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第9話
(16)
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「俺を潰したいからなんて理由で、こいつに近づくなよ。大事な大事な、俺たちのオンナだ。お前みたいな下衆が近づいていいような、安い人間じゃない」
「蛇みたいな男が、薄ら寒くなるようなことを言うな。……お前は、弱みを晒すような男じゃねーだろ。それとも、弱みを隠し切れないほど、そいつに骨抜きにされたか? 俺を失望させるようなことを言うなよ、クズどもの親玉ともあろう男が」
「しばらく辛酸を舐めたようだが、相変わらず口汚いな、鷹津。そんなんじゃ、誰にも好かれんだろ。それこそ、女だろうが、男だろうが――」
急に賢吾の腕が肩に回され、抱き寄せられる。和彦がハッとして賢吾を見ると、ニヤリと笑ってあごを掴み上げられた。
「おいっ……」
「鷹津が先生をつけ回すのは、先生の仕事っぷりが見たいからだろ。長嶺組でどんな役目を負わされているか、本当に俺の〈弱み〉になりうるか、とかな。だったら望み通り、先生の仕事ぶりを見せてやればいい。俺のものを咥え込むという、大事な仕事をな」
和彦は抵抗しようとしたが、有無をいわせず唇を塞がれる。呻き声を洩らしたときには強靭な舌が口腔に押し込まれていた。あごにかかっていた賢吾の手が移動し、両足の間に這わされたかと思うと、スラックスの上から手荒く和彦のものは揉みしだかれる。
「んんっ」
自分を侮辱した男の前で、賢吾との行為を晒したくなかった。ささやかに残っている和彦のプライドが軋み、悲鳴を上げるが、賢吾は力でねじ伏せてしまう。
ファスナーが下ろされ、入り込んできた指に形をなぞられる。ソファの背もたれに押し付けられながら、和彦が賢吾の体を退かそうともがいていると、嘲るような口調で鷹津が言った。
「おい、嫌がってるぞ。いくらヤクザのオンナとはいっても、少しぐらいはプライドがあるんだ。それを踏みにじるような酷なマネをしてやるなよ」
ようやく唇を離した賢吾が、ゾクリとするほど穏やかな声で応じる。
「鷹津、ずいぶんお優しくなったな。〈おまわりさん〉をやっている間に、多少はまともな人間性を取り戻せたか。……元からお前にそんなものがあったかどうか、俺は知らんがな」
「貴様っ……」
「刑事に復帰したと思ったら、俺のオンナのケツを追いかけ回す。どうした、こいつのケツが、そんなに美味そうか?」
和彦の顔を見つめたまま、賢吾はどこか楽しげに、たっぷりの毒を含んだ言葉を鷹津に向けて垂れ流す。ただ、大蛇を潜ませた目は、こんなときでも静かだ。賢吾は、鷹津と本気でやり合っているわけではない。弄しているだけだ。
抵抗をやめた和彦の唇を賢吾がそっと吸い上げ、囁いてきた。
「――お前は、誰のオンナだ? お前が気にするのは、お前を飼っている男の反応だけだ。あとは、誰が何を言おうが、傲然と顔を上げてろ。お前の価値は、俺が決める。……先生は、とびっきりだ」
ズキリと胸の奥が疼き、強い欲情が湧き起こる。うろたえる和彦を煽るように賢吾が唇を啄ばみながら、ベルトを外し始める。あやすように甘く優しい口づけに酔っている間に、スラックスと下着を脱がされそうになる。さすがに我に返って身を捩ろうとしたが、賢吾が意地悪く笑った。
「他人に見られるなんて、慣れてるだろ、先生。ただ、見ているのが刑事というだけだ。どうしようもない最低の刑事だけどな」
賢吾の煽りにすかさず鷹津が乗る。
「……それ以上続けると、二人とも警察署に引っ張るぞ」
「公然猥褻でか? そりゃ、大手柄だな、鷹津」
和彦はソファに押し倒され、無造作にスラックスと下着を奪い取られる。このとき靴も脱げてしまい、思わず視線を向けようとしたとき、鷹津と目が合った。
人間臭いドロドロとした感情に支配された、見ていて吐き気がするような嫌な目だ。嫌悪と怒りが見て取れ、まとわりつくような不快な熱を放っている。まるで他人を搦め捕ろうとするかのように、粘ついた眼差しをひたすら向けてくる。
のしかかってきた賢吾にジャケットの前を開かれ、ネクタイを抜き取られてワイシャツのボタンを外される。
苛立ったように鷹津は舌打ちした。
「こんなもの、見てられるかっ。俺は男に興味はない。俺がビデオカメラでも持っていたら、喜んで録画して、バラ撒いてやるところだがな」
そう吐き捨てて鷹津が立ち上がった瞬間、賢吾は鼻先で笑ってから言った。
「逃げるのか、鷹津」
「……避難だ。こんな気色の悪いもの、見てられるかっ……」
