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第2話
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「あっ、あっ、千尋っ、も、う……、ドアを閉めて、くれ――」
「三田村の仕事を奪ったらダメだよ。その男は、何があっても先生を見守る仕事をオヤジから与えられたんだ。俺が先生に危害でも加えない限り、そうやってただ見守るだけだ」
これが千尋なりの、父親への反抗であり、執着心の表し方なのかもしれない。
バカなガキだと思いながらも、和彦は千尋に対して怒りは覚えないのだ。
和彦は三田村から目を離さないまま、内奥を強く抉られて絶頂に達する。
「うっ、うぅっ、い、い……、あっ、イクぅっ……」
ふっと一瞬、意識が遠のきかける。それぐらい、よかった。恥知らずな声を上げて、勢いよく精を迸らせる。多分、ドアにも精がかかったはずだ。少し遅れて千尋に背後からきつく抱き締められ、若々しい欲望が内奥でビクビクと脈打ち、熱い精をたっぷりと注ぎ込まれた。
「んっ、んああっ……」
不快さと快美さを同時に味わい、和彦は鳴かされる。荒い息をつきながら、千尋が耳に唇を押し当ててきた。
「……いっぱい出しちゃった。先生の中、相変わらずよすぎ」
しっかりと和彦を抱き締めた千尋が次の瞬間には、ふてくされたような声で三田村に言った。
「オヤジに言っておけよ。――先生は、俺がしばらく預かる。あんたの好きにはさせないって」
三田村は何も言わなかったが、和彦に視線を向けてくる。息を喘がせながら和彦は、小さく頷いて見せた。今の千尋は、三田村の説得になど耳を傾けないと思ったのだ。それどころか、ますます意固地になる可能性がある。
和彦の意図を察したらしく、三田村はドアとの隙間に差し込んでいた爪先をスッと引いた。
「――先生に傷はつけないでください。うちの組の経営活動に関わる方ですから」
「バカ息子の俺より、よほど価値があるよな、先生は」
三田村の言葉にそう皮肉で応じた千尋は、片腕で和彦を抱き寄せながらドアを閉めた。
今の自分は軟禁状態といっていいのだろうかと、テレビのリモコンを手に和彦は首を傾げる。それにしては、あまりに緊迫感がない。
キッチンに視線を向けると、千尋が楽しそうに夕食の準備をしている。意外なことに、千尋は料理が上手い。何年も一人暮らしをしていながら、目玉焼き程度しか作れない和彦とは大違いの器用さとマメさを持ち合わせているのだ。
「先生、もうすぐできるから」
「ああ……」
テレビを消した和彦はベッドから下りると、部屋とキッチンを仕切っているカウンターへと移動する。食事はいつも、このカウンターでしているのだ。
「――夕飯を食べたら、ぼくは帰るからな」
頬杖をつきながら和彦はさりげなく告げる。千尋は、鼻歌でも歌い出しそうな上機嫌な様子できっぱり言った。
「ダメ」
「……殴るぞ、お前」
「どうしても帰ると言うなら、手錠かけて動けなくするよ」
イタズラっぽく目を輝かせてはいる千尋だが、その目は次の瞬間には、獰猛な光を浮かべても不思議ではない。
今になって三田村が言っていた言葉を思い出す。
純粋さは、鋭い凶器になる、と。まさしくその通りだ。千尋は、自分の純粋さを凶器としている。単なるガキにこんな芸当はできない。無邪気なふりをして油断させ、いざというときにはそれを怖さに変えてしまう。千尋はわかって使い分けているのだ。
「それがヤクザのやり方か」
「このやり方で先生がどこにも行かないなら、俺はヤクザ呼ばわりされてもいいよ」
思いきり顔をしかめた和彦は片手を伸ばすと、千尋の頭を乱暴に撫でる。
「そういう投げ遣りな言い方をするな。……ぼくが気を許したのは、組とかヤクザとか、そういうものを一切匂わせていなかったお前だ」
「……俺、カフェで会ったとき、普通に見えた?」
「普通ではなかったな」
和彦の答えに、千尋が唇を尖らせる。数時間前、玄関で立ったまま和彦を貪ってきた獣と同一人物とは思えない素直な表情だ。
和彦はちらりと笑った。
「――嫌になるぐらい目を惹いた。カッコイイくせに、犬っころみたいにキラキラと目を輝かせて、女性客じゃなくて、ぼくのほうに駆け寄ってきて。でかい図体して、可愛かった」
