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第9話
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「俺に捨てられたくない、というふうに聞こえるな、その言葉は」
「耳がおかしいんじゃないか」
減らず口、と呟いた賢吾が、少し手荒に和彦の髪を掻き乱す。
「――俺は、先生を捨てるつもりも、気に障ったからといって傷つけるつもりもない。ヤクザは手品師じゃないからな、簡単に死体をパッと消せるってわけじゃないんだ。死体の始末は、おそろしく手間と時間がかかる」
よく考えてみれば怖い発言なのだが、なぜだかこのとき、和彦は込み上げる笑いを堪えられなかった。
くくっ、と声を洩らして笑うと、賢吾も目元を和らげる。
「俺は先生を汚したくない。俺の知らない男が先生に触れるなんて、我慢できないんだ。先生に触れていいのは、俺か、俺が許可した男だけだ。今は、千尋と三田村だけだな」
身を屈めた賢吾に柔らかく唇を吸い上げられ、和彦もゆっくりと応じる。さきほどまで三人で和彦の体を貪ってきながら、和彦の唇に触れてきたのは賢吾だけだ。見ていたわけではないが、これも確信していた。
「先生は、厄介なぐらい、性質が悪い男を引き寄せる。そこが、刺激的で魅力的でもあるんだがな。だが、自分の立場をしっかりと頭と体に叩き込んでおけ。――お前は、長嶺賢吾のオンナだってことを」
柔らかく唇を吸われたあと、甘噛み程度に歯を立てられる。
「先生のみっともないところも、恥ずかしいところも、全部見てやった。だから遠慮はするな。俺は先生をオンナにした。その見返りに、先生は俺に〈力〉を要求できる。それだけのことだ。困ったことがあれば俺や組を頼ればいい。もちろんその中には、千尋や三田村も含まれている。みんな、大事な先生のために、張りきって働いてくれるぜ」
これはヤクザの手口だと、和彦の頭の片隅で声がする。甘い言葉で人を翻弄して、操ってしまうのだ。現にもう和彦は、そのヤクザの手口にまんまと乗せられている。
これ以上、この男たちに関わってしまったら――。
「……秦とのことは、浮気じゃないからな」
賢吾の頬を撫でながら、和彦は念を押すように囁く。目の前で賢吾はニヤリと笑い、同時に、賢吾の中にいる大蛇がチロリと舌を覗かせたようだった。
「あの男は、俺の身内じゃない。そんな男が、俺のオンナに手を出したらどうなるか、よく教えてやらないと」
「荒っぽいことは嫌いだ」
賢吾が間近から目を覗き込んでくる。息を詰めて和彦も、じっと賢吾の目を見つめ返す。燻る情欲の余韻に浸っていてもいいはずなのに、賢吾の目は相変わらず大蛇を潜ませ、ひんやりとしたものを感じさせる。
この目に見つめられて心地いいと思い始めたら、自分は危ういところまで来ているのかもしれない。そんなことを思いながら和彦は、賢吾の頭を引き寄せて唇に噛みついた。
「俺は臆病だから、滅多なことじゃ、荒っぽい手段は取らない。大蛇らしく、ゆっくりと獲物を締め上げていくほうが、楽しめるしな。その過程で、何かおもしろいことが起こらないとも限らない」
何度となく唇を触れ合わせながら、こんなことを賢吾が話す。何が言いたいのかと眉をひそめる和彦に対し、賢吾はこう言った。
「先生は、秦に興味津々のようだから、調べておいてやる」
「別に――」
「元ホストの実業家という肩書き以上に、おもしろいものが見つかるかもしれないぞ」
和彦とは違う視点で、賢吾が秦に興味を持っているのだと感じ取ると、頷く以外の返事などできるはずがなかった。
賢吾は満足そうに唇に笑みを刻み、和彦の髪にそっと口づけてきた。
「千尋を呼んでやる。一緒に風呂に入って、よく体を洗ってもらえ。……三人の男を愛してくれた場所は、特に念入りにな。治療が必要なら、自分でできるだろ、――先生」
