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第11話
(13)
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両足を抱え上げられ、内奥から賢吾の欲望が引き抜かれる。熱くなって喘ぐ場所に、賢吾はたっぷりローションを垂らし、再び押し入ってきた。和彦は声を洩らし、はしたなく腰を揺らして逞しいものを奥まで呑み込む。精を放つのとはまた異質の、深い快感を味わっていた。
「あっ、あっ、賢吾さんっ……」
「ああ、最高だ、先生」
両腕を伸ばして賢吾にしがみつくと、手荒く頭を撫でられる。喘ぐ和彦の唇をそっと吸い上げてから、悪戯を持ちかけるように楽しげな口調で賢吾が囁いてきた。
「――先生、そんなに鷹津とのキスが気に入ったんなら、あの男を堕としてみるか?」
和彦は目を見開き、賢吾を凝視する。
「堕と、す……」
「鷹津は、刑事としてはとっくに〈堕ちた〉男だから、〈オトす〉というべきだな。篭絡するんだ、先生が。地べたを這いずり回るサソリを」
賢吾の言葉の真意を探るため、大蛇が潜んだ目を覗き込む。常にある怜悧さは今はなく、肉欲と好奇心によって熱っぽさを湛えていた。
「あの男が目の前に現れたときから、企んでいたんだな」
「いや。鷹津が、先生に興味を持っていると知ったときからだ」
ここは怒るべきなのだろうかと思い、和彦は顔を背ける。すると賢吾が熱い舌で、汗で濡れた首筋をベロリと舐め上げてきた。抗いきれず、唇を吸い合い、舌を絡める。応えるように賢吾の欲望が動き始め、内奥は嬉々として淫らに締め付けていた。
「先生が、鷹津を毛嫌いしたままなら、それはそれで仕方ない。あの男がうちの組の障害になるときは、何かしら手を打って、前線から弾き出すだけだ。だが、憎たらしいことに、鷹津は有能な刑事だ。下衆ではあってもな。しかも執念深い」
賢吾に突き上げられるたびに、痺れるような快感が生み出され、和彦を酔わす。緩く頭を左右に振り、何も考えられないと訴えるが、賢吾は会話も律動もやめなかった。
「今の鷹津に女をあてがったところで、指一本触れやしないだろう。昔とは違う。あいつが今欲しがっているのは、先生――、俺の、大事で可愛いオンナだ」
自分のオンナを他人に触れさせるのは不快ではないのかと、賢吾に問いかけるだけ無駄なのかもしれない。現に和彦は、賢吾の許可の下、三田村と関係を持っている。しかも、その関係を許可している理由は、和彦が組から逃げ出さないため、というものだ。
賢吾は、目的のためなら手段を選ばない。
「……あの男は、あんたに対する嫌がらせのつもりで、ぼくにあんなことをしたのかもしれない、とは考えないのか?」
「俺と鷹津は悪党同士、少し似ている。だからこそ、わかる部分もあるんだ」
「ぼくを、鷹津にあてがう根拠としては、弱いな……」
賢吾の頬を撫でて頭を抱き締めると、和彦の求めがわかったように、熱い舌が胸の突起をくすぐり、きつく吸い上げてくれる。胸元に愛撫の跡を散らしながら賢吾が言った。
「あてがう? 違うな。鷹津を先生の番犬にしたら、おもしろいと思ったんだ。俺としても、あいつが俺や組のために何かするなんて、期待しちゃいない。ただ、おとなしくしてもらいたいだけだ。……よく吠える犬は、好かねーんだ、俺は」
番犬、と和彦は口中で呟く。犬と言いながら、鷹津の本性は毒を持つサソリだ。鋭い針で刺されると、さぞかし痛いだろう。大蛇の巨体に締め上げられると苦しいように。
「――……ぼくに、拒否する権利はあるんだろうな」
律動を止めた賢吾が上目遣いでこちらを見て、ニヤリと笑う。
「当然だ。ただ先生も、組の名前入りの首輪をつけた忠実で優しい犬だけじゃなく、手荒に扱える凶暴な犬を一匹ぐらい、飼ってみたらどうだ。何かのとき、役に立つかもしれない」
「何かって……」
「何か、としか言いようがない。先生はヤクザに囲まれて生活しているが、先生自身はヤクザじゃない。万が一にも、ヤクザ以外の番犬が必要になるかもしれないだろ」
もしかして賢吾は、今日和彦の身に起こったもう一つの出来事を、把握しているのではないか――。
そんなことが和彦の脳裏を過るが、単なる杞憂だと思いたかった。
あの場には長嶺組の人間はいなかったし、たまたま同じ日、同じ会場で結婚披露宴をしている人間について、調べるはずもない。そのうえ、招待客についてまで。
しかし、和彦の身元調査をした賢吾は、実家のことまで調べ上げている。父親の〈職場〉が、どういった会社と繋がりがあるかなど、知ろうと思えば難しくはないだろう。そのうえで計略の糸を張り巡らせることなど、賢吾にとって造作もないことだ。
