血と束縛と

北川とも

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第12話

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 歯止めを失ったように、和彦は鷹津と何度となく口づけを交わす。それだけでなく、離れていることが不自然だといわんばかりに体を繋げていた。
 鷹津は貪欲だった。自分の欲望のままに和彦を振り回し、もう無理だと訴えようが、強引な愛撫で快感を引きずり出し、己の欲望を打ち込んでくる。絶えず鷹津に求められているような状態で、睡眠を取ったのかどうか、和彦自身、わからなくなっていた。
 鷹津の汗と唾液と精が、体中に滲み込んだようだと、体を横向きにした和彦は、ぼんやりと考える。このとき、ベッドに投げ出した自分の腕が目に入り、片手で手首を撫でる。すぐに外された手錠だが、それまでにさんざん引っ張ったりしたため、しっかり赤い跡が残っていた。
 鼻先を掠めていた煙草の煙がいつの間にか消え、背後から逞しい腕に抱き締められる。肩先に不精ひげの生えたあごが擦りつけられてから、唇が押し当てられた。
 腕の中の〈オンナ〉は自分のものだと、その行為が物語っている。和彦は少しだけ、鷹津の態度が気に障った。
「――……組長が、あんたのことをよくサソリに例えるんだ」
 和彦がぽつりと洩らすと、あごに手がかかる。上体を捻るようにして振り返った途端、鷹津に唇を塞がれた。煙草の苦みが残る舌が口腔に差し込まれ、和彦のほうから柔らかく吸ってやる。
 微かに濡れた音を立てて唇を離すと、改めて鷹津の顔を見つめる。ただ獣のように求め合う行為を繰り返しているうちに、いつの間にか鷹津の髪は乱れ、オールバックにしていた前髪も落ちている。髪型を変えるだけで、いくらか胡散臭さが薄まって見えた。
「昔からそうだ。蛇蝎の蛇とサソリ、嫌われ者同士だと言っていた」
「……そんなことを話すなんて、意外に仲がいいんじゃないか」
「気色の悪いことを言うな。――あの男は、クズの親玉だ。そして俺は、かつての悪徳刑事。もっとも、悪党ぶりじゃ、あいつが上だ。俺は、あいつにハメられてマヌケぶりを晒したんだからな」
 賢吾と鷹津の間に何があったのか、和彦はよく知らない。鷹津は賢吾にハメられて、暴力団担当刑事から、交番勤務の警官としてどこかに飛ばされたが、何年か経って復帰した。そして、賢吾を付け狙ううえで、和彦に目をつけたのだ。
 なのに今、和彦と鷹津はこうして肌を重ねて、睦言めいた会話を交わしている。
 唇を吸い合い、差し出した舌を緩く絡め合ってから、鷹津にきつく舌を吸われる。和彦の胸の奥で、消えることを許されない情欲の火がじわじわと大きくなる。
「長嶺組は、でかい組だ。潰すのは容易じゃない。だが、長嶺賢吾という男の面子を潰すことは可能だ。昔と違って、今はあいつの側には、大事なオンナがいるしな」
「そのオンナと寝てるだろ、こうして。……ぼくに組長を裏切れとでも、囁く気か?」
「あの男を裏切れるか? それこそ、蛇みたいに執念深くて、怖い男だぞ。サソリが可愛く思えるほどだ」
 これは鷹津なりの冗談だろうかと思いながら、鷹津と唇を触れ合わせる。飢えた獣のように、すぐに鷹津は唇と舌を貪ってくる。
 やはり、キスが上手いと思う。荒々しいくせに、口腔をまさぐる舌の動きは巧みで、感じる部分に舌先を擦りつけ、肉欲を高める。それに、和彦が鷹津を嫌っているというのも関係しているだろう。嫌っている男を受け入れているという事実が、被虐的な刺激を生むのだ。
「――長嶺の力は、この先十年は絶頂期が続くだろう。あれだけの支配力とカリスマ性を持つ男だ。刑事一人が足掻いたところで、髪の毛一本傷つけられない」
 だが、と鷹津は言葉を続け、和彦の両足の間に片手を差し込んできた。何人もの男に愛されてきた条件反射として、言われもしないうちに和彦は片足をわずかに上げ、鷹津の手を奥に迎え入れる。
「あっ……」
 鷹津が触れてきたのは、和彦の柔らかな膨らみだった。感触を確かめるように指が蠢かされ、やや強く揉みしだかれる。ビクビクと腰が震えるのを抑えられなかった。
「長嶺のオンナは、繊細だ。柔らかくて感じやすくて、脆い。傷つけるのも簡単だ」
 和彦の唇を吸いながら鷹津は囁き、片手で柔らかな膨らみをまさぐる。弱みを探り当てられて指で弄られると、小さく悲鳴を上げてしまう。
「痛、いっ……。乱暴に、するなっ」
「だったら教えてくれ。どうされるのがいいんだ。お前が気持ちいいようにしてやる」
 和彦の弱みをわざと乱暴にまさぐりながら、鷹津は会話を続ける。

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