223 / 1,268
第12話
(6)
しおりを挟む
「だが、皮肉なもんだな。そんな俺たちでも、体の相性は抜群にいい。俺は、お前の体は好きだぜ。抱いていて、最高に楽しめるし、感じる」
「あんたがそうだからといって、ぼくも同じだと考えるな。――あんたは、そこそこ、だ」
「ほお、そこそこ、か」
鷹津にベッドに押し付けられ、唇と舌を貪られながら、下肢に荒々しい愛撫を施される。
苦痛ではなく、快感を与えられ続けているが、さすがに体力の限界が近い。本当に自分の足でベッドから出られなくなる危惧さえ抱き、和彦は必死に身を捩り、鷹津も本気でなかったこともあり、なんとかベッドから転がり出る。
「ぼくは喉が渇いているんだっ」
和彦が声を荒らげると、ニヤニヤと笑いながら鷹津が手を振る。
「冷蔵庫にボトルが入っている。水を飲んだらベッドに戻ってこい。俺がメシを買いに行っている間、お前に手錠をかけておく」
手早くパンツを穿いた和彦は、鷹津に頷いて見せた。
「……ああ、わかった」
キッチンに行き、冷蔵庫からボトルを取り出すと、水をグラスに注ぐ。冷たい水を一気に飲み干してから、もう一杯飲む。
あまりにだるくて、ダイニングのイスに腰掛けたかったが、そうのんびりとできる余裕はない。和彦にはやることがあった。
足音を殺して玄関に向かい、そっとチェーンを外してから、ドアの鍵を開ける。それだけだ。
隣の部屋に戻ると、鷹津は仰向けで目を閉じていた。和彦はベッドの端に腰掛け、そんな鷹津の顔を覗き込む。
「どうした?」
「シャワーを浴びたい」
「……オンナってのは、けっこう手がかかるもんなんだな」
本気で殴ってやろうかと思ったが、和彦はぐっと我慢する。
「体がベタベタして気持ち悪いんだ」
「シャワーを浴びたところで、またすぐ同じ状態になるだろ」
「それでもいい。気持ちの問題だ」
ようやく目を開けた鷹津が、じっと見つめてくる。わずかに心臓の鼓動が速くなるのを感じながら、和彦も見つめ返す。
鷹津は億劫そうにダイニングのほうを指で示した。
「バスルームはわかるだろ。トイレの向かいだ。必要なものは、探すなりして好きに使え」
和彦はすぐに立ち上がろうとしたが、その前に鷹津に引き寄せられ、たっぷり濃厚な口づけを交わす。
意外な感じがするが、鷹津は口づけが上手いだけではなく、口づけを交わすのが好きらしい。
やっと解放された和彦は、覚束ない足をなんとか叱咤してバスルームに向かう。
脱衣所を仕切る厚いカーテンを閉めると、コックを捻って湯を出す。ただし和彦は、服も脱がずにバスルームで息を潜めていた。
五分ほど経って、異変を感じた。何人かの足音と、人の話し声が聞こえてきたのだ。だが、心配したような荒っぽい気配は感じなかった。
「――先生、大丈夫ですか」
カーテンの向こうから声をかけられる。和彦はすぐにシャワーを止めてバスルームを出た。カーテンを開けると、長嶺組の組員が立っていた。
頷くと、速やかに促されて鷹津の部屋を連れ出される。このとき、鷹津がいる部屋をちらりと見たが、数人の組員がいたようだ。
こんな表現も変だが、無事に鷹津の身柄を押さえたらしい。
ただ押さえただけではない。組長のオンナを〈乱暴した〉現場に、よりによって組員たちが踏み込んできたのだ。床の上にはまだ、和彦を拘束したときに使った手錠が落ちている。これ以上ない状況証拠といえるだろう。
組員たちに囲まれて、あの鷹津がどう立ち回るのか見てみたい気もするが、さすがに和彦の体力も気力も、もう限界だ。
組員に守られて通路を歩きながら、和彦は吐息を洩らす。
自分に与えられた仕事を果たし終えた安堵の気持ちと、激しく濃厚な行為の余韻から出た吐息だった。
「あんたがそうだからといって、ぼくも同じだと考えるな。――あんたは、そこそこ、だ」
「ほお、そこそこ、か」
鷹津にベッドに押し付けられ、唇と舌を貪られながら、下肢に荒々しい愛撫を施される。