現金なもので、千尋はあっという間に満面の笑みを浮かべる。だが、直った機嫌はすぐにまた悪くなる。
千尋が作った夕飯を食べ終えた頃に、千尋の携帯電話が鳴ったのだ。電話に出た千尋は、すぐに目を吊り上げる。
「なんの用だよっ」
いきなり電話に向かって怒鳴った千尋が、こちらに視線を向けてきた。片付けをしようと思って立ち上がっていた和彦は、ついイスに座り直していた。
「……先生は返さない。なんでもかんでも、自分の思い通りになると思うなよ。俺になんにも言わないで、いきなり取り上げるようなことしやがって。しかも――自分のものにしちまうなんて」
憎々しげに洩らされた言葉で、電話の相手が千尋の父親――賢吾だとわかった。
下手に千尋を興奮させるだけなので、余計なことをしないでもらいたいと思った和彦は、そっと息を吐き出す。すると、突然千尋が、携帯電話を差し出してきた。
「なんだ?」
「オヤジが、先生に代われって」
仕方なく和彦は携帯電話を受け取った。
「何か用か」
『悪いが、しばらくうちのバカ息子の相手をしてやってくれ。相当ストレスが溜まってるみたいだからな。ああ、性欲もか。玄関で派手にヤってたそうだな』
賢吾に報告するとき、三田村はやはりいつもの無表情だったのだろうと、容易に想像できた。
「……嬉しそうに言うな。腹が立つ」
『俺に似て、なかなかのやんちゃ坊主だから、大目に見てやってくれ』
わかってはいたが、ロクでもない父親だ。危うく和彦は怒鳴りそうになったが、千尋の眼差しを感じて、ぐっと堪える。この部屋にいて、二人とも興奮しても仕方ない。
『お前に心底懐いているみたいだから、手荒なことはしないと思うが――』
「そこはぼくも安心している。……千尋は見た目はでかいが、甘噛みしか知らない」
相手をしてくれと言わんばかりに、のっそりと千尋が側にやってきて、和彦の腰に両腕を回してくる。和彦は片手に携帯電話を、もう片方の手で千尋の頭を抱き寄せてやった。
『体がもたないと思ったら、連絡してこい』
賢吾が低く笑い声を洩らして電話は切られた。忌々しく思いながら和彦も電話を切ると、千尋の髪を手荒くくしゃくしゃと掻き乱してやった。
「三田村の仕事を奪ったらダメだよ。その男は、何があっても先生を見守る仕事をオヤジから与えられたんだ。俺が先生に危害でも加えない限り、そうやってただ見守るだけだ」
これが千尋なりの、父親への反抗であり、執着心の表し方なのかもしれない。
バカなガキだと思いながらも、和彦は千尋に対して怒りは覚えないのだ。
和彦は三田村から目を離さないまま、内奥を強く抉られて絶頂に達する。
「うっ、うぅっ、い、い……、あっ、イクぅっ……」
ふっと一瞬、意識が遠のきかける。それぐらい、よかった。恥知らずな声を上げて、勢いよく精を迸らせる。多分、ドアにも精がかかったはずだ。少し遅れて千尋に背後からきつく抱き締められ、若々しい欲望が内奥でビクビクと脈打ち、熱い精をたっぷりと注ぎ込まれた。
「んっ、んああっ……」
不快さと快美さを同時に味わい、和彦は鳴かされる。荒い息をつきながら、千尋が耳に唇を押し当ててきた。
「……いっぱい出しちゃった。先生の中、相変わらずよすぎ」
しっかりと和彦を抱き締めた千尋が次の瞬間には、ふてくされたような声で三田村に言った。
「オヤジに言っておけよ。――先生は、俺がしばらく預かる。あんたの好きにはさせないって」
三田村は何も言わなかったが、和彦に視線を向けてくる。息を喘がせながら和彦は、小さく頷いて見せた。今の千尋は、三田村の説得になど耳を傾けないと思ったのだ。それどころか、ますます意固地になる可能性がある。
和彦の意図を察したらしく、三田村はドアとの隙間に差し込んでいた爪先をスッと引いた。
「――先生に傷はつけないでください。うちの組の経営活動に関わる方ですから」
「バカ息子の俺より、よほど価値があるよな、先生は」
三田村の言葉にそう皮肉で応じた千尋は、片腕で和彦を抱き寄せながらドアを閉めた。
今の自分は軟禁状態といっていいのだろうかと、テレビのリモコンを手に和彦は首を傾げる。それにしては、あまりに緊迫感がない。
