血と束縛と

北川とも

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第9話

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 和彦が喉を反らして呻き声を洩らすと、唇を割り開くようにして指を含まされ、舌を刺激される。
 ヌチュッと湿った音を立てて、内奥深くに逞しいものを呑み込まされていた。重々しく突き上げられて和彦の体を駆け抜けたのは、嫌悪感ではなく、爪先から頭の先まで駆け抜けるような肉の悦びだった。口腔から指が引き抜かれ、声が抑えられない。
「あっ、あっ、やめ、ろ――……。こんなの、嫌だ……」
「体は嫌がってない。尻に入れられた途端、涎の量が増えたぜ、先生。知らない男のものだとは言っても、具合のいい道具だと思えば、抵抗は少ないだろ。それにこの道具は、先生の好きな熱い液体を、尻の奥にたっぷり出してくれるぜ」
 賢吾の指摘を受けたように、反り返ったものの先端を撫でられる。悦びのしずくを滴らせているのかヌルヌルとした感触を認識し、和彦は体を波打たせる。
「いやらしい体だ」
 笑いを含んだ声で賢吾が言い、唇を軽く吸われる。その間も、内奥を果敢に突き上げられ、繊細な襞と粘膜は蹂躙されながらも、快感を知らせてくる。誰とも知れない男の欲望を、狂おしいほど締め付けていた。
「んあっ、はあっ、あっ、ああっ――」
 自分ではどうすることもできず、突き上げられながら欲望を扱かれ、和彦は絶頂に達する。自ら放った精で下腹部を濡らしていた。そして内奥深くでは、力強く脈打った男のものが、賢吾が言ったとおり、熱い精を遠慮なく迸らせる。
「あうっ、うっ」
 気を失いそうなほどの快美さに、和彦は今の状況も忘れて恍惚としてしまう。
 すぐに男のものは引き抜かれ、今度はうつぶせの姿勢を取らされて腰を抱え上げられる。新たに、硬く張り詰めた欲望を含まされた。
「くうっ……ん」
 拒絶の声を上げたかったのに、和彦の唇から発せられたのは、鼻にかかった甘い声だった。
 すぐに男は腰を使い始め、力強い律動を内奥で刻む。乱暴に双丘を鷲掴まれ、限界まで押し開かれると、先に注がれた精をはしたなく滴らせながら、出し入れされる男のものを締め付ける。
「あっ、あっ、うあっ……」
 腰を引き寄せられ、円を描くように内奥を掻き回される。逞しいものが狭い内奥で蠢く感触は、強烈だ。ビクッ、ビクッと腰を震わせると、まるで宥めようとするかのように両足の間に手が入り込み、再び反応している和彦のものに優しい愛撫を加えてくる。さらに別の手が、柔らかな膨らみを巧みに揉み込んでくる。
 放埓に悦びの声を上げて感じる和彦に対して、男たちは容赦なく快感という責め苦を与えてきた。強弱をつけた愛撫と律動が間断なく和彦を襲い、精を搾り取られる。
 そしてその代わりのように、熱い精を内奥に注ぎ込んでくれるのだ。
 いつの間にか、賢吾は話しかけてこなくなっていた。そのため、周囲で男たちに動かれると、どこに賢吾がいるのかわからなくなる。知らない男たちの中に放り込まれているのだとしたら、和彦にとって頼るべき相手は賢吾しかいないのだ。
「賢吾、さん……」
 不安になって思わず呼びかけると、返事がないまま、布団に横たえた体に誰かがのしかかり、片足だけを大きく押し上げられる。有無を言わさず、熱く逞しい欲望が内奥に挿入されてきた。


 手首を縛める布と目隠しがようやく取られたとき、部屋には和彦と賢吾しかいなかった。
 別に悲しくはないのだが、目から涙がこぼれ落ちると、和彦の傍らに座って髪を撫でていた賢吾が当然のように指先で拭ってくれる。
「どこか痛むところはないか?」
 問いかけられ、反射的に頷いてしまう。実際、和彦は体のどこも痛めていない。ただ快感を与えられ、男の精を与えられ、よがり狂っただけだった。自分がそうなった理由は、わかっていた。そのせいで下肢が痺れたようになり、思うように力が入らないのは、仕方ないだろう。
 ついさきほどまで和彦を抱いていたのは、千尋と三田村、それに賢吾だ。
 誰よりも和彦の体の扱い方を心得た男たちは、和彦に対して、決して手荒なことはしない。
 混乱している最中は、知らない男たちに体を自由にされていると思い込んでいたが、何度となく快感の波に翻弄されているうちに、体はそれぞれの男たちの愛し方を思い出した。
 だからといって安堵できたわけではなく、一度に三人の男たちから快感を与えられ、求められる状況に、異常な興奮と羞恥、抵抗を覚えていた。
「怖かったか?」
 再び賢吾に問いかけられ、和彦は少し考えてから頷く。
「……最初は、怖くてたまらなかった。体をバラバラにされるかと思った」
「俺がそんなことをするはずがないだろう」
「あんたにとって価値がなくなったら、そうされても不思議じゃないと思ったんだ」
 意外そうに目を丸くした賢吾が、次の瞬間にはニヤリと笑う。

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