苦痛ではなく、快感を与えられ続けているが、さすがに体力の限界が近い。本当に自分の足でベッドから出られなくなる危惧さえ抱き、和彦は必死に身を捩り、鷹津も本気でなかったこともあり、なんとかベッドから転がり出る。
「ぼくは喉が渇いているんだっ」
和彦が声を荒らげると、ニヤニヤと笑いながら鷹津が手を振る。
「冷蔵庫にボトルが入っている。水を飲んだらベッドに戻ってこい。俺がメシを買いに行っている間、お前に手錠をかけておく」
手早くパンツを穿いた和彦は、鷹津に頷いて見せた。
「……ああ、わかった」
キッチンに行き、冷蔵庫からボトルを取り出すと、水をグラスに注ぐ。冷たい水を一気に飲み干してから、もう一杯飲む。
あまりにだるくて、ダイニングのイスに腰掛けたかったが、そうのんびりとできる余裕はない。和彦にはやることがあった。
足音を殺して玄関に向かい、そっとチェーンを外してから、ドアの鍵を開ける。それだけだ。
隣の部屋に戻ると、鷹津は仰向けで目を閉じていた。和彦はベッドの端に腰掛け、そんな鷹津の顔を覗き込む。
「どうした?」
「シャワーを浴びたい」
「……オンナってのは、けっこう手がかかるもんなんだな」
本気で殴ってやろうかと思ったが、和彦はぐっと我慢する。
「体がベタベタして気持ち悪いんだ」
「シャワーを浴びたところで、またすぐ同じ状態になるだろ」
「それでもいい。気持ちの問題だ」
ようやく目を開けた鷹津が、じっと見つめてくる。わずかに心臓の鼓動が速くなるのを感じながら、和彦も見つめ返す。
鷹津は億劫そうにダイニングのほうを指で示した。
「バスルームはわかるだろ。トイレの向かいだ。必要なものは、探すなりして好きに使え」
和彦はすぐに立ち上がろうとしたが、その前に鷹津に引き寄せられ、たっぷり濃厚な口づけを交わす。
意外な感じがするが、鷹津は口づけが上手いだけではなく、口づけを交わすのが好きらしい。
やっと解放された和彦は、覚束ない足をなんとか叱咤してバスルームに向かう。
脱衣所を仕切る厚いカーテンを閉めると、コックを捻って湯を出す。ただし和彦は、服も脱がずにバスルームで息を潜めていた。
五分ほど経って、異変を感じた。何人かの足音と、人の話し声が聞こえてきたのだ。だが、心配したような荒っぽい気配は感じなかった。
「――先生、大丈夫ですか」
カーテンの向こうから声をかけられる。和彦はすぐにシャワーを止めてバスルームを出た。カーテンを開けると、長嶺組の組員が立っていた。
頷くと、速やかに促されて鷹津の部屋を連れ出される。このとき、鷹津がいる部屋をちらりと見たが、数人の組員がいたようだ。
こんな表現も変だが、無事に鷹津の身柄を押さえたらしい。
ただ押さえただけではない。組長のオンナを〈乱暴した〉現場に、よりによって組員たちが踏み込んできたのだ。床の上にはまだ、和彦を拘束したときに使った手錠が落ちている。これ以上ない状況証拠といえるだろう。
組員たちに囲まれて、あの鷹津がどう立ち回るのか見てみたい気もするが、さすがに和彦の体力も気力も、もう限界だ。
組員に守られて通路を歩きながら、和彦は吐息を洩らす。
自分に与えられた仕事を果たし終えた安堵の気持ちと、激しく濃厚な行為の余韻から出た吐息だった。
44
お気に入りに追加
1,391
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
インテリヤクザは子守りができない
タタミ
BL
とある事件で大学を中退した初瀬岳は、極道の道へ進みわずか5年で兼城組の若頭にまで上り詰めていた。
冷酷非道なやり口で出世したものの不必要に凄惨な報復を繰り返した結果、組長から『人間味を学べ』という名目で組のシマで立ちんぼをしていた少年・皆木冬馬の教育を任されてしまう。
なんでも性接待で物事を進めようとするバカな冬馬を煙たがっていたが、小学生の頃に親に捨てられ字もろくに読めないとわかると、徐々に同情という名の情を抱くようになり……──

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる