血と束縛と

北川とも

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第2話

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 胸の突起を愛撫されながら和彦は、賢吾の熱くなったものを片手で握り、扱く。
「腰を上げろ」
 さんざん指で内奥を掻き回されてから、賢吾に命じられる。言われるまま和彦は腰を浮かせ、柔らかくなった内奥の入り口と、自分が育てた賢吾の逞しい欲望の位置を手探りで合わせる。その間賢吾は、恥辱に満ちた姿勢を取って、繋がる準備をしている和彦の顔をじっと見つめているだけだ。
「お前は、悔しくてたまらないって顔をしてるときが、一番いいな。この顔が、どんどん蕩けていく様は、見ていてゾクゾクする。ただ痛めつけるのとは違う趣がある」
「……ぼくになんと答えてほしいんだ」
「もっと恥ずかしいことをしてください、とでも言ってみるか?」
 自分のバリトンの威力を知り尽くしているかのように、賢吾が低く囁く。今すぐにでもこの男の上から飛び退きたいのに、できない。
「あうっ」
 慎重に腰を下ろしているつもりでも、逞しい部分で内奥を押し開かれる感覚はたまらない。苦痛が下から這い上がってきて、何度も腰を上げたくなるが、苦しむ和彦の様子を楽しむかのような賢吾の顔を見ていると、持っていても仕方のない意地が頭をもたげる。結局のところ、和彦が意地を張ったところで、賢吾を喜ばせるだけなのだが。
 ようやく一番太い部分までを呑み込み、少し楽になる。賢吾の肩に両手をかけると、その賢吾の両手が尻にかかり、左右に割り開かれる。
「いいぞ。このまま腰を下ろして、お前のケツがひくつきながら、俺のを咥え込んでいくところを、全部三田村に見てもらえ」
 賢吾の言葉にドキリとして、和彦は体を強張らせる。とてもではないが、振り返って運転席を確認することなどできなかった。
 慣れることのない屈辱と羞恥、逞しいものを呑み込んでいく苦しさに喘ぎながらも、和彦はゆっくりと確実に腰を下ろしていく。その間賢吾は、反り返って震える和彦のものをハンカチで包んで扱きながら、胸の突起を執拗に愛撫していた。
「うっ、くぅっ……。あっ、あっ――」
 和彦の内奥と賢吾の欲望が、ようやく深く繋がる。大きく息を吐き出した賢吾が、ニヤリと笑いかけてきた。
「ご褒美をやろうか?」
 そう言って和彦は髪を撫でられ、頭を引き寄せられる。唇に軽くキスされた瞬間、否定できない快美さが背筋を駆け抜けていた。和彦の反応は賢吾にも伝わったらしい。
「物欲しそうに中が動いてるぞ。咥えさせられるだけじゃ嫌なんだろ。突いて、擦り上げてほしいんだよな?」
 緩く腰を動かされ、和彦はそれだけで背をしならせる。小さく喘ぐと、賢吾に唇を啄ばまれ、そのまま二人は差し出した舌を絡め合う。和彦は三田村の存在を意識しつつも、自ら腰を動かし始めていた。
「――……不動産屋に行く前に、あんたの息子とキスしてきた」
 車内の空気がムッとするような熱気に包まれる頃、何度目かの濃厚な口づけを交わしてから和彦が切り出すと、さすがに汗を浮かせた顔で賢吾が笑った。
「だから?」
「父親としての感想を聞きたい」
 ヤクザと関わりたくないから、千尋と縁を切るつもりだった。だが、賢吾との約束はヤクザの論理で反故となり、必然的に和彦がした約束そのものも反故となる。つまり、千尋と再び関わりを持ったところで文句は言われないということだ。この理屈が通るなら。
 予想の範囲内だが、賢吾は怒り狂ったりはしなかった。それどころか、楽しげに目を細めた。
「俺としては、この状況でそんなことを言ったお前の感想が聞きたいな。……興奮するか?」
 腰を掴まれて激しく前後に揺さぶられる。和彦は賢吾の肩にすがりつきながら、掠れた嬌声を上げる。動きが制限された車内での交わりは、もどかしい分、とにかく快感を貪ろうと必死になる。すでにもう和彦は、一度絶頂に達していた。
「あぁっ、あっ……、くうっ……ん」
「またイきそうな声だな。ハンカチがもうドロドロだぞ」
 そう言う賢吾の欲望も、限界が近いことを和彦は感じていた。歯止めを失って声を上げる和彦を、上目遣いに見上げながら賢吾が胸の突起を舐める。それだけで、和彦は二度目の絶頂を迎えていた。
「……いい子だ、先生。さあ、舌を吸わせろ」
 荒い呼吸を繰り返しながら和彦は、賢吾の唇を舐めてから口腔に舌を差し込む。すぐに痛いほど強く吸われた。
 尻を鷲掴まれ、逞しいものが出し入れされる。絡めていた舌を解いて和彦が堪え切れない声を上げると、耳元で賢吾に言われた。
「キスなんて言わずに、今度はここに、千尋にたっぷり出してもらってこい。多分、興奮するぞ。俺以上に、お前が――」
「うあっ……」
 乱暴に腰を突き上げられ、内奥で賢吾のものが力強く脈打つのがわかった。そして、熱い精を注ぎ込まれる感触も。
 繋がったまま二人は、呼吸を整える。そうしながら和彦は心の中で、また賢吾と関係を持ったことへの後悔を味わっていた。逆らえないとはいえ、こうなるたびに自分が泥沼の深みにはまり込んでいくのがわかるのだ。
「――組長、迎えの車が来ました」
 絶妙のタイミングで三田村が声をかけてくる。少しの間、三田村の存在を忘れていた和彦はようやく今の状況を思い出し、動揺する。そんな和彦を見て、賢吾が意味深な笑みをちらりと浮かべた。
 下肢を剥き出しにした挙げ句、汚している和彦を置いて、自分だけさっさと身支度を整えた賢吾が車を降り、隣に並んだ車へと乗り換える。あっという間に走り去る車の音を聞いてから和彦は、まっさきに運転席と助手席のウィンドーを下ろしてもらい、車内の空気を入れ替える。
 気だるく髪を掻き上げたとき、バックミラー越しに三田村と目が合った。
「シートを汚した……」
「あとで俺が片付ける」
「お宅の組長は、ベッドの上ではことに及ばないというポリシーでも持ってるのか」
「……さっきまで本人がいたんだから、聞けばよかっただろう」
 聞けるか、と口中で呟いてから、和彦はのろのろと自分の下肢を簡単に拭ってから、足元に落ちたスラックスと下着を拾い上げる。あとはもう帰るだけなのが、せめてもの救いだ。
「ベッド云々はどうでもいいが――、早くぼくに飽きろと言いたい」
 和彦がこう洩らすと、珍しく物言いたげな目をした三田村と、またバックミラーを通して視線がぶつかる。
 何かと生まじめな返答をくれる男がこのときは黙り込んでしまったので、和彦としては不安を掻き立てられて仕方なかった。

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