血と束縛と

北川とも

文字の大きさ
上 下
150 / 1,268
第8話

(22)

しおりを挟む
「わかっている。だから俺は、先生がいなくなったあと、真っ先にここに来た。先生は、俺の……俺たちの手の届かないような場所に一人ではいかないと、信じていた」
 こちらに歩み寄ってきながらの三田村の言葉に、ふっと心が軽くなる。ヤクザの言葉なんて信じないと言い続けていた和彦だが、本当はずっと、信じたかった。だから、三田村の言葉は信じられる。三田村だけではない。千尋や、何度も騙されて悔しい思いをしていながらも、賢吾の言葉ですらも。
 目の前に立った三田村に頭を引き寄せられ、素直に肩に顔を埋める。
 和彦はやっと、しっくりくる答えを見つけ出せた。元の生活に戻ることにためらいを覚えるほど、今の生活に愛着を抱いているのではない。自分を求めてくれている男たちを――愛しいと感じているだけだ。
「先生がここにいるとわかったら、それでいい。俺は外で待っているから、気が済むまで――」
「もう、いいんだ。もう、一人はいい……」
 次の瞬間、三田村にきつく抱き締められ、和彦も両腕をしっかりと三田村の背に回してしがみつく。
「三田村、話したいことがある」
「ああ。だったら……俺たちの部屋に行こう。明日の朝までは、ずっと一緒にいられる」
 和彦はちらりと笑みをこぼしてから、三田村に肩を抱かれてこの場を移動する。
 本当はゆっくりと腰を落ち着けて話すのがいいのだろうが、勝手だと自覚しながらも和彦は、今は一刻も早く、抱えた秘密を自分の中から追い出したかった。
「……鷹津に言われたんだ。自分なら、ぼくからヤクザを引き離せると。少し、心が揺れた」
 エレベーターを待ちながらの和彦の告白に、三田村は口元に淡い笑みを浮かべた。
「正直だな、先生は」
「怖く感じたんだ。あの男の言葉に、すぐに飛びつかなかった自分が。最初は、こんな生活は冗談じゃない、逃げだしたいと思っていたはずなのに、その気持ちが薄らいでいた」
 エレベーターに乗り込み、扉が閉まったところで、和彦はくしゃくしゃと自分の髪を掻き乱す。
「先生?」
「違うっ……。鷹津のことじゃない。その前に、秦のことだ。ぼくは、あの男と――」
「先生っ」
 三田村に乱暴に頭を引き寄せられ、間近で見つめられる。一階に着いたエレベーターの扉が一度開いたが、三田村が片手を伸ばして素早くボタンを押し、扉を閉めてしまう。
 和彦は、痛い棘を吐き出すように告げた。
「……ぼくは、秦と寝そうになった」
 三田村の返事は、感情をぶつけてくるような激しい口づけだった。
 それは間違いなく、嫉妬という感情だ。


 熱い吐息をこぼしながら和彦は、三田村の逞しい欲望に舌を這わせる。何度も根元から舐め上げ、ときおり舌を絡みつかせ、吸い付き、ひたすら三田村の快感のために尽くす。
 三田村にこの愛撫を施すのは、初めてだった。いままで、和彦のものを丹念に愛してくれながら、三田村は自分がされることを望まなかったのだ。なんだか申し訳ない、という理由は、いかにも三田村らしいと言える。だが今日は、和彦が頑として聞き入れなかった。
 最初は慣れていない様子でベッドの上にあぐらをかいて座り、緊張している素振りすら見せていた三田村だが、欲望の高ぶりとともに、和彦の愛撫を受け入れる気になったらしい。
 何度も優しい手つきで髪を梳いてくれていたが、その手が後頭部にかかり、わずかに力が込められる。三田村の求めがわかった和彦は、透明なしずくが滲んだ先端を丹念に舐めてから、ゆっくりと三田村のものを口腔に呑み込んでいく。濡れた粘膜で包み込み、吸引しながら、唇で締め付ける。興奮した三田村のものが、口腔で力強く脈打つ。和彦はゆっくりと頭を上下させながら、三田村の欲望を愛してやる。
 部屋に移動するまでの間に、抱えた秘密はすべて三田村に話した。中嶋に頼まれて、秦の怪我の手当てをしたこと。そのときキスをされたのに、また部屋に出かけて、今度は体を重ねそうになったこと。どうしてそうなったのか、会話の流れも正直に話した。
 自分の中で都合よく出来事を継ぎ接ぎするより、すべてを三田村――そして賢吾へと伝えて、客観的に判断されるほうが正確だ。和彦にはわからない事実が、〈怖い男たち〉には見えているかもしれない。
 和彦は口腔深くまで三田村のものを呑み込み、ただ舌を添えて動きを止める。三田村が深い吐息を洩らし、その反応に胸が疼かされる。すると、あごの下をくすぐられ、頬に手がかかった。
「先生、もう――……」
 ようやく顔を上げた和彦は腕を掴まれ、やや性急にベッドに押し付けられる。先に情熱的な愛撫を与えられて解された内奥に、再び三田村の指が挿入された。
「あうっ」

しおりを挟む
感想 80

あなたにおすすめの小説

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

処理中です...