血と束縛と

北川とも

文字の大きさ
上 下
198 / 1,268
第10話

(20)

しおりを挟む
「あのときは、ぼくの意識は朦朧としていたっ。だいたいお前も、変な気になってなかっただろ」
「今はなってる?」
 千尋が耳に直接唇を押し当て、意味ありげに囁いてくる。わざわざ確認しなくても、ニヤニヤとしている表情が容易に想像できる。
「なってないとしたら、ぼくの腰に当たっているものはなんだ」
「俺の正直な気持ち」
 背後から千尋にきつく抱き締められ、隠しようのない熱い欲望がさらに押しつけられる。
 一緒に風呂に入りたいと言われたときから、こういう状況になるのはわかりきっていた。それに、こんなことを言われると――。
「今日は、先生を独占できる。オヤジには何度も念を押しておいたんだ。絶対電話してくるなって」
「何も、そこまでしなくてもいいだろ……」
「先生は、オヤジの意地の悪さを甘く見てる」
 息子にここまで言われるのも、ある意味すごいかもしれない。思わず和彦が声を洩らして笑うと、千尋に首筋を舐め上げられた。驚いて水音を立てた和彦だが、一向に気にかけた様子もなく千尋の片手が胸元に這わされてくる。さらにもう片方の手が、両足の間に差し込まれた。
「お前……、湯に浸かってこんなことをしたら、のぼせるからなっ……」
「だから、こんなにぬるいお湯にしたんじゃん」
 楽しげにそう言った千尋が、さっそく手に握り込んだ和彦のものを緩やかに扱き始める。
「うっ……」
 和彦は小さく呻き声を洩らして、反射的に前に逃れようとしたが、背後からしっかり抱き締められているため身動きが取れない。
「おとなしくしてよ、先生」
 そう囁いてきた千尋の手に下肢をまさぐられ、とうとう内奥の入り口を指先でくすぐられる。
「わざわざ風呂でこんなことをしなくていいだろっ」
「だって普通の日なら、させてくれない――」
「いつだったか、お前に軟禁されて好き勝手されたときに懲りたんだ。……風呂は、体を洗って寛ぐ場だ」
 振り返って和彦が言い切ると、そんな和彦の顔をまじまじと見つめてから、千尋が軽く唇を吸ってきた。
「……こら、千尋、聞いてるのか」
「んー、あんまり聞いてない」
 和彦が呆れてため息をつくと、待ちかねていたように口腔にスルリと舌が入り込む。これ以上小言をいうのも野暮に思え、千尋の舌を吸ってやり、絡め合う。同時に、片足を持ち上げられて、内奥にゆっくりと指を挿入される。和彦はわずかに腰を揺らしながら締め付けていた。
「千尋っ……、せめて、風呂から出るまで我慢しろ」
「嫌。せっかく先生とこうしてるのに、我慢したくない」
 言葉とともに指が付け根まで、内奥に埋め込まれた。和彦は、前に逃れようと伸ばした手で湯を叩き、また水音を立てる。
「うっ、あっ、あぁっ」
 指が内奥で蠢き、そのたびに湯が入り込んでくる。絡みついてくる腕の強さから、千尋にやめる気がないのは明らかだ。湯の中で暴れても疲れるだけだと嫌でも悟った和彦は、仕方なく千尋の胸に体を預ける。
「……お前、誕生日が終わったら覚えてろよ」
「何かお仕置きしてくれるわけ?」
 耳元で楽しそうな声で言いながらも、千尋の指は巧みに内奥で動き続ける。
「相手をするとお前が喜ぶだけだから、しばらく会わないというのはどうだ?」
「そうなったら、この部屋に転がり込んで、住み着く」
 千尋のわがままには敵わない。和彦は顔をしかめてから振り返り、千尋と唇を触れ合わせ、そっと噛み付く。千尋の興奮を煽るのは簡単だった。
 すぐに内奥から指が引き抜かれ、体の位置が入れ替えられる。大きめのバスタブとはいえ、大きな男二人が入っていて余裕たっぷりというわけではない。少々苦労したが、千尋としては満足できる態勢になったらしく、バスタブにもたかれかかった和彦に抱きついてきた。その一方で、開いた両足の間に腰が割り込まされる。
