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第10話
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自分では、何がどうなっているのか判断すらできなくて、頭と気持ちがオーバーフロー気味だ。こめかみを指で軽く押さえた和彦は、テーブルの上に置いた小物入れに目を留める。そこに、処方してもらった安定剤が入っているのだ。
千尋に倣うわけではないが、少し横になろうかという考えに、強く惹かれる。だが、和彦にはわかっていた。安定剤で一時の眠りを手に入れて何も考えなくなったところで、自分の体にこびりついた不快さは消えないと。
安定剤の入った袋ではなく、再び子機を取り上げ、登録してある番号の一つにかける。呼出し音を根気よく聞き続けていると、ようやく途切れた。
『――どうかしたのか、先生』
電話の向こうから聞こえてきたのは、淡々としているが、優しさも滲ませたハスキーな声だった。
三田村の声を聞いただけで、和彦の気持ちは柔らかな感触で満たされる。それに何より、安心できる。
和彦と鷹津の間にあった出来事を知ってから、三田村は毎夜、電話をくれる。忙しくて会いに行けないことを、優しい男なりに別の形で埋め合わせようとしてくれているのだ。三田村の気持ちが素直に嬉しいし、ありがたくもあった和彦だが、今日はどうしても我慢できなかった。
「三田村、今すぐ会いたい……」
和彦のわがままとも言える願いを、三田村は断ったりしなかった。
『これから、迎えの人間をそこに向かわせる。申し訳ないが、先生、俺が今いる場所の近くまで来てもらっていいか? それに、あまり時間が取れない……』
「もちろんだ。ぼくがわがままを言っているんだから」
『違う。俺のわがままだ。先生の声しか聞けないことが、苦しくてたまらなかった。だから、先生に来てもらいたい』
突然の電話であるにもかかわらず、こんなふうに囁いてくれる三田村が愛しかった。
「すぐに迎えを寄越してくれ。なんなら、ぼくがタクシーで行ってもいい」
それは絶対ダメだと、強い口調で言ってくれるのが嬉しい。和彦は笑みをこぼして頷いた。
「……わかった、三田村」
ダブルの部屋に入るなり、三田村に手荒く肩を抱き寄せられ、ベッドへと連れて行かれる。押し倒されると同時に三田村がのしかかってきて、有無を言わせず唇を塞がれた。
和彦は気が遠くなるような高揚感と、胸を掻き毟りたくなるような強烈な疼きを味わいながら、三田村に強くしがみつく。
唇と舌を激しく貪り合いながら、三田村の手が下肢に伸び、コットンパンツのベルトを外し、ファスナーを下ろしていく。一方の和彦も、三田村のジャケットを脱がせると、ネクタイを解いて、もどかしい手つきでワイシャツのボタンを外していく。
剥かれる、という表現しかないような手つきで、コットンパンツと下着を下ろされた拍子に、まだ履いたままだった靴がベッドの下に落ちた。
ここまで会話は必要なかった。互いに、欲しいものはわかっている。
唇が離され、和彦は息を喘がせる。険しい表情で三田村が顔を覗き込んでくるが、怒っているわけではない。普段は優しい男が、抑え切れないほど激しく欲情しているのだ。
「――……三田村」
掠れた声で和彦が呼びかけると、和彦の唇を痛いほど吸い上げてから、三田村が体の上から退く。そしてすぐに和彦は、ベッドの上で大きく仰け反り、息を詰める。大きく広げられた両足の間に三田村が顔を埋め、期待のためすでに身を起こしかけた和彦のものを、口腔に含んだからだ。
「はっ……、んああっ」
熱く湿った感触が、容赦なく和彦の欲望を包み込み、吸引してくる。技巧も優しさも必要ない。まさに、むしゃぶりつくような愛撫だ。
「あっ、あっ、三田村っ――」
和彦は身をくねらせながら、三田村の髪に指を差し込む。
今、こうしているのが信じられなかった。ほんの数十分ほど前まで、和彦は自分の部屋にいて、三田村と電話で話したあと、寄越された迎えの車に乗り込んだ。向かったのは、三田村が仕事をしている事務所近くのシティーホテルだった。
ロビーでは、すでに部屋のキーを受け取った三田村が待っており、こうして部屋に辿り着いたのだ。あとは、限られた時間の中、貪り合うだけだ。
あっという間に反応した和彦のものを、三田村が愛しげに舐め上げてくれる。先端から透明なしずくが滴り落ちようとすると、それすら舐め取ってくれたうえに、括れまでを含まれて吸われる。このとき、三田村の歯が掠めるように先端に触れ、和彦はビクンッと腰を跳ねさせる。痛みを予期しての反応だが、三田村は容赦なく歯列を先端に擦りつけてきた。
