血と束縛と

北川とも

文字の大きさ
上 下
27 / 1,268
第2話

(11)

しおりを挟む
 シャワーの湯を浴びながら和彦は真剣に、賢吾に助けを求めるべきかもしれないと考えていた。
「どういう育て方をしたら、あんなに底抜けの甘ったれになるんだ……」
 強い水音に紛れ込ませるように呟くと、背後からぴったりと〈何か〉がくっついてきた。
「何か言った、先生?」
 そう問いかけてきながら、千尋が両腕でしっかりと和彦を抱き締めてくる。片時も和彦と離れたがらない千尋は、シャワーを浴びるときも当然のように一緒だ。
 和彦は濡れた髪を掻き上げてから、タトゥーの彫られた千尋の左腕に手をかける。
「きちんと体は洗ったのか?」
「洗った」
「頭は?」
「もちろん」
 子供と保護者の会話だなと思いながら和彦は、つい苦笑を洩らす。もう二日、部屋に閉じこもって体を貪り合い、甘えてくる千尋をまといつかせる生活を送っていると、必然的にこういう会話を交わす空気になるようだ。
 あまり知りたくない新発見だと思っていると、千尋に体の向きを変えさせられる。正面から改めて抱き締められ、濡れた体は違和感なくぴったりと重なる。背を撫でてやっていると、成人した青年というより、甘えてくる愛玩動物のように感じられる。
 性的興奮を覚えないのはきっと、限界まで千尋に体を求められ、それに応えさせられたせいだ。
 若くて精力的な千尋は、猛々しい獣そのものだ。本能のままに和彦を組み敷き、熱い欲望を何度も打ち込んでくる。一方の和彦は、そんな千尋に振り回されて体力的に限界が近づいている。そもそも、受け入れる側のほうが負担は大きいのだ。
 じゃれついてのしかかられて、その流れで――というパターンがほとんどで、決して乱暴というわけでもないので、和彦は千尋を叱るタイミングを逸し続けていた。
 千尋の家の事情を何も知らずにつき合っている頃は、二人の逢瀬は長くてもほんの数時間のもので、半日も一緒に過ごすことはまずなかった。それが、千尋の父親公認となったうえで、二日も怠惰に二人きりの時間を過ごせるようになったというのは、皮肉としかいいようがない。
「先生……」
 千尋に壁に押し付けられ、腰がすり寄せられる。シャワーを浴びていただけだというのに、すでに千尋のものは熱くなっていた。
 唇を吸われてから、和彦は軽く千尋を睨みつける。
「朝しただろう」
「もう昼過ぎだよ」
「……お前はよくても、ぼくは無理だ」
 途端に千尋が悲しげな顔をしたので、和彦は頬をつねり上げてやった。
「お前の手だ。ぼくが、お前のその顔に弱いと知ってるんだろ」
「へえ、弱いの?」
 頬をつねられたまま千尋が目を輝かせたので、和彦はこれ以上話すのをやめる。シャワーの湯を止めると、千尋の手を取ってバスルームを出る。適当に体を拭いて裸のまま部屋に行くと、いつもとは逆に、和彦が千尋をラグの上に押し倒し、のしかかる。
「――……先生?」
「黙ってろ。ぼくは怒った。いつもいつも、お前は元気があり余り過ぎる」
 驚いた顔のまま硬直している千尋を見下ろし、いい気味だと思いながら和彦は顔を伏せた。
 千尋の、まだ水滴を残している胸元をゆっくりと舐め上げる。きれいな筋肉のついた体を優しくてのひらで撫でながら、滑らかな肌に丹念に舌を這わせ、ときおり吸い上げては、小さな赤い跡を残す。
 シャワーを浴びてそれでなくても上気していた千尋の肌は、興奮のためか、さらに熱く赤みを帯びていく。
「気持ちいいか?」
 みぞおちを辿って喉元まで舐め上げてから、千尋の唇に軽いキスを落とす。
「う、ん……。ゾクゾクして、たまんない気持ちに――」
