血と束縛と

北川とも

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第12話

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「だが、皮肉なもんだな。そんな俺たちでも、体の相性は抜群にいい。俺は、お前の体は好きだぜ。抱いていて、最高に楽しめるし、感じる」
「あんたがそうだからといって、ぼくも同じだと考えるな。――あんたは、そこそこ、だ」
「ほお、そこそこ、か」
 鷹津にベッドに押し付けられ、唇と舌を貪られながら、下肢に荒々しい愛撫を施される。
 苦痛ではなく、快感を与えられ続けているが、さすがに体力の限界が近い。本当に自分の足でベッドから出られなくなる危惧さえ抱き、和彦は必死に身を捩り、鷹津も本気でなかったこともあり、なんとかベッドから転がり出る。
「ぼくは喉が渇いているんだっ」
 和彦が声を荒らげると、ニヤニヤと笑いながら鷹津が手を振る。
「冷蔵庫にボトルが入っている。水を飲んだらベッドに戻ってこい。俺がメシを買いに行っている間、お前に手錠をかけておく」
 手早くパンツを穿いた和彦は、鷹津に頷いて見せた。
「……ああ、わかった」
 キッチンに行き、冷蔵庫からボトルを取り出すと、水をグラスに注ぐ。冷たい水を一気に飲み干してから、もう一杯飲む。
 あまりにだるくて、ダイニングのイスに腰掛けたかったが、そうのんびりとできる余裕はない。和彦にはやることがあった。
 足音を殺して玄関に向かい、そっとチェーンを外してから、ドアの鍵を開ける。それだけだ。
 隣の部屋に戻ると、鷹津は仰向けで目を閉じていた。和彦はベッドの端に腰掛け、そんな鷹津の顔を覗き込む。
「どうした?」
「シャワーを浴びたい」
「……オンナってのは、けっこう手がかかるもんなんだな」
 本気で殴ってやろうかと思ったが、和彦はぐっと我慢する。
「体がベタベタして気持ち悪いんだ」
「シャワーを浴びたところで、またすぐ同じ状態になるだろ」
「それでもいい。気持ちの問題だ」
 ようやく目を開けた鷹津が、じっと見つめてくる。わずかに心臓の鼓動が速くなるのを感じながら、和彦も見つめ返す。
 鷹津は億劫そうにダイニングのほうを指で示した。
「バスルームはわかるだろ。トイレの向かいだ。必要なものは、探すなりして好きに使え」
 和彦はすぐに立ち上がろうとしたが、その前に鷹津に引き寄せられ、たっぷり濃厚な口づけを交わす。
 意外な感じがするが、鷹津は口づけが上手いだけではなく、口づけを交わすのが好きらしい。
 やっと解放された和彦は、覚束ない足をなんとか叱咤してバスルームに向かう。
 脱衣所を仕切る厚いカーテンを閉めると、コックを捻って湯を出す。ただし和彦は、服も脱がずにバスルームで息を潜めていた。
 五分ほど経って、異変を感じた。何人かの足音と、人の話し声が聞こえてきたのだ。だが、心配したような荒っぽい気配は感じなかった。
「――先生、大丈夫ですか」
 カーテンの向こうから声をかけられる。和彦はすぐにシャワーを止めてバスルームを出た。カーテンを開けると、長嶺組の組員が立っていた。
 頷くと、速やかに促されて鷹津の部屋を連れ出される。このとき、鷹津がいる部屋をちらりと見たが、数人の組員がいたようだ。
 こんな表現も変だが、無事に鷹津の身柄を押さえたらしい。
 ただ押さえただけではない。組長のオンナを〈乱暴した〉現場に、よりによって組員たちが踏み込んできたのだ。床の上にはまだ、和彦を拘束したときに使った手錠が落ちている。これ以上ない状況証拠といえるだろう。
 組員たちに囲まれて、あの鷹津がどう立ち回るのか見てみたい気もするが、さすがに和彦の体力も気力も、もう限界だ。
 組員に守られて通路を歩きながら、和彦は吐息を洩らす。
 自分に与えられた仕事を果たし終えた安堵の気持ちと、激しく濃厚な行為の余韻から出た吐息だった。

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