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第1話
(6)
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和彦の内奥を的確に指と道具で犯す男の背後に立ったのは、高そうなダブルのスーツをこれ以上なく見事に着こなした中年の男だった。四十代半ばぐらいだろうが、一目見て圧倒される存在感を持っていた。
全身から漂う空気は剣呑としており、それでいて威嚇するような攻撃的なものではなく、ただ静かな凄みを放っている。衰えを知らないような厚みのある体つきに相応しいといえた。何より、彫像のように表情が動かない顔は、冷徹そのものではあるが、端整だ。
だが、容貌はさほど重要ではない。男が持つ独特の鋭さや冷ややかさ、年齢を重ねているだけでは醸せない落ち着きが、男の存在自体を圧倒的なものにしていた。
まともな人間ではない。この男だけでなく、この場にいる男たち全員が、普通ではないと和彦は見抜いた。
それを裏付けるように、男が言った。
「総和会、という名前を聞いたことがあるか? ときどきニュースで流れることがあるから、もしかして聞いたことぐらいはあるかもな」
和彦は、体の熱がわずかに下がるのを感じた。
男が口にした『総和会』という名を、確かに聞いたことはある。テレビのニュースや新聞で、ときどき見聞きすることがあるのだ。だが、その名が出るときは、絶対に不気味さや怖さがつきまとう。それというのも――。
「暴力団組織だ。総和会というのは十一の組から成り立っていて、俺は、その一つの組を任されている。もっとも、一般人からしたら、下っ端だろうが組長だろうが、ヤクザはヤクザだ。忌まわしくて、できることなら関わりたくない存在だろう」
男の冷めた視線が、ローションに塗れ、道具を含まされたままの和彦の秘部に向けられる。羞恥心は芽生えなかった。ただ、屈辱に打ちのめされるだけだ。
いきなり拉致されて裸に剥かれ、挙げ句にこんな仕打ちを受けているのだ。理不尽にもほどがある。もちろん、この場でそんな訴えをする無益さと無謀さだけはわかっている。
「俺の背負っている組は、総和会では特別だ。跡目となる人間が限られている」
ここまで言って男が膝を折り、目線の位置を近くした。たったそれだけの動作で、簡素で殺風景な室内の空気が大きく動いたようだった。男がそこにいるだけで、ひんやりとした空気が独特の熱を帯びる。
そんな男の口から放たれる言葉は、氷のように冷たかった。
「――長嶺組をまとめ上げるのは、長嶺の姓を持つ男だけだ。そして、今の総和会の会長は、長嶺組の前組長だった」
組の名そのものには何も感じなかった。だが、『長嶺』という響きは、和彦の記憶を強く刺激した。
「まさ、か……」
和彦は声を洩らし、脳裏に〈彼〉の顔を思い描く。長嶺千尋という名の青年の顔を――。
「お前には、俺のバカ息子が世話になってるようだな。キズモノにしてくれた、と言うべきかもしれないが」
和彦は、千尋と出会ってからのことを目まぐるしく思い返す。どこにでもいそうだが、どこにもいない存在感を持つ千尋と、ほんの三か月ほどのつき合いだ。交わした会話もセックスも、すべて覚えているといってもいい。
千尋の素性を知った和彦は、あまりに衝撃的な出来事と事実に、この瞬間、確実に精神がおかしくなっていた。
「ふっ ……」
和彦の口から洩れたのは、抑えきれない笑い声だった。さすがに男が――千尋の父親が軽く眉をひそめる。動作だけでなく、表情の一つ一つが芝居がかっているように様になっている。こうやって、粗暴な本性を隠しているのかもしれない。
「……見た目は優男なのに、肝が据わってるな。ヤクザに囲まれて、その姿で笑える奴は、そういないだろ」
千尋の父親が軽くあごをしゃくり、和彦の内奥深くに収まっている道具がゆっくりと引き抜かれる。短く息を吐き出して声を堪えた和彦は、千尋の父親にあごを掴み上げられた。燃えそうに熱い手だとまず思った。
千尋とはまったく似たところのない顔が真正面に迫る。
「今、どうして笑った?」
あごを砕かれそうなほど指に力が込められる。痛めつけられてまで秘密にするようなことでもないので、和彦は答えた。
「笑ったのは……千尋だ」
「どういう意味だ」