 千尋が両手を動かそうとしたので、すかさず釘を刺した。
「お前は勝手なことをするな。ぼくの好きにさせないと、やめるぞ」
 和彦は、千尋の尽きることのない欲情を表しているものをてのひらに包み込む。柔らかく上下に扱きながら、千尋に言い諭した。
「今日はもうぼくに手を出さないと約束するなら、もっと気持ちいいことをしてやる」
 和彦がなんの行為を指しているのか十分にわかったらしく、千尋は大きく頷く。いい子だ、と囁いて、和彦はもう一度千尋の唇にキスを落とした。
 ヤクザなんかとつき合っているせいで、自分も人が悪くなったと苦々しく思いながら、和彦は千尋の若々しい体を愛撫し始める。
 水滴を舐め取るように丹念に唇と舌を這わせ、タトゥーも舌先でなぞってやる。胸の突起を口腔に含んで吸い上げてやると、千尋が深い吐息を洩らした。てのひらの中では、擦り上げているものがますます力を漲らせている。
 神妙な顔で寝転がっている千尋がおかしくて、顔を伏せたまま和彦はそっと笑い、それから腹筋のラインを舌先でなぞる。
 千尋の息遣いが荒くなってくるまで焦らしてから、逞しくなったものの先端にやっと舌を這わせて舐めてやる。
「うっ……、先生……」
 和彦が初めて施してやる行為だけあって、千尋の反応は素直だった。ラグの上で体をしならせ、足を突っ張らせる。硬く張り詰める腹筋をてのひらで撫でて宥めてやる一方で、口腔に含んだ欲望の興奮は煽る。
 深く呑み込んで粘膜で包むように吸引すると、千尋はひどく頼りない声を上げた。ただ、悦んでいるのは確かで、力強く脈打って欲望を溜め込んでいる。本人の性格通り、実に素直だ。
 舌を絡ませ唇で扱き上げながら、ときおり先端をたっぷり舐め回す。その最中に、千尋がおずおずと和彦に問いかけてきた。
「――……先生、オヤジにも、こんなことした……?」
 和彦は千尋のものを口腔から出すと、根元から先端に向けて舐め上げてやりながら答える。
「いや……。前戯に時間をかけない主義らしいから、こっちも従っている。ぼくだけこんなことさせられるのは腹が立つ」
 千尋が噴き出し、つられて和彦も笑ってから、再び熱い欲望を口腔に含む。時間をかけて愛撫し、千尋の放った精もすべて受け止め、飲み干す。
 ここまでしてやったからではないが、無防備に体を委ねながら声を上げる千尋は、可愛かった。




 ある意味、精力的ともいえるが、淫靡で怠惰な生活は、三日目に入ってあっさり終わりを迎えた。
 明け方、千尋に腰にしがみつかれたまま眠っていた和彦は、奇妙な金属音で目が覚める。半ば反射的に千尋の頭に手をかけ身構えていると、足音を押し殺して誰かが部屋に侵入してくる気配があった。
 いきなり電気をつけられて、まぶしさに目を細める。
「――起きろ、先生。仕事だ」
 室内に響いたのは、魅力的なバリトンだった。不躾な侵入者の正体がわかった和彦は、自分が急速にハードな現実に引き戻されるのを感じながら、顔をしかめる。一方の千尋はまだ夢の中らしく、小さく呻き声を洩らして和彦の胸元に顔をすり寄せてきた。

しおりを挟む
感想 80

あなたにおすすめの小説

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

朝起きたら幼なじみと番になってた。

オクラ粥
BL
寝ぼけてるのかと思った。目が覚めて起き上がると全身が痛い。 隣には昨晩一緒に飲みにいった幼なじみがすやすや寝ていた 思いつきの書き殴り オメガバースの設定をお借りしてます

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

処理中です...