「見極めねーのか? こいつが、俺にとってどれだけ価値があるオンナなのか。弱みになるのか。こんな機会は、もう二度とねーぜ。俺は、特定のオンナは作らない主義だからな。――先生が最後かもしれない」
「蛇みたいな男が、薄ら寒くなるようなことを言うな。……お前は、弱みを晒すような男じゃねーだろ。それとも、弱みを隠し切れないほど、そいつに骨抜きにされたか? 俺を失望させるようなことを言うなよ、クズどもの親玉ともあろう男が」
「しばらく辛酸を舐めたようだが、相変わらず口汚いな、鷹津。そんなんじゃ、誰にも好かれんだろ。それこそ、女だろうが、男だろうが――」
急に賢吾の腕が肩に回され、抱き寄せられる。和彦がハッとして賢吾を見ると、ニヤリと笑ってあごを掴み上げられた。
「おいっ……」
「鷹津が先生をつけ回すのは、先生の仕事っぷりが見たいからだろ。長嶺組でどんな役目を負わされているか、本当に俺の〈弱み〉になりうるか、とかな。だったら望み通り、先生の仕事ぶりを見せてやればいい。俺のものを咥え込むという、大事な仕事をな」
和彦は抵抗しようとしたが、有無をいわせず唇を塞がれる。呻き声を洩らしたときには強靭な舌が口腔に押し込まれていた。あごにかかっていた賢吾の手が移動し、両足の間に這わされたかと思うと、スラックスの上から手荒く和彦のものは揉みしだかれる。
「んんっ」
自分を侮辱した男の前で、賢吾との行為を晒したくなかった。ささやかに残っている和彦のプライドが軋み、悲鳴を上げるが、賢吾は力でねじ伏せてしまう。
ファスナーが下ろされ、入り込んできた指に形をなぞられる。ソファの背もたれに押し付けられながら、和彦が賢吾の体を退かそうともがいていると、嘲るような口調で鷹津が言った。
「おい、嫌がってるぞ。いくらヤクザのオンナとはいっても、少しぐらいはプライドがあるんだ。それを踏みにじるような酷なマネをしてやるなよ」
ようやく唇を離した賢吾が、ゾクリとするほど穏やかな声で応じる。
「鷹津、ずいぶんお優しくなったな。〈おまわりさん〉をやっている間に、多少はまともな人間性を取り戻せたか。……元からお前にそんなものがあったかどうか、俺は知らんがな」
「貴様っ……」
「刑事に復帰したと思ったら、俺のオンナのケツを追いかけ回す。どうした、こいつのケツが、そんなに美味そうか?」
和彦の顔を見つめたまま、賢吾はどこか楽しげに、たっぷりの毒を含んだ言葉を鷹津に向けて垂れ流す。ただ、大蛇を潜ませた目は、こんなときでも静かだ。賢吾は、鷹津と本気でやり合っているわけではない。弄しているだけだ。
抵抗をやめた和彦の唇を賢吾がそっと吸い上げ、囁いてきた。
「――お前は、誰のオンナだ? お前が気にするのは、お前を飼っている男の反応だけだ。あとは、誰が何を言おうが、傲然と顔を上げてろ。お前の価値は、俺が決める。……先生は、とびっきりだ」
ズキリと胸の奥が疼き、強い欲情が湧き起こる。うろたえる和彦を煽るように賢吾が唇を啄ばみながら、ベルトを外し始める。あやすように甘く優しい口づけに酔っている間に、スラックスと下着を脱がされそうになる。さすがに我に返って身を捩ろうとしたが、賢吾が意地悪く笑った。
「他人に見られるなんて、慣れてるだろ、先生。ただ、見ているのが刑事というだけだ。どうしようもない最低の刑事だけどな」
賢吾の煽りにすかさず鷹津が乗る。
「……それ以上続けると、二人とも警察署に引っ張るぞ」
「公然猥褻でか? そりゃ、大手柄だな、鷹津」
和彦はソファに押し倒され、無造作にスラックスと下着を奪い取られる。このとき靴も脱げてしまい、思わず視線を向けようとしたとき、鷹津と目が合った。
人間臭いドロドロとした感情に支配された、見ていて吐き気がするような嫌な目だ。嫌悪と怒りが見て取れ、まとわりつくような不快な熱を放っている。まるで他人を搦め捕ろうとするかのように、粘ついた眼差しをひたすら向けてくる。
のしかかってきた賢吾にジャケットの前を開かれ、ネクタイを抜き取られてワイシャツのボタンを外される。
苛立ったように鷹津は舌打ちした。
「こんなもの、見てられるかっ。俺は男に興味はない。俺がビデオカメラでも持っていたら、喜んで録画して、バラ撒いてやるところだがな」
そう吐き捨てて鷹津が立ち上がった瞬間、賢吾は鼻先で笑ってから言った。
「逃げるのか、鷹津」
「……避難だ。こんな気色の悪いもの、見てられるかっ……」
「見極めねーのか? こいつが、俺にとってどれだけ価値があるオンナなのか。弱みになるのか。こんな機会は、もう二度とねーぜ。俺は、特定のオンナは作らない主義だからな。――先生が最後かもしれない」
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