「つい先日、千尋が親のことをちらりと話してくれた。そのときぼくが、『普通の親』と言ったら、千尋が笑った。……あいつらしくない、皮肉っぽくて苦い笑い方が印象的だった。それでぼくの今の状況だ。千尋が笑った意味がわかったんだ」
千尋の父親は、『普通の親』などではなかった。むしろ対極の存在だ。
「それがおかしくて笑ったのか。確かに普通じゃない、と思って」
ふっとあごにかかった指の力が緩み、代わってくすぐるように撫でられた。思いがけない行為に、和彦の背筋に疼きが駆け抜けた。半分引き抜かれた道具を締め付けると、すかさず深々と埋め込まれ、腰が揺れる。
「――俺の、親としての評価はどうでもいい。大事なのは、バカはバカでも、千尋は大事な跡目だということだ。そして俺たちは、面子を大事にする。大事な跡目が、年上の、しかも男に弄ばれているなんてことを、許すわけにはいかない」
これはケジメだと、千尋の父親が恫喝するように囁いてくる。それが合図のように、和彦のものは再びラテックスの手袋越しに握り締められ、上下に擦られ始める。内奥では、挿入された道具によってグリグリと奥を抉られる。痺れるような肉の愉悦が下肢から這い上がってきた。
危うく声を上げそうになって必死に声を堪え、ひたすら千尋の父親の顔を見つめる。
「お前は無事に帰してやる。お前が姿を消したり、妙な傷を作ったりすると、千尋はすぐに組の関与を疑って、さらに家を避けるようになるだろうからな。……俺がお前に望むのは、息子と縁を切ることだけだ。もちろん、余計なことは言わずに。せいぜい派手に、あいつを振ってやれ」
返事ができない和彦が洩らしたのは、震えを帯びた吐息だった。千尋の父親が話している間も、和彦を攻める手は少しも緩まないのだ。それどころか、千尋の父親の手がスッと胸元に這わされ、凝った突起を指先でくすぐられる。見計らったようなタイミングで内奥から道具が引き抜かれ、興奮の度合いを確かめるように指を挿入されていた。
「うっ、ううっ……」
呻き声を洩らす和彦の顔を、胸の突起を弄りながら千尋の父親はじっと見下ろしてくる。
「忠告はしてやっていたはずだ。恨むなら、察しが悪かった自分を恨め」
最初はなんのことを言っているのかわからなかったが、ここ最近の出来事を素早く思い返してから、ようやく、何日も続いていた無言電話に行き着いた。つまりあれが、目の前の男たちなりの忠告だったのだ。
全身から漂う空気は剣呑としており、それでいて威嚇するような攻撃的なものではなく、ただ静かな凄みを放っている。衰えを知らないような厚みのある体つきに相応しいといえた。何より、彫像のように表情が動かない顔は、冷徹そのものではあるが、端整だ。
だが、容貌はさほど重要ではない。男が持つ独特の鋭さや冷ややかさ、年齢を重ねているだけでは醸せない落ち着きが、男の存在自体を圧倒的なものにしていた。
まともな人間ではない。この男だけでなく、この場にいる男たち全員が、普通ではないと和彦は見抜いた。
それを裏付けるように、男が言った。
「総和会、という名前を聞いたことがあるか? ときどきニュースで流れることがあるから、もしかして聞いたことぐらいはあるかもな」
和彦は、体の熱がわずかに下がるのを感じた。
男が口にした『総和会』という名を、確かに聞いたことはある。テレビのニュースや新聞で、ときどき見聞きすることがあるのだ。だが、その名が出るときは、絶対に不気味さや怖さがつきまとう。それというのも――。
「暴力団組織だ。総和会というのは十一の組から成り立っていて、俺は、その一つの組を任されている。もっとも、一般人からしたら、下っ端だろうが組長だろうが、ヤクザはヤクザだ。忌まわしくて、できることなら関わりたくない存在だろう」
男の冷めた視線が、ローションに塗れ、道具を含まされたままの和彦の秘部に向けられる。羞恥心は芽生えなかった。ただ、屈辱に打ちのめされるだけだ。
いきなり拉致されて裸に剥かれ、挙げ句にこんな仕打ちを受けているのだ。理不尽にもほどがある。もちろん、この場でそんな訴えをする無益さと無謀さだけはわかっている。
「俺の背負っている組は、総和会では特別だ。跡目となる人間が限られている」
ここまで言って男が膝を折り、目線の位置を近くした。たったそれだけの動作で、簡素で殺風景な室内の空気が大きく動いたようだった。男がそこにいるだけで、ひんやりとした空気が独特の熱を帯びる。