「いっ……、はあっ、はっ。い、い――……。気持ち、いい。三田村、それ、いい……」
千尋に倣うわけではないが、少し横になろうかという考えに、強く惹かれる。だが、和彦にはわかっていた。安定剤で一時の眠りを手に入れて何も考えなくなったところで、自分の体にこびりついた不快さは消えないと。
安定剤の入った袋ではなく、再び子機を取り上げ、登録してある番号の一つにかける。呼出し音を根気よく聞き続けていると、ようやく途切れた。
『――どうかしたのか、先生』
電話の向こうから聞こえてきたのは、淡々としているが、優しさも滲ませたハスキーな声だった。
三田村の声を聞いただけで、和彦の気持ちは柔らかな感触で満たされる。それに何より、安心できる。
和彦と鷹津の間にあった出来事を知ってから、三田村は毎夜、電話をくれる。忙しくて会いに行けないことを、優しい男なりに別の形で埋め合わせようとしてくれているのだ。三田村の気持ちが素直に嬉しいし、ありがたくもあった和彦だが、今日はどうしても我慢できなかった。
「三田村、今すぐ会いたい……」
和彦のわがままとも言える願いを、三田村は断ったりしなかった。
『これから、迎えの人間をそこに向かわせる。申し訳ないが、先生、俺が今いる場所の近くまで来てもらっていいか? それに、あまり時間が取れない……』
「もちろんだ。ぼくがわがままを言っているんだから」
『違う。俺のわがままだ。先生の声しか聞けないことが、苦しくてたまらなかった。だから、先生に来てもらいたい』
突然の電話であるにもかかわらず、こんなふうに囁いてくれる三田村が愛しかった。
「すぐに迎えを寄越してくれ。なんなら、ぼくがタクシーで行ってもいい」
それは絶対ダメだと、強い口調で言ってくれるのが嬉しい。和彦は笑みをこぼして頷いた。
「……わかった、三田村」
ダブルの部屋に入るなり、三田村に手荒く肩を抱き寄せられ、ベッドへと連れて行かれる。押し倒されると同時に三田村がのしかかってきて、有無を言わせず唇を塞がれた。
和彦は気が遠くなるような高揚感と、胸を掻き毟りたくなるような強烈な疼きを味わいながら、三田村に強くしがみつく。
唇と舌を激しく貪り合いながら、三田村の手が下肢に伸び、コットンパンツのベルトを外し、ファスナーを下ろしていく。一方の和彦も、三田村のジャケットを脱がせると、ネクタイを解いて、もどかしい手つきでワイシャツのボタンを外していく。
剥かれる、という表現しかないような手つきで、コットンパンツと下着を下ろされた拍子に、まだ履いたままだった靴がベッドの下に落ちた。
ここまで会話は必要なかった。互いに、欲しいものはわかっている。
唇が離され、和彦は息を喘がせる。険しい表情で三田村が顔を覗き込んでくるが、怒っているわけではない。普段は優しい男が、抑え切れないほど激しく欲情しているのだ。
「――……三田村」
掠れた声で和彦が呼びかけると、和彦の唇を痛いほど吸い上げてから、三田村が体の上から退く。そしてすぐに和彦は、ベッドの上で大きく仰け反り、息を詰める。大きく広げられた両足の間に三田村が顔を埋め、期待のためすでに身を起こしかけた和彦のものを、口腔に含んだからだ。
「はっ……、んああっ」
熱く湿った感触が、容赦なく和彦の欲望を包み込み、吸引してくる。技巧も優しさも必要ない。まさに、むしゃぶりつくような愛撫だ。
「あっ、あっ、三田村っ――」
和彦は身をくねらせながら、三田村の髪に指を差し込む。
今、こうしているのが信じられなかった。ほんの数十分ほど前まで、和彦は自分の部屋にいて、三田村と電話で話したあと、寄越された迎えの車に乗り込んだ。向かったのは、三田村が仕事をしている事務所近くのシティーホテルだった。
ロビーでは、すでに部屋のキーを受け取った三田村が待っており、こうして部屋に辿り着いたのだ。あとは、限られた時間の中、貪り合うだけだ。
あっという間に反応した和彦のものを、三田村が愛しげに舐め上げてくれる。先端から透明なしずくが滴り落ちようとすると、それすら舐め取ってくれたうえに、括れまでを含まれて吸われる。このとき、三田村の歯が掠めるように先端に触れ、和彦はビクンッと腰を跳ねさせる。痛みを予期しての反応だが、三田村は容赦なく歯列を先端に擦りつけてきた。
「いっ……、はあっ、はっ。い、い――……。気持ち、いい。三田村、それ、いい……」
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