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第4話
(15)
しおりを挟むヤクザの組長の本宅で寛ぐというのも、変な状況だった。
風呂イスに腰掛けた和彦は無意識に顔をしかめつつ、石けんを泡立てる。
昼間、長嶺の本宅に着いてから、特に何かさせられるわけでもなく、本当にのんびりと過ごしている。広い家のあちこちに残っている、過去の抗争の痕跡を説明してもらったときは、さすがに苦笑してしまったが、それ以外では非常に快適だ。
顔を合わせる組員たちも、和彦に対して露骨に感情を表すこともなく、自然に接してくれる。それが賢吾や千尋を立てるための気遣いだとしても、少なくとも反発されたり嫌悪されるより、よほどいい。
賢吾は仕事が忙しいらしく、和彦の相手をしてくれたのは、ほとんど千尋だ。というより、ひたすら和彦にまとわりつき、じゃれついていた。おもちゃでも投げたら、喜んで走って取りに行ったかもしれない。
夕飯を、広いダイニングで賢吾と千尋の三人でとってから、中庭に出てデザートまで堪能したあと、和彦だけが追いやられるようにして風呂場に案内された。
このまま何事もなく寝かせてもらえると思うほど、和彦は能天気ではない。小さく身震いしてから、たっぷり泡立てたタオルで腕から洗い始める。
振り払おうとしても、賢吾に囁かれた言葉が頭から離れなくなっていた。
『――お前を、俺たちにとって本当に特別なオンナにする』
男の身で、こんなことを言われたところで嬉しくない。嬉しくないはずなのに――どうしても胸の鼓動が速くなり、体が熱くなってくる。
この本宅に連れてこられたことが、賢吾の言葉の意味なのだろう。なのに、まだ何かを期待しているようで、自分で自分の反応が忌々しい。
乱暴に息を吐き出した和彦が、タオルを握る手に力を込めたそのとき、脱衣場で物音がした。ハッとしてガラス戸を見ると、人影が動いている。身構える間もなかった。
ガラス戸が開いて姿を見せたのは、賢吾だ。当然のことながら、何も身につけていない。年齢による衰えをまったく感じさせない体を晒し、まるで威圧するように風呂場に入ってきた。
湯気でわずかに視界が霞む中でも、賢吾の肩にのしかかっている大蛇の巨体の一部は、うねっているかのように生々しく見える。
「な、んで……」
ようやく和彦が声を発すると、賢吾が澄ました顔で答える。
「うちの風呂は広いんだ。二人で入っても、全然困らないだろう」
確かに広いが、そういう問題ではない。相手が賢吾であれば、特に。
和彦は慌てて泡を洗い流そうとしたが、賢吾にその手を止められて引き寄せられる。檜の板張りとなっている床の上に、賢吾とともに座り込んでいた。
和彦の手からタオルを取り上げ、賢吾が楽しげに囁く。
「体を洗ってやる。じっくりとな」
その言葉にウソはなかった。和彦の体は石けんの泡が丁寧に施され、賢吾のてのひらによって洗われていく。
それだけなら問題がないのだが――。
「あっ……」
泡塗れになった賢吾の手によって、和彦の敏感なものは包み込まれ、緩やかに扱かれる。腰が引けそうになるが、背後からしっかりと賢吾に捕らわれているため、逃れることもできない。
「――先生」
呼ばれて、おずおずと振り返ると、そこに真剣な賢吾の顔がある。何か言われたわけでもないのに、和彦は小さく喘いでから賢吾の唇にそっと自分の唇を重ねた。すると、賢吾のもう片方の手に、和彦の柔らかな膨らみは包み込まれる。
「ひっ、あぁっ」
泡で滑る手に柔らかく揉みしだかれ、たまらず和彦は、ビクッ、ビクッと腰を震わせ、背をしならせる。下肢が、甘く溶けてしまいそうだった。
「あとでたっぷり、ここを揉んで悦ばせてやる。最近、弄られるのがよくなってきたみたいだからな。今は、洗うだけだ」
賢吾の的確に動く指は貪欲に、和彦の官能を刺激する場所を暴いていく。
膝裏を掴まれて片足を持ち上げられると、賢吾の指が秘裂を滑る。まさぐってきたのは、凶暴な欲望すらも従順に呑み込んでしまう窄まりだった。
「い、やだ……」
上辺だけの和彦の言葉は簡単に無視される。石けんの滑りを借り、いつも以上にスムーズに賢吾の指が内奥に挿入された。
「うあっ――」
感じやすい粘膜にジン……と石けんが沁みる。それを痛みと認識するより先に、体が疼いた。
「よく、解しておいてやるからな。なんといっても……」
賢吾の言葉を最後まで聞き取ることはできなかった。ここまでの丁寧さがウソのように性急に指の数が増やされ、内奥を押し開かれたからだ。
「うっ、うっ、やめろ……。沁みるんだ……」
「沁みるから、ひくついてるのか?」
おもしろがるように賢吾に指摘され、羞恥と屈辱で体を熱くしながら和彦は、賢吾の手に、自分の手をかける。淫らな行為をやめさせようとしたのだが、賢吾の指に浅い部分をぐっと押され、咄嗟に手を握り締めていた。
「あっ、ああっ」
「もっと、ひくついたな。先生は、どこもかしこもイイところだらけだ」
背後から賢吾の唇が耳に押し当てられ、そんな言葉を注ぎ込まれる。同時に内奥には、指によって快感を送り込まれる。
石けんで滑る指は、いつもはないリズミカルな動きで、新鮮な感覚を生み出す。指をしっかり付け根まで埋め込まれて蠢かされると、和彦は呻き声を洩らして腰を揺らしていた。
ここで、あっさりと指は引き抜かれ、いきなり頭から湯をかけられる。和彦は床に倒れ込みそうになりながら、石けんの泡を洗い流されていた。賢吾も簡単に湯を浴びてから、半ば抱きかかえるようにして和彦を脱衣場から連れ出し、手荒く体を拭いて、まるで巻きつけるように適当に浴衣を着せられた。
中庭に面した廊下を歩きながら和彦は、頭がふらつき、賢吾にすがりつくしかなかった。気を抜くと、その場に座り込んでしまいそうだが、そんなことを賢吾が許すはずがない。和彦の腰を支える腕は力強く、廊下を歩く足取りは荒っぽい。所作のすべてに力が漲っていた。
自分はこの男に所有されているのだと、嫌というほど神経にすり込まれる。
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