血と束縛と

北川とも

文字の大きさ
上 下
58 / 1,268
第4話

(9)

しおりを挟む
 他人が見ている前でキスしたことが、賢吾の情欲に火をつけたらしい。
 帰りの車に乗り込んだ途端、和彦が羽織っていた麻のジャケットは脱がされ、肩を抱き寄せられると同時に深い口づけを与えられた。
 そこに、運転席と助手席に護衛の人間が乗り込んできたため、反射的に顔を背けようとしたが、頬に賢吾の手がかかり動けない。
 三田村には見られ慣れているという状態もノーマルではないのだろうが、とにかく三田村以外の組員に、賢吾とのこんな場面を見られるのは抵抗があった。長嶺組の人間すべてが、和彦が長嶺父子の〈オンナ〉だと知っているとしても。
「んんっ」
 口腔を舌で犯され、ねっとりと舐め回される。息苦しさに小さく喘いだ和彦だが、このときにはすでに抵抗を諦めてしまい、差し込まれた舌を吸い始める。車が走り出す頃には、賢吾の首に両腕を回して忙しく舌を絡め合っていた。
 情欲に火がついたのは賢吾だけではないのかもしれない。傲慢な男の言葉に従わされることに、反発の一方で、和彦はたまらない愉悦も覚えつつあるのだ。
 激しい口づけを交わしながら、賢吾にTシャツをたくし上げられ、腰のラインを指先でくすぐられてから、背も丹念に撫でられる。胸元もさすられてから、賢吾が顔を埋めてきた。
「あっ……」
 いきなり胸の突起をきつく吸い上げられ、和彦は背をしならせる。熱い舌で突起を転がされてから、ゆっくりと歯を立てられると、痛み以上に、身震いしたくなるような疼きを覚え、思わず賢吾の頭を抱き締める。髪が乱れることを不快がるでもなく、上目遣いで笑いかけてきた賢吾と、誘われたように唇を吸い合っていた。
「イイ顔だな。俺が欲しい、っていう顔をしてるぞ、今」
 指で突起を弄りながら賢吾が言い、和彦は感じた羞恥を誤魔化すようにきつい眼差しを向けた。
「……自惚れるな。誰が、そんな恥知らずな顔……」
「恥ずかしがるな。なんといってもお前は、俺の大事なオンナだ。俺がお前を欲しがって、お前が俺を欲しがるのは、当然のことだ。――みんなに知らせてやれ。長嶺組組長の特別な存在だってことを。この世界では誇れることだ」
 指で弄っていたほうの胸の突起を、露骨に濡れた音を立てながら吸われる。和彦は、賢吾のワイシャツを握り締めて小さく呻き声を洩らしていたが、たまらず賢吾の髪を掻き乱す。顔を上げた賢吾と、息もかかるほど側で見つめ合った。
「つまらないことは気にするなとさっき言ったが、お前にはお前の面子がある。それに泥を塗ることは、俺が許さない。もちろん、長嶺組の人間すべてに対して、俺は同じことが言える。だからこそ連中は、俺や組の面子を守るために体を張るんだ。胡坐をかいているだけじゃ、組の切り盛りなんてできねーんだぜ」
 軽く唇を吸われて思わず吐息を洩らした和彦は、引き寄せられるまま賢吾の肩に顔を埋め、髪を撫でられる。武骨そうなくせに、賢吾の指は繊細に動くのだ。
「――今夜は、一際可愛いな、先生」
 耳に唇を押し当てて、笑いを含んだ声で囁かれる。和彦は唸るように応じる。
「うるさい」
「減らず口も可愛い。……可愛いついでに、もっと口を吸わせろ」
 後ろ髪を掴まれて顔を上げさせられ、唇を塞がれる。呼吸すらも奪い尽くされそうなほど激しく唇と舌を貪られながら、片手を取られ、賢吾の両足の中心へと導かれた。和彦はビクリと肩を震わせてうろたえる。賢吾の興奮ぶりを、触れているものが如実に表していた。
 言われたわけでもないのに和彦は、スラックスの上から賢吾の高ぶりを撫でていた。体の奥から狂おしい何かが込み上げてきて、喉が渇く。和彦の変化を読み取ったように、賢吾に聞かれた。
「欲しいか、先生?」
 何が、とは言わない。言葉にしなくても、和彦にはわかっていると思っているのだ。すべて見透かされているようで悔しいが、その悔しさすら、官能を刺激する厄介な媚薬になる。
 和彦は賢吾の下唇に軽く噛み付いてから答えた。
「……欲し、い……」
 ニッと賢吾が笑い、和彦の唇を指先で撫でる。
「今日は、こっちの口で相手してくれ」
 何を求められているのかわかり、性質の悪いヤクザを睨みつけた和彦は、黙って頭を下ろした。

しおりを挟む
感想 80

あなたにおすすめの小説

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

朝起きたら幼なじみと番になってた。

オクラ粥
BL
寝ぼけてるのかと思った。目が覚めて起き上がると全身が痛い。 隣には昨晩一緒に飲みにいった幼なじみがすやすや寝ていた 思いつきの書き殴り オメガバースの設定をお借りしてます

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

処理中です...