血と束縛と

北川とも

文字の大きさ
上 下
180 / 1,268
第10話

(2)

しおりを挟む
「番犬? ぼくは、サソリに刺されたんだ。それに、三田村以外の番犬はいらない」
「三田村も、惚れられたもんだな。あいつはあいつで、先生にゾッコンだ。今夜のことを知ったら、先生のところに駆けつけたかったはずだが……、二日続けて事務所に詰めていたから、帰って休むよう命令した。そのあと、先生から電話がかかってきた」
 和彦はそっと眉をひそめる。
「……正直、三田村が来なくてよかった。あの優しい男に、心配をかけたくない」
「あとで話を聞いたら、どちらにしろ心配すると思うがな」
 賢吾の口調には、自分が鷹津を挑発したという後ろ暗さはない。和彦も、賢吾を責める気はなかった。責めたところで無駄だし、何より、鷹津に部屋に入り込まれ、体に触れられたのは自分自身の責任だ。
「千尋も、先生の一大事を知ったらキャンキャンとうるさかっただろうが、あいつは今、じいさんの家だ。本格的に跡継ぎ修行を始めるために、放り込んできた」
「なら、よかった……。こんなことになってると知ったら、千尋の甘ったれがひどくなる」
「気にかける男が多くて大変だな」
 そう言いながら賢吾の片手が、和彦が着込んでいるバスローブの紐を解く。シャワーを浴びてから羽織り、その格好でベッドに潜り込んだのだ。
「――忘れるなよ、先生。先生に一番惚れ込んでいるのは、この俺だ。惚れ込んで、骨抜きだ……」
 しっとりと唇が重なってきて、吐息をこぼした和彦は、従順に賢吾の舌を口腔に受け入れる。鷹津の痕跡を消すように口腔の粘膜を舐め回され、唾液を流し込まれる。
 口腔を犯すように、賢吾の口づけは深く激しかった。引き出された舌を痛いほど吸われながら、賢吾の大きな手が胸元を這い回り、鷹津の愛撫のせいで疼いている胸の突起を弄り始めた。
 凝った感触を確かめるように摘ままれ、引っ張られたかと思うと、指の腹で押し潰される。
「ここも、弄られたか?」
 賢吾の問いかけに、和彦の体はカッと熱くなる。短く笑った賢吾に、体にかけたブランケットを除けられ、バスローブを脱がされていた。鷹津の愛撫の跡が散った体を隠そうと、和彦は反射的にうつ伏せになったが、賢吾は容赦なかった。
 和彦は腰を抱えられ、唾液で濡らした指を内奥に挿入される。
「あうっ……」
「体に触れられた、というのは、間違ってはないが、正確な表現じゃないな。体の中も触れられたというべきだ」
 鷹津の指を受け入れてそれほど時間が経っていないため、和彦の内奥はひどく脆く、感じやすくなっている。無遠慮に指を突き込まれ、クチャクチャと湿った音を立てて掻き回されると、一度は押さえ込もうとした肉欲は簡単に開花し、官能という蜜が溢れ出す。
「――鷹津に、ねちっこく弄られたようだな。熱くなって、俺の指をグイグイ締め付けてくる。だが……鷹津のものを咥え込んではない」
 付け根まで挿入された指が蠢き、和彦はシーツを握り締めて腰を震わせる。これは、愛撫ではない。賢吾は、和彦の内奥を検分しているのだ。
「こんなことしなくても、わかるだろっ……」
「俺が知っている鷹津は、組が与えた〈女〉を平気でいたぶって、抱くような男だった。一度どん底を味わって変わったのか、それとも、先生が特別なのか。……ここまで念入りに尻を弄って、射精しておいて、俺の〈オンナ〉相手に欲情しなかったってことはないだろ」
 和彦は頭に浮かんだ疑問を、乱れた息の下、肩越しに振り返って賢吾にぶつけた。
「……ぼくが、あの薄汚い男に抱かれてもよかったのか」
「先生も、なかなかきつい。――俺は慎重なんだ。気になるものは、調べて確かめる。それで利用できる相手なら、利用する。さらに俺の役に立てそうなら、俺の支配下に置く。俺は何かを企むのは好きだが、企まれるのは嫌いなんだ。鷹津の場合、その点を見極める必要がある。なんといっても、かつての悪党同士だからな。俺とあいつは少し似ている」
 秦が言っていた人物評そのままのことを、賢吾は口にする。
 和彦の考え及ばないところで、賢吾はさまざまな計略を巡らせているのかもしれないと思った。緻密に計略の糸を編み上げ、迂闊に誰かが引っかかれば、搦め捕る。
 本人は、それこそ身を潜める大蛇のように、獰猛な性質を悟らせまいとじっとしているが、冷たい目は常に周囲の気配をうかがい、獲物を求めているのだ。だが、一度身を起こせば、巨体をしならせ、邪魔なものはなぎ倒す。捕えた獲物は容赦なく締め上げ、牙を突き立てたあとは、ゆっくりと呑み込んでしまう。
 残酷だが、反面、強烈に惹きつけられる妄想だ。安定剤のせいもあり、ぼうっと見つめる和彦に、ゾクリとするほど官能的な声が傲慢に告げた。

しおりを挟む
感想 80

あなたにおすすめの小説

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

朝起きたら幼なじみと番になってた。

オクラ粥
BL
寝ぼけてるのかと思った。目が覚めて起き上がると全身が痛い。 隣には昨晩一緒に飲みにいった幼なじみがすやすや寝ていた 思いつきの書き殴り オメガバースの設定をお借りしてます

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

処理中です...