手をかけながら、和彦は賢吾を睨みつけた。
「そういう気分じゃないんだ。相手はしないからな」
「もちろん。俺たちはただ、先生の体を心配しているだけだ」
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大きなベッドの上に三人の男が乗り、何も身につけていないのは和彦だけだ。これがどれだけ心細いか、この男たちに説明するだけ無駄だろう。
「……甘い言葉を囁きながら、ひどいことをするのが、ヤクザだったな」
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