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第2話
(8)
しおりを挟むタクシーに乗っている間、二人はまったく会話を交わさなかった。携帯電話に三田村から連絡が入って和彦が出ようとしたときも、無言のまま素早く取り上げられて、電源を切られたぐらいだ。
張り詰めた車中の空気は覚えがあった。長嶺組の人間に拉致されて、わけもわからないまま車に乗せられたときと同じだ。一緒にいるのが千尋とはいえ、和彦はひどく緊張していた。
千尋に限って、手荒なことをするとは思えないが――。
タクシーは、千尋が住むワンルームマンションの前で停まり、支払いを済ませた千尋に促されるまま和彦はタクシーを降りる。
「そんな怖い顔しないでよ」
エレベーターを待っていると、ようやく千尋がぽつりと言う。足元に視線を落としていた和彦がハッとして顔を上げると、千尋は困ったように笑っていた。
「俺、ヤクザじゃないんだから、先生を脅したり、痛めつけたりしないよ。ただ、オヤジや組の人間がいない場所で、先生と二人きりになりたいんだ。ちょっと前までみたいに」
千尋がエントランスを見回してから、照れた仕種で片手を差し出してくる。その手を見つめてから、和彦は小さくため息をついた。
「……行動が突飛すぎるんだ、お前は」
「あのオヤジの息子だからね」
千尋が冗談で言ったのか、本気で言ったのかはわからないが、笑えないことだけは確かだ。
着いたエレベーターに人が乗っていないのを確認してから、和彦は気恥ずかしさを押し殺しつつ、千尋の手を握る。二人は手を繋いでエレベーターに乗り込んだ。
案の定というべきか、千尋の部屋の玄関に足を踏み入れると、鉄製のドアがゆっくりと閉まるのも待てない様子で余裕なく千尋に抱き寄せられた。
「千尋っ……」
「ダメ。俺もう、我慢できないっ」
有無をいわさず唇を塞がれ、痛いほど強く唇を吸われる。むしゃぶりついてくるような必死のキスに、和彦の脳裏にあることが蘇る。初めて千尋と交わしたキスだ。
数回一緒に食事して、デートらしきものも経験して、千尋の元気の有り余りっぷりに呆れつつも、いままでつき合ってきた相手にはなかった圧倒されるほどの生気を感じた。千尋と初めて交わしたキスは、その生気をぶつけてくるような激しいものだったのだ。
熱い舌を口腔に捩じ込まれ、感じやすい粘膜を探られ、舐め回される。いつの間にかドアは閉まり、千尋の勢いに圧されるように和彦は、ドアに背をぶつけていた。
簡単に体の熱を煽られ、千尋の引き締まった頬に両手をかけると、夢中で互いの唇を吸い合い、荒い息をつきながら舌を絡める。一方で千尋の手は油断なく動き、和彦のジャケットのボタンを外していた。
ジャケットを脱がされて廊下のほうに投げ捨てられると、今度はワイシャツのボタンを外し始める。和彦も千尋が着ているブルゾンを脱がし、その下に着ているTシャツをたくし上げて、素肌の脇腹を撫で上げた。
「すげー、ゾクゾクする」
キスの合間に嬉しそうに囁いてきた千尋に、ボタンを外したワイシャツをスラックスから引きずり出され、和彦がしているように脇腹を汗ばんだ手で撫で上げられる。突然千尋が屈み込んだかと思うと、ベロリと胸の中央を舐め上げてきた。
「あうっ」
すでに興奮で硬く凝っている突起を含まれ、きつく吸い上げられる。一方で千尋の手は忙しく動き、和彦のスラックスのベルトを緩めていた。
「ちひ、ろっ……、ここじゃ――」
「待てないよ、先生」
和彦のスラックスと下着を引き下ろした千尋が、続いて自分のジーンズの前を寛げる。顔を上げた千尋とまた貪るようなキスを交わしながら、和彦は片手を取られて千尋の熱く滾ったものを握らされる。当然のように千尋も、和彦のものを握り締めてきた。
「はうっ……」
熱い吐息をこぼしながら、千尋と欲望を高め合う。腰を寄せてきた千尋と高ぶり同士を擦りつけ、もどかしさに思わず和彦が腰を揺らすと、小さく笑い声を洩らした千尋に突然、体の向きを変えさせられた。
ドアにすがりついた和彦は、スラックスと下着を足首まで下ろされ、腰を突き出す姿勢を取らされる。すぐに千尋の手が前方に回され、高ぶったものを再び握られた。性急に扱かれながら、千尋のもう片方の手に尻を撫でられ、秘裂をまさぐられる。
「あっ」
唾液で湿らせた指を、強引に内奥に挿入されていた。
「――今日はまだ、オヤジとヤってないんだね」
耳を唇を押し当てて、千尋に囁かれる。ビクリと体を震わせた和彦は、千尋の愛撫が実は、父親の痕跡を探すためのものだとわかり、なんとか行為をやめさせようと身を捩る。だが、千尋は強引だった。
ぐいっと内奥で指が曲げられ、浅い部分を強く刺激される。
「ひっ……」
足から力が抜け、和彦はその場に座り込みそうになったが、今度は高ぶったものをぎゅっと力を込めて握られ、体を強張らせる。
「ダメだよ、先生。しっかり立ってて」
そう囁いてきた千尋に首筋を舐め上げられてから、もう一度内奥で指が曲げられた。
「すげ……、ぎゅうぎゅう締め付けてくる」
荒い呼吸を繰り返しながら和彦は、まるで子供のようなひたむきさで繰り返される千尋の淫らな攻めに耐える。なんとか踏ん張ってはいるものの、両足はガクガクと震えていた。
指が奥深くまで潜り込み、感じやすい粘膜を手荒に擦り上げられる。和彦はドアに体を預けながら息を喘がせる。ここのところ与えられていた賢吾の愛撫とはまったく違う、余裕のない愛撫が、ひどく新鮮に感じられた。
「先生、気持ちいいんだよね? ここもう、涎垂らしてる」
和彦のうなじを吸い上げてから、千尋が嬉しそうに言う。その千尋のもう片方の手が触れてきたのは、中から強い刺激によって勃ち上がった和彦のものだった。指先で欲望の形をなぞられてから、濡れた先端を擦られる。思わず腰を揺らすと、握り締められて容赦なく扱かれる。
「ああっ、きつ、い……、千尋っ……」
「でも、いいんだよね? 先生の中、さっきから締まりっぱなし。俺の指咥えただけで、もうイきそうになってる」
内奥で指を蠢かされ、和彦は冷たい鉄製のドアに熱い吐息を吹きかける。
「相変わらず感じやすくて安心した。――オヤジにめちゃくちゃにされてるんじゃないかって、心配してたんだ。俺の知らない先生になって、俺がこんなことしても、反応しないかもって考えたら、早く先生と二人きりになりたくて仕方なかった」
千尋の熱い体に背後から抱きすくめられながら、耳元では泣きそうな声で訴えられる。そのくせ、愛撫が止まることはない。和彦の気持ちを確かめるために、快感を引きずり出すのに必死なのだ。
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