血と束縛と

北川とも

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第7話

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 気遣う言葉をかけてきながら、三田村の眼差しは鋭い。和彦と秦の間に何かあると確信している目だ。
 こうなった三田村ですら怖いのに、本当のことを賢吾に告げたらどうなるか――。
 想像して、背筋が冷たくなる。
「……なんでもない……」
 和彦はそう答えると、携帯電話を三田村の手に押し付け、顔を背けた。


 秦の目的を知るにはどうすればいいのか、部屋に戻ってから和彦はずっと考えていた。目的がわからなければ、動きようがなく、最終的に長嶺組に――賢吾の力に頼ることになるかどうか、判断もできない。
 電話で秦に言われた言葉は、確実に和彦の判断力と決断力を鈍らせた。迂闊に誰にも相談できなくなったのだ。もちろん、和彦を大事にしてくれる〈オトコ〉にも。
 帰りの車の中で、和彦と三田村はほとんど会話を交わさなかった。和彦の口を重くしたのは、罪悪感と、秦とのことを知られてはいけないという恐怖心からだが、三田村の場合は、よくわからない。もともと多弁な男ではないし、話しかけないでほしいという和彦の気配を敏感に読み取ったともいえる。
 秦からの電話を受けて和彦の様子がおかしくなったと、賢吾に報告したのかどうか、今はそれが心配だった。
 こんな心配をする自分の賢しさも、罪悪感に拍車をかける。
 膝を抱えてソファに座った和彦は、口寂しさを紛らわせるようにワインを飲む。寝酒でもしないと、今夜は眠れそうにない。
 深いため息をついたとき、インターホンが鳴った。こんな時間に誰だと思いながら立ち上がり、テレビモニターを覗く。映っていたのは三田村だった。
『――こんな時間にすまない。本当は電話でもよかったんだが、昼間、先生の調子が悪そうだったのが気になったんだ』
 三田村と関係を持つ前なら、ごっそりと感情をどこかに置き忘れたような無表情から、なんの感情も読み取れなかっただろうが、今は違う。モニターを通しても、三田村が本気で心配してくれているとわかる。
『直接顔を見たら、すぐに帰る。だから……少し寄ってもかまわないか?』
 短く返事をしてロックを解除する。すぐに三田村は上がってきた。
 玄関のドアを開けた和彦は、三田村の手にあるものを見て目を丸くする。すると、強面のヤクザは決まり悪そうに顔をしかめた。
「こういうとき、見舞いに何を持ってきたらいいかわからないんだ」
「だから、ワインなのか?」
「気に入らないなら、違うものを買い直して――」
 三田村が立ち去ろうとしたので、慌てて和彦は玄関に引き込む。すかさず三田村に片腕でしっかり抱き締められた。
「これでよかったか?」
「ちょうど今、一人でワインを飲んでたんだ。だけど――こうして会いにきてくれただけで、嬉しい」
 和彦がそう言うと、背にかかっていた三田村の手が後頭部に移動し、優しい男には似つかわしくない動作で後ろ髪を掴まれる。それが三田村の激しさを物語っているようで、妙な表現だが、和彦は嬉しい。
 まずは互いの想いを確かめるように、濃厚な口づけを交わす。荒々しく唇を吸われ、熱い舌で犯すように口腔をまさぐられてから、和彦は両腕をしっかりと三田村の背に回し、しがみついた。
 玄関で立ったまま、長い口づけを堪能する。絡めていた舌をようやく解き、息を喘がせながら和彦は、三田村の舌にそっと噛みつく。その行為に応えるように、ずっと和彦の抱き寄せ続けていた三田村の片腕に、ぐっと力が加わった。
「……部屋に上がらないか?」
 和彦がそう誘うと、三田村は小さく首を横に振る。
「そうすると、聞かれたくない話ができなくなる」
 思わず和彦が顔を強張らせると、三田村は今度は頷いた。
 どうやら、この部屋に盗聴器が仕掛けられていると、三田村も察したらしい。おそらく寝室だけだと思うが、和彦も詳しく調べたわけではない。
 一度体を離して三田村がくれたワインを靴箱の上に置くと、すぐに手を掴まれ、和彦はまた三田村の腕の中に戻った。
「――組長には、まだ何も報告していない。あくまで俺の中で、先生の体調が少し悪そうだということで処理している。ただ、もしまた、秦から連絡があったら、さすがに報告しないわけにはいかない」
 和彦は、三田村の肩に額を押し当てる。
「すまない……。ただでさえ、ぼくのことで気をつかわせているのに、組長にウソをつくようなことをさせて」
「ウソはついていない。俺も万能じゃないから、一つぐらい些細なことを見逃すこともあるというだけだ」
 組長である賢吾に対する忠誠心と、和彦を気遣う気持ちで、三田村を板ばさみにしていることが申し訳ない。
 和彦の背を何度も撫でながら、淡々とした声で三田村が問いかけてくる。

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