根拠のない考えが脳裏を過り、なんだか怖くなる。
うかがうように和彦が見上げると、賢吾に柔らかく唇を吸い上げられた。そこで怖い考えは封印し、こう言葉を洩らした。
「……鷹津は嫌いだ」
「あっ、あっ、賢吾さんっ……」
「ああ、最高だ、先生」
両腕を伸ばして賢吾にしがみつくと、手荒く頭を撫でられる。喘ぐ和彦の唇をそっと吸い上げてから、悪戯を持ちかけるように楽しげな口調で賢吾が囁いてきた。
「――先生、そんなに鷹津とのキスが気に入ったんなら、あの男を堕としてみるか?」
和彦は目を見開き、賢吾を凝視する。
「堕と、す……」
「鷹津は、刑事としてはとっくに〈堕ちた〉男だから、〈オトす〉というべきだな。篭絡するんだ、先生が。地べたを這いずり回るサソリを」
賢吾の言葉の真意を探るため、大蛇が潜んだ目を覗き込む。常にある怜悧さは今はなく、肉欲と好奇心によって熱っぽさを湛えていた。
「あの男が目の前に現れたときから、企んでいたんだな」
「いや。鷹津が、先生に興味を持っていると知ったときからだ」
ここは怒るべきなのだろうかと思い、和彦は顔を背ける。すると賢吾が熱い舌で、汗で濡れた首筋をベロリと舐め上げてきた。抗いきれず、唇を吸い合い、舌を絡める。応えるように賢吾の欲望が動き始め、内奥は嬉々として淫らに締め付けていた。
「先生が、鷹津を毛嫌いしたままなら、それはそれで仕方ない。あの男がうちの組の障害になるときは、何かしら手を打って、前線から弾き出すだけだ。だが、憎たらしいことに、鷹津は有能な刑事だ。下衆ではあってもな。しかも執念深い」
賢吾に突き上げられるたびに、痺れるような快感が生み出され、和彦を酔わす。緩く頭を左右に振り、何も考えられないと訴えるが、賢吾は会話も律動もやめなかった。
「今の鷹津に女をあてがったところで、指一本触れやしないだろう。昔とは違う。あいつが今欲しがっているのは、先生――、俺の、大事で可愛いオンナだ」
自分のオンナを他人に触れさせるのは不快ではないのかと、賢吾に問いかけるだけ無駄なのかもしれない。現に和彦は、賢吾の許可の下、三田村と関係を持っている。しかも、その関係を許可している理由は、和彦が組から逃げ出さないため、というものだ。
賢吾は、目的のためなら手段を選ばない。
「……あの男は、あんたに対する嫌がらせのつもりで、ぼくにあんなことをしたのかもしれない、とは考えないのか?」
「俺と鷹津は悪党同士、少し似ている。だからこそ、わかる部分もあるんだ」
「ぼくを、鷹津にあてがう根拠としては、弱いな……」
賢吾の頬を撫でて頭を抱き締めると、和彦の求めがわかったように、熱い舌が胸の突起をくすぐり、きつく吸い上げてくれる。胸元に愛撫の跡を散らしながら賢吾が言った。
「あてがう? 違うな。鷹津を先生の番犬にしたら、おもしろいと思ったんだ。俺としても、あいつが俺や組のために何かするなんて、期待しちゃいない。ただ、おとなしくしてもらいたいだけだ。……よく吠える犬は、好かねーんだ、俺は」
番犬、と和彦は口中で呟く。犬と言いながら、鷹津の本性は毒を持つサソリだ。鋭い針で刺されると、さぞかし痛いだろう。大蛇の巨体に締め上げられると苦しいように。
「――……ぼくに、拒否する権利はあるんだろうな」
律動を止めた賢吾が上目遣いでこちらを見て、ニヤリと笑う。
「当然だ。ただ先生も、組の名前入りの首輪をつけた忠実で優しい犬だけじゃなく、手荒に扱える凶暴な犬を一匹ぐらい、飼ってみたらどうだ。何かのとき、役に立つかもしれない」
「何かって……」
「何か、としか言いようがない。先生はヤクザに囲まれて生活しているが、先生自身はヤクザじゃない。万が一にも、ヤクザ以外の番犬が必要になるかもしれないだろ」
もしかして賢吾は、今日和彦の身に起こったもう一つの出来事を、把握しているのではないか――。
そんなことが和彦の脳裏を過るが、単なる杞憂だと思いたかった。
あの場には長嶺組の人間はいなかったし、たまたま同じ日、同じ会場で結婚披露宴をしている人間について、調べるはずもない。そのうえ、招待客についてまで。
しかし、和彦の身元調査をした賢吾は、実家のことまで調べ上げている。父親の〈職場〉が、どういった会社と繋がりがあるかなど、知ろうと思えば難しくはないだろう。そのうえで計略の糸を張り巡らせることなど、賢吾にとって造作もないことだ。
根拠のない考えが脳裏を過り、なんだか怖くなる。
うかがうように和彦が見上げると、賢吾に柔らかく唇を吸い上げられた。そこで怖い考えは封印し、こう言葉を洩らした。
「……鷹津は嫌いだ」
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