賢吾の囁きに、ジン……と和彦の胸の奥が疼いた。
「耳がおかしいんじゃないか」
減らず口、と呟いた賢吾が、少し手荒に和彦の髪を掻き乱す。
「――俺は、先生を捨てるつもりも、気に障ったからといって傷つけるつもりもない。ヤクザは手品師じゃないからな、簡単に死体をパッと消せるってわけじゃないんだ。死体の始末は、おそろしく手間と時間がかかる」
よく考えてみれば怖い発言なのだが、なぜだかこのとき、和彦は込み上げる笑いを堪えられなかった。
くくっ、と声を洩らして笑うと、賢吾も目元を和らげる。
「俺は先生を汚したくない。俺の知らない男が先生に触れるなんて、我慢できないんだ。先生に触れていいのは、俺か、俺が許可した男だけだ。今は、千尋と三田村だけだな」
身を屈めた賢吾に柔らかく唇を吸い上げられ、和彦もゆっくりと応じる。さきほどまで三人で和彦の体を貪ってきながら、和彦の唇に触れてきたのは賢吾だけだ。見ていたわけではないが、これも確信していた。
「先生は、厄介なぐらい、性質が悪い男を引き寄せる。そこが、刺激的で魅力的でもあるんだがな。だが、自分の立場をしっかりと頭と体に叩き込んでおけ。――お前は、長嶺賢吾のオンナだってことを」
柔らかく唇を吸われたあと、甘噛み程度に歯を立てられる。
「先生のみっともないところも、恥ずかしいところも、全部見てやった。だから遠慮はするな。俺は先生をオンナにした。その見返りに、先生は俺に〈力〉を要求できる。それだけのことだ。困ったことがあれば俺や組を頼ればいい。もちろんその中には、千尋や三田村も含まれている。みんな、大事な先生のために、張りきって働いてくれるぜ」
これはヤクザの手口だと、和彦の頭の片隅で声がする。甘い言葉で人を翻弄して、操ってしまうのだ。現にもう和彦は、そのヤクザの手口にまんまと乗せられている。
これ以上、この男たちに関わってしまったら――。
「……秦とのことは、浮気じゃないからな」
賢吾の頬を撫でながら、和彦は念を押すように囁く。目の前で賢吾はニヤリと笑い、同時に、賢吾の中にいる大蛇がチロリと舌を覗かせたようだった。
「あの男は、俺の身内じゃない。そんな男が、俺のオンナに手を出したらどうなるか、よく教えてやらないと」
「荒っぽいことは嫌いだ」
賢吾が間近から目を覗き込んでくる。息を詰めて和彦も、じっと賢吾の目を見つめ返す。燻る情欲の余韻に浸っていてもいいはずなのに、賢吾の目は相変わらず大蛇を潜ませ、ひんやりとしたものを感じさせる。
この目に見つめられて心地いいと思い始めたら、自分は危ういところまで来ているのかもしれない。そんなことを思いながら和彦は、賢吾の頭を引き寄せて唇に噛みついた。
「俺は臆病だから、滅多なことじゃ、荒っぽい手段は取らない。大蛇らしく、ゆっくりと獲物を締め上げていくほうが、楽しめるしな。その過程で、何かおもしろいことが起こらないとも限らない」
何度となく唇を触れ合わせながら、こんなことを賢吾が話す。何が言いたいのかと眉をひそめる和彦に対し、賢吾はこう言った。
「先生は、秦に興味津々のようだから、調べておいてやる」
「別に――」
「元ホストの実業家という肩書き以上に、おもしろいものが見つかるかもしれないぞ」
和彦とは違う視点で、賢吾が秦に興味を持っているのだと感じ取ると、頷く以外の返事などできるはずがなかった。
賢吾は満足そうに唇に笑みを刻み、和彦の髪にそっと口づけてきた。
「千尋を呼んでやる。一緒に風呂に入って、よく体を洗ってもらえ。……三人の男を愛してくれた場所は、特に念入りにな。治療が必要なら、自分でできるだろ、――先生」
賢吾の囁きに、ジン……と和彦の胸の奥が疼いた。
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