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第11話
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このとき、三田村にきつく手を握り締められ、危うく和彦は痛みに声を洩らしそうになる。それでも落ち着いた素振りで言葉を続けた。
「組長は、あの物騒な男を飼うつもりらしい。いや……、ぼくに、飼わせるつもりなんだ。手荒に扱える番犬を持ったらどうだと言われた」
三田村の横顔には、もう表情らしいものは浮かんでいなかった。
「拒否する権利はあると言われたが、あの組長のことだ。素直に聞き入れてくれるとは思わない」
「先生の気持ちは、どうなんだ」
和彦は目を見開いて三田村を凝視する。三田村は、静かだが、凄みのある目をしていた。感情を排したヤクザの目だ。つまり今、そんな目をしなければならない状態なのだ。
「――……あの男は……、鷹津は、嫌いだ」
「だが、拒否はできない」
返事の代わりに視線を伏せる。そんな和彦の頬を、三田村はそっと撫でてきた。
「先生ならわかっているだろ。俺の首には、組の名前が入った立派な首輪がついている。だからこそ、組長の許可の下、先生の〈オトコ〉でいられる。……俺は、組長や組の方針を受け入れるしかできない。情けなく感じるかもしれないが、それが俺の存在価値でもあるんだ」
だったら自分が、鷹津に好きに扱われてもいいのかと、問いかけることはできなかった。それは、恋人同士であればできる問いかけであり、和彦と三田村の関係はそうではない。
組という組織の中で、三田村は和彦に与えられた番犬で、その番犬に和彦は、〈オトコ〉という役割を与えているに過ぎない。どれだけ深く結びつこうが、この関係は絶対だ。
だからこそ、三田村には自分のオトコでいてもらいたかった。大事で愛しい、和彦にとって唯一の存在だ。
三田村と引き離されたくない――。
たまらない気持ちとなった和彦は、三田村にしがみつく。
少しだけ、賢吾が言おうとしていたことがわかる気がした。和彦は、三田村を番犬として扱いたくはなかった。三田村はあくまで、和彦の大事なオトコだ。だとしたら、代わりに動く番犬は必要だ。
その番犬は、情をかける必要のない嫌な男が望ましい。今、和彦の側にいて適任なのは、鷹津しかいない。
「――ヤクザのオンナらしい顔をしてるな、先生」
考え込む和彦の顔を眺めながら、三田村が感嘆したような声で言った。伏せていた視線を上げた和彦は、まっすぐ三田村を見つめる。
「どんな顔だ」
「凄みがあって、ゾクゾクするほど色気がある。……俺は、こんな人のオトコなのかと思うと、どうしようもなく興奮する。今すぐ欲しくなるほど――」
頭を引き寄せられ、三田村に唇を塞がれた。抱き締められた和彦は、三田村の背を狂おしい手つきで撫でる。
三田村はすぐに、和彦を求めてくれた。
手荒に下肢を剥かれて、あぐらをかいた三田村の腰を跨がされる。和彦は、三田村が穿いているスウェットパンツの下から熱い欲望を引き出し、片手で扱く。
さきほど三田村のものを受け入れたばかりの部分に、すでに愛撫は必要なかった。三田村に腰を支えてもらいながら、綻び柔らかくなっている内奥の入り口に、すでに充実した硬さを持つ三田村のものを当てる。
「んっ……」
位置を確認しながら、ゆっくりと慎重に腰を下ろしていく。内奥はすでに歓喜して、逞しい部分を呑み込んだだけで、見境なく収縮を繰り返していた。さすがに苦しくて和彦が小さく喘ぐと、三田村に優しく唇を吸われながら、双丘を揉みしだかれる。
苦しさよりも、早く三田村を悦ばせたいという感情が上回っていた。腰を緩く揺らして和彦は、熱い欲望を少しずつ内奥に受け入れる。
パジャマの上着を脱がされて、興奮のため、これ以上なく尖った胸の突起を音を立てて吸われた。
「あっ……ん」
和彦は恥知らずな声を上げると、三田村の頭を抱き締める。すると三田村も腰を抱き寄せてくれた。二人は、これ以上なくしっかりと繋がった。
性急に快感を追い求めるのがもったいなくなるほど、三田村との一体感は深い陶酔を和彦に与えてくれる。三田村も似たような感覚を味わってくれているのか、大きく息を吐き出し、そっと目を細めた。
自分がこの男に与えてやれるのは快感ぐらいだと思うと、その快感のために、いくらでも尽くしたくなる。それほど三田村は、和彦にとって特別だ。
和彦が腰を動かそうとすると、三田村に背を抱き寄せられる。
「……もう少し、こうしていていいか? 先生の中を、よく感じたい。俺みたいな男を甘やかして、愛してくれる、特別な場所だ」
三田村の言葉に愉悦を覚え、和彦は小さく喉を鳴らす。
