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第10話
(2)
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「番犬? ぼくは、サソリに刺されたんだ。それに、三田村以外の番犬はいらない」
「三田村も、惚れられたもんだな。あいつはあいつで、先生にゾッコンだ。今夜のことを知ったら、先生のところに駆けつけたかったはずだが……、二日続けて事務所に詰めていたから、帰って休むよう命令した。そのあと、先生から電話がかかってきた」
和彦はそっと眉をひそめる。
「……正直、三田村が来なくてよかった。あの優しい男に、心配をかけたくない」
「あとで話を聞いたら、どちらにしろ心配すると思うがな」
賢吾の口調には、自分が鷹津を挑発したという後ろ暗さはない。和彦も、賢吾を責める気はなかった。責めたところで無駄だし、何より、鷹津に部屋に入り込まれ、体に触れられたのは自分自身の責任だ。
「千尋も、先生の一大事を知ったらキャンキャンとうるさかっただろうが、あいつは今、じいさんの家だ。本格的に跡継ぎ修行を始めるために、放り込んできた」
「なら、よかった……。こんなことになってると知ったら、千尋の甘ったれがひどくなる」
「気にかける男が多くて大変だな」
そう言いながら賢吾の片手が、和彦が着込んでいるバスローブの紐を解く。シャワーを浴びてから羽織り、その格好でベッドに潜り込んだのだ。
「――忘れるなよ、先生。先生に一番惚れ込んでいるのは、この俺だ。惚れ込んで、骨抜きだ……」
しっとりと唇が重なってきて、吐息をこぼした和彦は、従順に賢吾の舌を口腔に受け入れる。鷹津の痕跡を消すように口腔の粘膜を舐め回され、唾液を流し込まれる。
口腔を犯すように、賢吾の口づけは深く激しかった。引き出された舌を痛いほど吸われながら、賢吾の大きな手が胸元を這い回り、鷹津の愛撫のせいで疼いている胸の突起を弄り始めた。
凝った感触を確かめるように摘ままれ、引っ張られたかと思うと、指の腹で押し潰される。
「ここも、弄られたか?」
賢吾の問いかけに、和彦の体はカッと熱くなる。短く笑った賢吾に、体にかけたブランケットを除けられ、バスローブを脱がされていた。鷹津の愛撫の跡が散った体を隠そうと、和彦は反射的にうつ伏せになったが、賢吾は容赦なかった。
和彦は腰を抱えられ、唾液で濡らした指を内奥に挿入される。
「あうっ……」
「体に触れられた、というのは、間違ってはないが、正確な表現じゃないな。体の中も触れられたというべきだ」
鷹津の指を受け入れてそれほど時間が経っていないため、和彦の内奥はひどく脆く、感じやすくなっている。無遠慮に指を突き込まれ、クチャクチャと湿った音を立てて掻き回されると、一度は押さえ込もうとした肉欲は簡単に開花し、官能という蜜が溢れ出す。
「――鷹津に、ねちっこく弄られたようだな。熱くなって、俺の指をグイグイ締め付けてくる。だが……鷹津のものを咥え込んではない」
付け根まで挿入された指が蠢き、和彦はシーツを握り締めて腰を震わせる。これは、愛撫ではない。賢吾は、和彦の内奥を検分しているのだ。
「こんなことしなくても、わかるだろっ……」
「俺が知っている鷹津は、組が与えた〈女〉を平気でいたぶって、抱くような男だった。一度どん底を味わって変わったのか、それとも、先生が特別なのか。……ここまで念入りに尻を弄って、射精しておいて、俺の〈オンナ〉相手に欲情しなかったってことはないだろ」
和彦は頭に浮かんだ疑問を、乱れた息の下、肩越しに振り返って賢吾にぶつけた。
「……ぼくが、あの薄汚い男に抱かれてもよかったのか」
「先生も、なかなかきつい。――俺は慎重なんだ。気になるものは、調べて確かめる。それで利用できる相手なら、利用する。さらに俺の役に立てそうなら、俺の支配下に置く。俺は何かを企むのは好きだが、企まれるのは嫌いなんだ。鷹津の場合、その点を見極める必要がある。なんといっても、かつての悪党同士だからな。俺とあいつは少し似ている」
秦が言っていた人物評そのままのことを、賢吾は口にする。
和彦の考え及ばないところで、賢吾はさまざまな計略を巡らせているのかもしれないと思った。緻密に計略の糸を編み上げ、迂闊に誰かが引っかかれば、搦め捕る。
本人は、それこそ身を潜める大蛇のように、獰猛な性質を悟らせまいとじっとしているが、冷たい目は常に周囲の気配をうかがい、獲物を求めているのだ。だが、一度身を起こせば、巨体をしならせ、邪魔なものはなぎ倒す。捕えた獲物は容赦なく締め上げ、牙を突き立てたあとは、ゆっくりと呑み込んでしまう。
