血と束縛と

北川とも

文字の大きさ
上 下
109 / 1,268
第6話

(22)

しおりを挟む
 それがなんであるかわかったのは、内奥に含まされてからだった。秦の指で奥まで押し込まれ、前触れもなく小刻みに振動する。
「ひあっ……」
 背後から伸びてきた秦の手にあごを掬い上げられた和彦は、鏡に映った自分の顔を嫌でも見てしまう。目を潤ませ、頬を上気させた、明らかに発情した男の顔が、目の前にあった。背後には、堪えきれないような笑みを浮かべた秦がいる。
「わかりますか、先生? 今、先生の中に、ローターが入っています。すごく美味しそうに咥え込んでますよ」
 そう囁かれると同時に、内奥深くに押し込まれて震えるローターが引き抜かれそうになる。秦がコードを引っ張ったのだ。和彦は反射的に内奥をきつく収縮させていた。
「うっ、ううっ」
「締め付けてますね。気に入りましたか? このおもちゃ」
 再び秦の指によってローターが内奥深くに押し込まれ、そのうえ、振動が強くなる。足掻くように片手を伸ばした和彦は、鏡に触れる。すると、その手の上に秦が手を重ね、握り締めてきた。
 ハンカチで包まれた和彦のものが緩く上下に扱かれ、内奥深くで響くローターの振動も加わり、和彦は一人静かに乱れる。そんな和彦の耳に何度も唇を押し当てながら、秦は掠れた声で囁いてきた。
「――これは、わたしと先生の秘密ですよ」
 ようやく和彦が顔を上げると、鏡越しに秦と目が合い、美貌の男は艶然と微笑む。喘ぐ和彦の唇の端に、そっと唇が押し当てられていた。
「名残惜しいですが、そろそろ終わりにしましょうか。先生の忠実な騎士が、いつ駆け込んでくるかわかりませんから」
 すぐにローターが引き抜かれるのかと思ったが、内奥の入り口に、さらに熱く硬い感触が押し当てられる。
「あっ」
 和彦は思わず声を上げるが、かまわず〈それ〉はこじ開けるようにして、すでにローターを呑み込んでいる内奥に、太い部分を呑み込ませようとする。
 秦に犯されようとしている――。
 そう強く認識したとき、和彦の体に嫌悪と同時に、甘美な感覚が駆け抜けた。
「んあっ、あっ、あっ、あうっ……」
 ハンカチ越しに秦の手に扱かれ、和彦は精を迸らせていた。
 スッと体を離した秦によって、半ば強引にローターが引き抜かれる。激しく息を喘がせ、体を震わせる和彦に対して、秦は愉悦を含んだ声でこう言った。
「先生との最初の秘密としては、上出来ですね。先生の奥を味わえないのは残念ですが、焦ることもないでしょう。これからも仲良くできるでしょうから」
 和彦はすでにもう、怒りも羞恥も戸惑いも感じることはできなかった。わずかに残る意識で、秦が自分が思っていたような男でなかったことと、迎えにくる三田村に、こんな姿は見られたくないということを考えるので、精一杯だ。
 秦に格好を整えられ、抱きかかえられるようにして体を起こされても、その腕から逃れることすらできない。
 そんな和彦を、秦は両腕でしっかりと抱き締めてきた。
「――先生みたいな人でなかったら、わたしもこんな手段は取らなかったんですけどね。なんとなくわかるんです。先生に対して、この手段は有効だと。これで先生は、嫌でもわたしを意識せざるをえない。先生の引いた境界線の内側に、わたしも入れたということですよ」
 秦の顔が近づいてきて、和彦はなんとか顔を背けようとしたが、ささやかな抵抗はあっさりと無視され、唇を塞がれる。
「んっ……」
 柔らかく唇を吸われて、舌先でくすぐられる。自分では歯を食い縛ったつもりだったが、もしかすると口腔に秦の舌を受け入れたかもしれない。和彦にはもう、よくわからなかった。
 支えられながらパウダールームを出て店内に戻ると、恭しいほど丁寧にソファに座らされようとしたが、突然、店に駆け込んでくる慌ただしい足音がした。
「先生っ」
 しっかり耳に馴染んでいるはずのハスキーな声が、いままで聞いたことのないような動揺を滲ませていた。あれだけ言うことをきかなかった和彦の体が、何かの力を得たようにしっかりと自分の足で立つことができ、秦を押し退ける。
「三田村っ……」
 救いを求めるように手を伸ばすと、駆け寄ってきた三田村に受け止められる。
「先生っ? 先生、しっかりしろっ」
 必死に三田村に呼ばれたが、その声すらすぐに耳に届かなくなる。
 和彦は、三田村の腕の中で、完全に意識を手放していた。

しおりを挟む
感想 80

あなたにおすすめの小説

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

処理中です...