「当たり前、だ……。あんたは、ぼくのオトコなんだから。望むなら、なんでもする」
和彦の言葉に、今度は三田村が感じてくれる。その証拠に、内奥深くで息づく欲望がドクンッと脈打ち、逞しさを増した。
車から降りた和彦は腰を屈めると、護衛の組員に声をかけた。
「ここで大丈夫だから、帰ってくれ。……あとは、予定通りに」
ドアを閉めると、速やかに車は走り去り、和彦はゆっくりと歩き出す。空はもう暗くなっているが、繁華街の近くのため、この辺りは店のネオンや車のライトのせいで明るい。夜とはいってもまだ早い時間帯のため、人通りも多かった。
それらの光景を横目に見ながら、和彦は足早に歩く。取り出した携帯電話で時間を確認したあと、電源は切っておいた。
ある建物の前で一度立ち止まり、見上げる。こんな目立つ場所で立ち止まっていると、見咎められるおそれがあるため、建物の裏にある駐車場へと向かった。
帰宅する車をよく見るため、和彦は駐車場の正面近くに立ち、ガードレールに軽くもたれかかる。
息が白くなるほどではないが、さすがに寒い。和彦は羽織ったコートのポケットに手を突っ込む。
ここで、こうしていることに、目的はある。心は決めたつもりだ。
なのに和彦の気持ちは、ずっと揺れていた。今日はこのまま、何も起こらなければいいのにとすら思っている。
駐車場から出てくる車を見ていなければいけないのに、いつの間にか和彦は、足元に視線を落としていた。
何も見なかったことにしてしまえば――。
そんなことを頭の片隅で考えていると、和彦の前で車が停まった。慌てて顔を上げると、運転席のウィンドーが下り、オールバックの髪型に、不精ひげを生やした男が顔を覗かせる。鷹津だ。
「こんなところで会うなんて、奇遇だな」
ニヤニヤと笑いながら話しかけられ、和彦は露骨に顔をしかめて見せる。
「……そんなわけないだろ」
なんといっても和彦が立っているのは、警察署裏の職員用駐車場なのだ。当然、この駐車場を使えるのは、警察署に勤める人間だけだ。
「だよな。――俺を待ってたんだろ」
やはり、鷹津が嫌いだった。話すだけで、どうしようもない嫌悪感が湧き起こる。それでも、鷹津に助手席に乗るよう言われると従ってしまう。
「今日は、番犬はいないのか」
鷹津の問いかけに、和彦はシートベルトを締めながら素っ気なく答えた。
「――あんたがいる」
驚いたように鷹津が目を見開き、まじまじと和彦を見つめてくる。反射的に睨み返したが、すぐに鷹津は低く笑い声を洩らし、車を出した。
「組長は、あの物騒な男を飼うつもりらしい。いや……、ぼくに、飼わせるつもりなんだ。手荒に扱える番犬を持ったらどうだと言われた」
三田村の横顔には、もう表情らしいものは浮かんでいなかった。
「拒否する権利はあると言われたが、あの組長のことだ。素直に聞き入れてくれるとは思わない」
「先生の気持ちは、どうなんだ」
和彦は目を見開いて三田村を凝視する。三田村は、静かだが、凄みのある目をしていた。感情を排したヤクザの目だ。つまり今、そんな目をしなければならない状態なのだ。
「――……あの男は……、鷹津は、嫌いだ」
「だが、拒否はできない」
返事の代わりに視線を伏せる。そんな和彦の頬を、三田村はそっと撫でてきた。
「先生ならわかっているだろ。俺の首には、組の名前が入った立派な首輪がついている。だからこそ、組長の許可の下、先生の〈オトコ〉でいられる。……俺は、組長や組の方針を受け入れるしかできない。情けなく感じるかもしれないが、それが俺の存在価値でもあるんだ」
だったら自分が、鷹津に好きに扱われてもいいのかと、問いかけることはできなかった。それは、恋人同士であればできる問いかけであり、和彦と三田村の関係はそうではない。
組という組織の中で、三田村は和彦に与えられた番犬で、その番犬に和彦は、〈オトコ〉という役割を与えているに過ぎない。どれだけ深く結びつこうが、この関係は絶対だ。
だからこそ、三田村には自分のオトコでいてもらいたかった。大事で愛しい、和彦にとって唯一の存在だ。
三田村と引き離されたくない――。
たまらない気持ちとなった和彦は、三田村にしがみつく。
少しだけ、賢吾が言おうとしていたことがわかる気がした。和彦は、三田村を番犬として扱いたくはなかった。三田村はあくまで、和彦の大事なオトコだ。だとしたら、代わりに動く番犬は必要だ。
その番犬は、情をかける必要のない嫌な男が望ましい。今、和彦の側にいて適任なのは、鷹津しかいない。
「――ヤクザのオンナらしい顔をしてるな、先生」
考え込む和彦の顔を眺めながら、三田村が感嘆したような声で言った。伏せていた視線を上げた和彦は、まっすぐ三田村を見つめる。
「どんな顔だ」
