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第11話
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しおりを挟む座卓に頬杖をついた和彦は、ぼんやりと考え込む。ただ、考えることが多すぎて、思考は散漫だ。
結婚披露宴で和彦に話しかけてきた父親の同僚のことを考えると、必然的にその父親のことを――自分の家族のことにまで考えが及ぶ。和彦にとって家族とは、この世でもっとも関わりたくない存在なので、正直、戸惑っていた。
戸惑うといえば、もう一人の存在を忘れてはいけない。
意識しないまま顔が熱くなってきて、一人うろたえた和彦は慌ててグラスを取り上げ、残っているワインを飲み干す。その勢いで、肩にかけていた羽織が滑り落ちた。気だるい動きで羽織に腕を通そうとすると、ふいに声をかけられる。
「――艶めいた顔だな。鷹津のことを考えているのか」
ドキリとした和彦は、自分のその反応を誤魔化すように、正面に座っている賢吾を睨みつけた。さきほどまで、携帯電話であちこちと連絡を取り合って仕事の話をしながら、手元の紙に何か書き留めていたはずだが、いつの間にか、しっかり和彦を観察していたようだ。賢吾の口元には、人の悪い笑みが浮かんでいた。
「違うっ」
「そんなにムキになって否定すると、認めているようなもんだぞ、先生」
今日、和彦と鷹津の間にあった出来事を、賢吾はすべて知っている。隠し通せると思っていない和彦が、報告のため本宅に立ち寄ったとき、自分から告白したのだ。ただ、父親の同僚と出くわし、捕えられそうになったことは告げていない。
今の生活を〈壊したくない〉と感じるのは、道徳的に間違っているだろう。それでも、異物となるものを持ち込みたくなかった。和彦にとって自分の家族は、まさに異物そのものだ。今の生活に入る、ずっと前から――。
どこかソワソワとして落ち着かない和彦を一人にしておけないと思ったらしく、今夜は本宅に泊まるよう賢吾に言われたのだが、マンションの広い部屋で一人で過ごしたくなかった和彦としては、その言葉はありがたかった。
賢吾がふっと目元を和らげ、手招きしてくる。わずかに逡巡してから、羽織を肩にかけ直した和彦は場所を移動し、賢吾の隣に座った。
すかさず肩を抱かれたので、和彦も賢吾にもたれかかる。
「先生も、しつこいサソリに狙われて大変だな」
笑いを含んだ声で言いながら、賢吾の指先にあごの下をくすぐられる。そんな賢吾を見上げてから、和彦は肩先に額を押し当てた。
さすがの賢吾も、和彦の心を煩わせるものすべてを見通すことは不可能らしい。
「……最初にぼくを狙って、あんなことをした人間が、どんな顔をして、そんなことを言うんだ」
「俺はいい。俺は、許されるんだ」
さすがに図々しい発言だと思って和彦が顔を上げると、待っていたようなタイミングで唇を軽く吸われた。
「先生を狙って自分のものにして――見事に、骨抜きにされたんだ。そんな哀れなヤクザを、愛情深い先生なら、たっぷり甘やかしてくれるだろ?」
本当に図々しいと思いながらも、和彦はつい笑みをこぼしてしまう。
自然な流れとして、賢吾と再び、今度はしっとりと唇を重ねていた。柔らかく互いの唇を吸い合い、舌先を触れ合わせる。肩にかかった賢吾の手が油断なく動き、浴衣の合わせ目から入り込んだかと思うと、胸元を撫でられていた。
今日、鷹津にそうされたように、賢吾の指先に胸の突起を弄られ、抓るように引っ張られる。和彦が喉の奥から微かに声を洩らすと、目を細めた賢吾に片手を取られ、あぐらをかいた両足の間に導かれた。
「――鷹津を悦ばせたように、俺も悦ばせてくれるだろ、先生?」
羞恥なのか、それ以外の感情からなのか、一気に和彦の顔は熱くなる。思わず顔を背けたが、首筋に賢吾の唇が押し当てられ、ゆっくりと歯が立てられると、背筋に疼きが駆け抜ける。それだけで賢吾に逆らえなくなった。
賢吾と深い口づけを交わしながら和彦は、賢吾が着ている浴衣の下に片手を差し込み、すでに熱くなりかけている欲望を外に引き出す。優しく握り込んで、上下に扱き始めた。一方の賢吾は、執拗に和彦の胸の突起を弄る。
手を動かすたびに賢吾のものはゆっくりと首をもたげていき、その反応に和彦は、身震いしたくなるような興奮を覚える。大蛇を潜ませた賢吾の目にも、ほのかな熱っぽさが宿り、思わず覗き込んでしまう。
誘い込まれるまま賢吾の口腔に舌を差し込み、まさぐる。濡れた音を立てて舌を吸われると、素直に気持ちよかった。
ゆっくりと互いの欲望を高め合っていると、座卓の上に置いた携帯電話が鳴る。和彦の唇を吸い上げて、賢吾は電話に出た。
寸前まで、熱く官能的な口づけを与えてくれていたとは思えないほど、電話に応対する賢吾の声は淡々として怜悧だ。だが、和彦の手の中で息づくものは、確かに熱く――。
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