「千尋、盛り上がっているところ悪いが、少し背中が痛い……」
「じゃあ、俺にしっかりしがみついててよ」
 素直に従うのも癪だが、仕方ない。和彦は両腕を千尋の首に回してしがみつく。千尋の体は熱くなっていた。
「……先生の体、熱いね」
 ふいに千尋に指摘され、自覚がなかった和彦はうろたえる。一気に顔が熱くなり、のぼせてしまいそうだ。
「恥ずかしいんだっ」
 和彦が自分の反応を誤魔化すために睨みつけると、すべてわかっているような顔で千尋は笑い、唇を塞いでくる。さらに片手で、和彦のものを再び扱き始めていた。
「あっ、はあぁ……」
 いつもならとっくに先端から透明なしずくが滲んでいるだろうが、今は確認のしようがない。それでも千尋は、指の腹で先端を執拗に撫で、和彦が腰を浮かせるようになると、柔らかな膨らみを弄ぶように愛撫を加えてくる。
「んっ……、んっ、あっ、あぅっ」
 仰け反った拍子に、後ろ髪どころか、耳まで湯に浸かってしまう。すかさず千尋の片手で頭を支えられ、笑いを含んだ声で問われた。
「先生、沈んじゃうよ」
「……誰の、せいだ」
 和彦がしがみつくと、千尋も限界を迎えていたらしく、内奥の入り口に熱い欲望が押し当てられる。ゾクゾクするような興奮が和彦の体を駆け抜け、思わず身震いする。
 千尋がゆっくりと押し入ってこようとした瞬間、バスルームのドアの向こうから聞こえてくる音があった。二人は動きを止め、間近で見つめ合う。
「千尋、あれ――」
「俺の携帯だ……。しかもあの着信音、じいちゃんから……」
「早く電話に出ろっ」
 和彦は千尋の肩を押し退け、なんとか姿勢を戻す。そんな和彦を恨みがましそうに見ていた千尋だが、さすがに祖父からの電話は無視できないらしく、勢いよく立ち上がった。
 バスルームを出る千尋の後ろ姿を見送ってから、和彦は肩までしっかり湯に浸かる。すっかり千尋の言葉に乗せられていたが、自分たちがいかに恥知らずな行為に及ぼうとしていたのか、今になって痛感していた。
 バスタブの縁に腕をかけ、濡れた髪を掻き上げる。ドアの向こうから千尋の声が聞こえてくるが、何を話しているかまではわからない。
 千尋は千尋で、周囲から大事にされている存在だ。本来は、誕生日という大事な日に、和彦が独占するのは許されないのかもしれない。
 そんなことを考えているとドアが開き、千尋がひょこっと顔を覗かせる。申し訳なさそうな表情に目にして、和彦は思わず笑ってしまう。
「その顔は、呼び出されたな」
「ごめんね、先生。俺が無理言って、こうして一緒に過ごしてもらってるのに……」
「かまわないさ。誕生日に必要なことは、もう済ませたんだし。プレゼントを渡して、おめでとうを言って、ケーキのロウソクを吹き消してもらった。ぼくは、お前の誕生日を祝ってやれたと思って、満足している」
 和彦の反応にほっとしたように、千尋がちらりと笑みを見せる。腰にタオルを巻いて、バスタブの側までやってきた。何事かと、和彦は千尋を見上げる。
「どうした?」
「――和彦」
 突然名を呼ばれて、驚いた和彦は派手な水音を立てて立ち上がる。和彦の反応を笑いもせず、それどころか真剣な顔をして、千尋が唇に軽くキスしてきた。
「十歳差じゃなくなった記念に、先生の名前を呼びたかったんだ」
 もう一度、囁くように名を呼ばれてから、しっとりと唇が重ねられる。
 ただ、名を呼ばれただけだというのに、和彦の心臓の鼓動は速くなっていた。この瞬間、千尋がとても大人びて見え、照れていたのだ。
 そんな和彦を、千尋はしっかりと抱き締めてくれた。

しおりを挟む
感想 80

あなたにおすすめの小説

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

処理中です...