「凄みがあって、ゾクゾクするほど色気がある。……俺は、こんな人のオトコなのかと思うと、どうしようもなく興奮する。今すぐ欲しくなるほど――」
頭を引き寄せられ、三田村に唇を塞がれた。抱き締められた和彦は、三田村の背を狂おしい手つきで撫でる。
三田村はすぐに、和彦を求めてくれた。
手荒に下肢を剥かれて、あぐらをかいた三田村の腰を跨がされる。和彦は、三田村が穿いているスウェットパンツの下から熱い欲望を引き出し、片手で扱く。
さきほど三田村のものを受け入れたばかりの部分に、すでに愛撫は必要なかった。三田村に腰を支えてもらいながら、綻び柔らかくなっている内奥の入り口に、すでに充実した硬さを持つ三田村のものを当てる。
「んっ……」
位置を確認しながら、ゆっくりと慎重に腰を下ろしていく。内奥はすでに歓喜して、逞しい部分を呑み込んだだけで、見境なく収縮を繰り返していた。さすがに苦しくて和彦が小さく喘ぐと、三田村に優しく唇を吸われながら、双丘を揉みしだかれる。
苦しさよりも、早く三田村を悦ばせたいという感情が上回っていた。腰を緩く揺らして和彦は、熱い欲望を少しずつ内奥に受け入れる。
パジャマの上着を脱がされて、興奮のため、これ以上なく尖った胸の突起を音を立てて吸われた。
「あっ……ん」
和彦は恥知らずな声を上げると、三田村の頭を抱き締める。すると三田村も腰を抱き寄せてくれた。二人は、これ以上なくしっかりと繋がった。
性急に快感を追い求めるのがもったいなくなるほど、三田村との一体感は深い陶酔を和彦に与えてくれる。三田村も似たような感覚を味わってくれているのか、大きく息を吐き出し、そっと目を細めた。
自分がこの男に与えてやれるのは快感ぐらいだと思うと、その快感のために、いくらでも尽くしたくなる。それほど三田村は、和彦にとって特別だ。
和彦が腰を動かそうとすると、三田村に背を抱き寄せられる。
「……もう少し、こうしていていいか? 先生の中を、よく感じたい。俺みたいな男を甘やかして、愛してくれる、特別な場所だ」
三田村の言葉に愉悦を覚え、和彦は小さく喉を鳴らす。
「当たり前、だ……。あんたは、ぼくのオトコなんだから。望むなら、なんでもする」
和彦の言葉に、今度は三田村が感じてくれる。その証拠に、内奥深くで息づく欲望がドクンッと脈打ち、逞しさを増した。
車から降りた和彦は腰を屈めると、護衛の組員に声をかけた。
「ここで大丈夫だから、帰ってくれ。……あとは、予定通りに」
ドアを閉めると、速やかに車は走り去り、和彦はゆっくりと歩き出す。空はもう暗くなっているが、繁華街の近くのため、この辺りは店のネオンや車のライトのせいで明るい。夜とはいってもまだ早い時間帯のため、人通りも多かった。
それらの光景を横目に見ながら、和彦は足早に歩く。取り出した携帯電話で時間を確認したあと、電源は切っておいた。
ある建物の前で一度立ち止まり、見上げる。こんな目立つ場所で立ち止まっていると、見咎められるおそれがあるため、建物の裏にある駐車場へと向かった。
帰宅する車をよく見るため、和彦は駐車場の正面近くに立ち、ガードレールに軽くもたれかかる。
息が白くなるほどではないが、さすがに寒い。和彦は羽織ったコートのポケットに手を突っ込む。
ここで、こうしていることに、目的はある。心は決めたつもりだ。
なのに和彦の気持ちは、ずっと揺れていた。今日はこのまま、何も起こらなければいいのにとすら思っている。
駐車場から出てくる車を見ていなければいけないのに、いつの間にか和彦は、足元に視線を落としていた。
何も見なかったことにしてしまえば――。
そんなことを頭の片隅で考えていると、和彦の前で車が停まった。慌てて顔を上げると、運転席のウィンドーが下り、オールバックの髪型に、不精ひげを生やした男が顔を覗かせる。鷹津だ。
「こんなところで会うなんて、奇遇だな」
ニヤニヤと笑いながら話しかけられ、和彦は露骨に顔をしかめて見せる。
「……そんなわけないだろ」
なんといっても和彦が立っているのは、警察署裏の職員用駐車場なのだ。当然、この駐車場を使えるのは、警察署に勤める人間だけだ。
「だよな。――俺を待ってたんだろ」
やはり、鷹津が嫌いだった。話すだけで、どうしようもない嫌悪感が湧き起こる。それでも、鷹津に助手席に乗るよう言われると従ってしまう。
「今日は、番犬はいないのか」
鷹津の問いかけに、和彦はシートベルトを締めながら素っ気なく答えた。
「――あんたがいる」
驚いたように鷹津が目を見開き、まじまじと和彦を見つめてくる。反射的に睨み返したが、すぐに鷹津は低く笑い声を洩らし、車を出した。
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