そんな男の口から放たれる言葉は、氷のように冷たかった。
「――長嶺組をまとめ上げるのは、長嶺の姓を持つ男だけだ。そして、今の総和会の会長は、長嶺組の前組長だった」
組の名そのものには何も感じなかった。だが、『長嶺』という響きは、和彦の記憶を強く刺激した。
「まさ、か……」
和彦は声を洩らし、脳裏に〈彼〉の顔を思い描く。長嶺千尋という名の青年の顔を――。
「お前には、俺のバカ息子が世話になってるようだな。キズモノにしてくれた、と言うべきかもしれないが」
和彦は、千尋と出会ってからのことを目まぐるしく思い返す。どこにでもいそうだが、どこにもいない存在感を持つ千尋と、ほんの三か月ほどのつき合いだ。交わした会話もセックスも、すべて覚えているといってもいい。
千尋の素性を知った和彦は、あまりに衝撃的な出来事と事実に、この瞬間、確実に精神がおかしくなっていた。
「ふっ ……」
和彦の口から洩れたのは、抑えきれない笑い声だった。さすがに男が――千尋の父親が軽く眉をひそめる。動作だけでなく、表情の一つ一つが芝居がかっているように様になっている。こうやって、粗暴な本性を隠しているのかもしれない。
「……見た目は優男なのに、肝が据わってるな。ヤクザに囲まれて、その姿で笑える奴は、そういないだろ」
千尋の父親が軽くあごをしゃくり、和彦の内奥深くに収まっている道具がゆっくりと引き抜かれる。短く息を吐き出して声を堪えた和彦は、千尋の父親にあごを掴み上げられた。燃えそうに熱い手だとまず思った。
千尋とはまったく似たところのない顔が真正面に迫る。
「今、どうして笑った?」
あごを砕かれそうなほど指に力が込められる。痛めつけられてまで秘密にするようなことでもないので、和彦は答えた。
「笑ったのは……千尋だ」
「どういう意味だ」
「つい先日、千尋が親のことをちらりと話してくれた。そのときぼくが、『普通の親』と言ったら、千尋が笑った。……あいつらしくない、皮肉っぽくて苦い笑い方が印象的だった。それでぼくの今の状況だ。千尋が笑った意味がわかったんだ」
千尋の父親は、『普通の親』などではなかった。むしろ対極の存在だ。
「それがおかしくて笑ったのか。確かに普通じゃない、と思って」
ふっとあごにかかった指の力が緩み、代わってくすぐるように撫でられた。思いがけない行為に、和彦の背筋に疼きが駆け抜けた。半分引き抜かれた道具を締め付けると、すかさず深々と埋め込まれ、腰が揺れる。
「――俺の、親としての評価はどうでもいい。大事なのは、バカはバカでも、千尋は大事な跡目だということだ。そして俺たちは、面子を大事にする。大事な跡目が、年上の、しかも男に弄ばれているなんてことを、許すわけにはいかない」
これはケジメだと、千尋の父親が恫喝するように囁いてくる。それが合図のように、和彦のものは再びラテックスの手袋越しに握り締められ、上下に擦られ始める。内奥では、挿入された道具によってグリグリと奥を抉られる。痺れるような肉の愉悦が下肢から這い上がってきた。
危うく声を上げそうになって必死に声を堪え、ひたすら千尋の父親の顔を見つめる。
「お前は無事に帰してやる。お前が姿を消したり、妙な傷を作ったりすると、千尋はすぐに組の関与を疑って、さらに家を避けるようになるだろうからな。……俺がお前に望むのは、息子と縁を切ることだけだ。もちろん、余計なことは言わずに。せいぜい派手に、あいつを振ってやれ」
返事ができない和彦が洩らしたのは、震えを帯びた吐息だった。千尋の父親が話している間も、和彦を攻める手は少しも緩まないのだ。それどころか、千尋の父親の手がスッと胸元に這わされ、凝った突起を指先でくすぐられる。見計らったようなタイミングで内奥から道具が引き抜かれ、興奮の度合いを確かめるように指を挿入されていた。
「うっ、ううっ……」
呻き声を洩らす和彦の顔を、胸の突起を弄りながら千尋の父親はじっと見下ろしてくる。
「忠告はしてやっていたはずだ。恨むなら、察しが悪かった自分を恨め」
最初はなんのことを言っているのかわからなかったが、ここ最近の出来事を素早く思い返してから、ようやく、何日も続いていた無言電話に行き着いた。つまりあれが、目の前の男たちなりの忠告だったのだ。
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