血と束縛と

北川とも

文字の大きさ
上 下
225 / 1,268
第12話

(8)

しおりを挟む
 さすがの和彦も返事ができないでいると、千尋が恨みがましい目で見つめてくる。和彦は苦し紛れに、もう一度千尋の頬を軽く抓った。
「そういうことを聞くのは、はしたないぞ、お前」
「……俺、難しい言葉わかんない」
「ウソを言えっ」
 広いベッドの上で千尋と揉み合う――というより、じゃれ合っていると、柔らかなバリトンが割って入った。
「仲がいいな、二人とも。母犬に、子犬がじゃれついているみたいだ」
 ベッドの上をころりと転がった和彦は、ドアのほうに視線を向ける。薄い笑みを浮かべた賢吾が立っていた。
「誰が、母犬だ」
「絶妙な例えだと思うが」
 ゆったりとした足取りで賢吾が歩み寄ってきて、ベッドに腰掛ける。見下ろされるのもなんだか嫌なので、賢吾の手を借りて和彦は起き上がる。すかさず、背後からぴったりと千尋が抱きついてきた。
 その姿を見て、賢吾は低く声を洩らして笑う。
「やっぱり仲がいいな」
「好きに言ってくれ……」
 寝乱れた髪を掻き上げた和彦は、気になっていることを率直に賢吾に尋ねた。
「……鷹津は、どうしたんだ……?」
「気になるか?」
 賢吾から意味ありなげな眼差しを向けられ、反射的に顔を背ける。
「あの男は刑事だ。何かあったら、ぼくが危ないだろ」
「先生が心配するようなことにはなってない。なんといっても、先生の新しい番犬だ。大事にしてやる必要はないが、下手に扱うと、噛み付かれるからな。この先、しっかり躾けてくれよ」
 賢吾の手があごにかかり、正面を向かされる。ベッドに乗りあがってきた賢吾の顔が間近に迫り、傲慢に唇を塞がれた。
 痛いほど強く唇を吸われてから、差し込まれた舌で口腔を舐め回される。まるで、鷹津の名残りを消そうとしているかのようだと思ったとき、あごに手がかかって振り向かされ、口づけの相手は千尋に変わった。
 すると、賢吾にTシャツをたくし上げられ、素肌を撫でられる。反射的に和彦は身を捩ろうとしていた。
「あの男に可愛がられた体を見られるのは嫌か、先生? この間、鷹津に汚されたときも、俺から体を隠そうとしていただろ」
 バリトンの声を際立たせるように囁きながら、賢吾の唇が首筋に這わされる。
 賢吾の言葉通り、鷹津に好きに扱われたばかりの体を、今は誰にも見られたくなかったし、触れられたくなかった。自分の淫弄さをよく知っているからこそ、他人にそう指摘されることが、たまらなく苦痛なときがある。今がそのときなのかもしれない。
 もっとも、大蛇の化身のような男は、和彦のそんな繊細な部分を弄ぶことを望むだろう。その証拠に、柔らかな笑いを含んだ声で、こう言うのだ。
「――……先生が嫌がるからこそ、見て、触れたいんだ。誰に抱かれようが、先生は俺〈たち〉にとって大事なオンナだ。後ろめたさも屈辱も感じる必要はないと、そうしっかりと教えてやるのは、義務みたいなもんだ。それに先生は、自分で選んだんだろ。――鷹津を飼うと」
 賢吾の言葉に反応して、和彦は眼差しに力を込める。唇を重ねている千尋と間近で目が合うと、父親には劣るものの、剣呑とした笑みを向けられた。
「先生、怖い目」
「ウソだ。ぼくは、そんな目はできない」
「だったら、ゾクゾクするほど色っぽい目、って言い直そうか?」
 そう言って千尋の唇が目元に押し当てられる。
 こいつのどこが子犬なのかと、和彦は軽い腹立たしさを覚えながら、千尋の頬をまた抓り上げる。千尋は痛がる素振りを見せるどころか、くすぐったそうに首をすくめて笑い、和彦の唇を啄ばんでくる。
 一方の賢吾は、和彦が穿いているスウェットパンツに手をかけ、下着ごと脱がせ始めた。
「待てっ……、本気かっ」
 慌てる和彦に対し、賢吾はニヤリと笑いかけてくる。
「――怯えなくていい。お前は、俺と千尋のオンナなんだから、素直に体を任せればいい」
 怖いほど甘い面を見せることもある賢吾だが、やはりこういう物言いをされると、背筋に冷たいものが駆け抜ける。図体の大きな子犬のような千尋は平気でも、賢吾には、逆らえない。
 体を強張らせる和彦を宥めるように、千尋が背後から抱き締めてくる。その千尋の腕に手をかけながら、和彦は賢吾を睨みつけた。
「そういう気分じゃないんだ。相手はしないからな」
「もちろん。俺たちはただ、先生の体を心配しているだけだ」
 ヌケヌケと言い放った賢吾に下肢を剥かれ、Tシャツは千尋に脱がされる。
 大きなベッドの上に三人の男が乗り、何も身につけていないのは和彦だけだ。これがどれだけ心細いか、この男たちに説明するだけ無駄だろう。
「……甘い言葉を囁きながら、ひどいことをするのが、ヤクザだったな」

しおりを挟む
感想 80

あなたにおすすめの小説

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

処理中です...