残酷だが、反面、強烈に惹きつけられる妄想だ。安定剤のせいもあり、ぼうっと見つめる和彦に、ゾクリとするほど官能的な声が傲慢に告げた。
「三田村も、惚れられたもんだな。あいつはあいつで、先生にゾッコンだ。今夜のことを知ったら、先生のところに駆けつけたかったはずだが……、二日続けて事務所に詰めていたから、帰って休むよう命令した。そのあと、先生から電話がかかってきた」
和彦はそっと眉をひそめる。
「……正直、三田村が来なくてよかった。あの優しい男に、心配をかけたくない」
「あとで話を聞いたら、どちらにしろ心配すると思うがな」
賢吾の口調には、自分が鷹津を挑発したという後ろ暗さはない。和彦も、賢吾を責める気はなかった。責めたところで無駄だし、何より、鷹津に部屋に入り込まれ、体に触れられたのは自分自身の責任だ。
「千尋も、先生の一大事を知ったらキャンキャンとうるさかっただろうが、あいつは今、じいさんの家だ。本格的に跡継ぎ修行を始めるために、放り込んできた」
「なら、よかった……。こんなことになってると知ったら、千尋の甘ったれがひどくなる」
「気にかける男が多くて大変だな」
そう言いながら賢吾の片手が、和彦が着込んでいるバスローブの紐を解く。シャワーを浴びてから羽織り、その格好でベッドに潜り込んだのだ。
「――忘れるなよ、先生。先生に一番惚れ込んでいるのは、この俺だ。惚れ込んで、骨抜きだ……」
しっとりと唇が重なってきて、吐息をこぼした和彦は、従順に賢吾の舌を口腔に受け入れる。鷹津の痕跡を消すように口腔の粘膜を舐め回され、唾液を流し込まれる。
口腔を犯すように、賢吾の口づけは深く激しかった。引き出された舌を痛いほど吸われながら、賢吾の大きな手が胸元を這い回り、鷹津の愛撫のせいで疼いている胸の突起を弄り始めた。
凝った感触を確かめるように摘ままれ、引っ張られたかと思うと、指の腹で押し潰される。
「ここも、弄られたか?」
賢吾の問いかけに、和彦の体はカッと熱くなる。短く笑った賢吾に、体にかけたブランケットを除けられ、バスローブを脱がされていた。鷹津の愛撫の跡が散った体を隠そうと、和彦は反射的にうつ伏せになったが、賢吾は容赦なかった。
和彦は腰を抱えられ、唾液で濡らした指を内奥に挿入される。
「あうっ……」
「体に触れられた、というのは、間違ってはないが、正確な表現じゃないな。体の中も触れられたというべきだ」
鷹津の指を受け入れてそれほど時間が経っていないため、和彦の内奥はひどく脆く、感じやすくなっている。無遠慮に指を突き込まれ、クチャクチャと湿った音を立てて掻き回されると、一度は押さえ込もうとした肉欲は簡単に開花し、官能という蜜が溢れ出す。
「――鷹津に、ねちっこく弄られたようだな。熱くなって、俺の指をグイグイ締め付けてくる。だが……鷹津のものを咥え込んではない」
付け根まで挿入された指が蠢き、和彦はシーツを握り締めて腰を震わせる。これは、愛撫ではない。賢吾は、和彦の内奥を検分しているのだ。
「こんなことしなくても、わかるだろっ……」
「俺が知っている鷹津は、組が与えた〈女〉を平気でいたぶって、抱くような男だった。一度どん底を味わって変わったのか、それとも、先生が特別なのか。……ここまで念入りに尻を弄って、射精しておいて、俺の〈オンナ〉相手に欲情しなかったってことはないだろ」
和彦は頭に浮かんだ疑問を、乱れた息の下、肩越しに振り返って賢吾にぶつけた。
「……ぼくが、あの薄汚い男に抱かれてもよかったのか」
「先生も、なかなかきつい。――俺は慎重なんだ。気になるものは、調べて確かめる。それで利用できる相手なら、利用する。さらに俺の役に立てそうなら、俺の支配下に置く。俺は何かを企むのは好きだが、企まれるのは嫌いなんだ。鷹津の場合、その点を見極める必要がある。なんといっても、かつての悪党同士だからな。俺とあいつは少し似ている」
秦が言っていた人物評そのままのことを、賢吾は口にする。
和彦の考え及ばないところで、賢吾はさまざまな計略を巡らせているのかもしれないと思った。緻密に計略の糸を編み上げ、迂闊に誰かが引っかかれば、搦め捕る。
本人は、それこそ身を潜める大蛇のように、獰猛な性質を悟らせまいとじっとしているが、冷たい目は常に周囲の気配をうかがい、獲物を求めているのだ。だが、一度身を起こせば、巨体をしならせ、邪魔なものはなぎ倒す。捕えた獲物は容赦なく締め上げ、牙を突き立てたあとは、ゆっくりと呑み込んでしまう。
残酷だが、反面、強烈に惹きつけられる妄想だ。安定剤のせいもあり、ぼうっと見つめる和彦に、ゾクリとするほど官能的な声が傲慢に告げた。
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