キッチンに視線を向けると、千尋が楽しそうに夕食の準備をしている。意外なことに、千尋は料理が上手い。何年も一人暮らしをしていながら、目玉焼き程度しか作れない和彦とは大違いの器用さとマメさを持ち合わせているのだ。
「先生、もうすぐできるから」
「ああ……」
テレビを消した和彦はベッドから下りると、部屋とキッチンを仕切っているカウンターへと移動する。食事はいつも、このカウンターでしているのだ。
「――夕飯を食べたら、ぼくは帰るからな」
頬杖をつきながら和彦はさりげなく告げる。千尋は、鼻歌でも歌い出しそうな上機嫌な様子できっぱり言った。
「ダメ」
「……殴るぞ、お前」
「どうしても帰ると言うなら、手錠かけて動けなくするよ」
イタズラっぽく目を輝かせてはいる千尋だが、その目は次の瞬間には、獰猛な光を浮かべても不思議ではない。
今になって三田村が言っていた言葉を思い出す。
純粋さは、鋭い凶器になる、と。まさしくその通りだ。千尋は、自分の純粋さを凶器としている。単なるガキにこんな芸当はできない。無邪気なふりをして油断させ、いざというときにはそれを怖さに変えてしまう。千尋はわかって使い分けているのだ。
「それがヤクザのやり方か」
「このやり方で先生がどこにも行かないなら、俺はヤクザ呼ばわりされてもいいよ」
思いきり顔をしかめた和彦は片手を伸ばすと、千尋の頭を乱暴に撫でる。
「そういう投げ遣りな言い方をするな。……ぼくが気を許したのは、組とかヤクザとか、そういうものを一切匂わせていなかったお前だ」
「……俺、カフェで会ったとき、普通に見えた?」
「普通ではなかったな」
和彦の答えに、千尋が唇を尖らせる。数時間前、玄関で立ったまま和彦を貪ってきた獣と同一人物とは思えない素直な表情だ。
和彦はちらりと笑った。
「――嫌になるぐらい目を惹いた。カッコイイくせに、犬っころみたいにキラキラと目を輝かせて、女性客じゃなくて、ぼくのほうに駆け寄ってきて。でかい図体して、可愛かった」
現金なもので、千尋はあっという間に満面の笑みを浮かべる。だが、直った機嫌はすぐにまた悪くなる。
千尋が作った夕飯を食べ終えた頃に、千尋の携帯電話が鳴ったのだ。電話に出た千尋は、すぐに目を吊り上げる。
「なんの用だよっ」
いきなり電話に向かって怒鳴った千尋が、こちらに視線を向けてきた。片付けをしようと思って立ち上がっていた和彦は、ついイスに座り直していた。
「……先生は返さない。なんでもかんでも、自分の思い通りになると思うなよ。俺になんにも言わないで、いきなり取り上げるようなことしやがって。しかも――自分のものにしちまうなんて」
憎々しげに洩らされた言葉で、電話の相手が千尋の父親――賢吾だとわかった。
下手に千尋を興奮させるだけなので、余計なことをしないでもらいたいと思った和彦は、そっと息を吐き出す。すると、突然千尋が、携帯電話を差し出してきた。
「なんだ?」
「オヤジが、先生に代われって」
仕方なく和彦は携帯電話を受け取った。
「何か用か」
『悪いが、しばらくうちのバカ息子の相手をしてやってくれ。相当ストレスが溜まってるみたいだからな。ああ、性欲もか。玄関で派手にヤってたそうだな』
賢吾に報告するとき、三田村はやはりいつもの無表情だったのだろうと、容易に想像できた。
「……嬉しそうに言うな。腹が立つ」
『俺に似て、なかなかのやんちゃ坊主だから、大目に見てやってくれ』
わかってはいたが、ロクでもない父親だ。危うく和彦は怒鳴りそうになったが、千尋の眼差しを感じて、ぐっと堪える。この部屋にいて、二人とも興奮しても仕方ない。
『お前に心底懐いているみたいだから、手荒なことはしないと思うが――』
「そこはぼくも安心している。……千尋は見た目はでかいが、甘噛みしか知らない」
相手をしてくれと言わんばかりに、のっそりと千尋が側にやってきて、和彦の腰に両腕を回してくる。和彦は片手に携帯電話を、もう片方の手で千尋の頭を抱き寄せてやった。
『体がもたないと思ったら、連絡してこい』
賢吾が低く笑い声を洩らして電話は切られた。忌々しく思いながら和彦も電話を切ると、千尋の髪を手荒くくしゃくしゃと掻き乱してやった。
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