5 / 1,268
第1話
(4)
しおりを挟む
さきほど首筋に押し付けられたのは、スタンガンだろう。痺れて動かない体をシートに押さえつけられたまま和彦は、今となってはどうでもいいことに結論を出す。体では、車の振動を感じていた。思考がまとまらないながらも、頭に浮かぶのは最悪の状況だけだ。
理由もわからないまま、重しでもつけられて海に沈められるのだろうか。それとも山中で生き埋めにされるのか。自殺に見せかけて首を吊らされることも――。
自分で自分の想像に吐き気がしてきた。和彦が思わず身じろぐと、有無を言わさず体をまた押さえつけられた。
車内には、和彦を除いて四人の男が乗っていた。運転席と助手席に二人、後部座席で和彦を押さえているのが二人。他の車に仲間がいるのかもしれないが、咄嗟の状況で和彦が把握できたのはこれだけだ。
男たちの行き先はすでに決まっているらしく、車中では一切会話を交わさない。
おそらくもう一時間近く車を走らせているが、外の様子も見えない中で、時間の感覚など簡単に麻痺してしまう。もしかすると三十分も経っていないのかもしれないし、実はとっくに一時間など過ぎているのかもしれない。
それに、どこか遠くに連れて行かれているようで、本当は同じところをぐるぐると回っているような気もしてくる。
和彦は懸命に考え続ける。脱力感と、体を押さえつけられているせいで全身が痛いが、せめて思考ぐらい働かせていないと、恐怖のあまり声を上げてしまいそうだ。声を上げると、きっとこんな扱いでは済まないだろう。だから和彦も黙り続けているしかない。
いつまでこんな時間が続くのか。和彦がぐっと奥歯を噛み締めたとき、車がカーブを曲がり、少しまっすぐ走ったあと、ふいに体が浮くような感覚を味わった。何事かと思ったが、音が反響しているのを聞き、どこかの地下に入ったのだと推測する。
地下駐車場だとわかったのは、車のエンジンが切られてスライドドアが開けられたからだ。和彦は車から降ろされ、また荷物のように引きずられる。
エレベーターに乗せられて何階かまで上がるが、その途中の階で停まることはなかった。目隠しをして両手を拘束された男を引きずって歩くぐらいだ、普通のビルやマンションではないのかもしれない。
通路らしい場所を引きずられてから、どこかの部屋に連れ込まれた。前触れもなく体を放り出されたが、マットレスらしい感触に受け止められる。
和彦は小さく呻き声を洩らしてから、全身の神経を研ぎ澄ませて辺りの気配をうかがう。ピリピリと突き刺すような空気が漂っていた。マットレスの周囲に何人かの人の気配は感じるが、無闇に和彦を威嚇するようなことをしないため、かえって不気味だ。
ゆっくりと強張った息を吐き出し、和彦は拉致されてから初めて口を開いた。
「――……誰なんだ。どうして、こんなことをする」
いきなり殴られるかもしれないと覚悟したうえでの発言だったが、そうはならなかった。ただし、和彦の問いかけに対する答えもない。
本当に自分を取り囲んでいるのは人間なのだろうかと、あまり現実的とはいえない不安が和彦を襲う。実際に和彦をここに連れてきたのは、確かに人間――男たちだった。
後ろ手に拘束されているせいで体のバランスが取りにくいが、それでも懸命に身じろぎ、なんとか体を起こそうとする。しかし、肝心の体にはまだ痺れが残っており、力が入らない。すぐにマットレスの上に転がったが、前触れもなく誰かに体を抱き起こされ、両手の縛めを解かれた。
ただしこれは救いにはならず、むしろ最悪の状況に向かう前振りといえた。
「何っ… …」
ジャケットを強引に脱がされ、和彦は混乱する。本能的に身を捩ろうとしたが、背後からしっかり肩を押さえられた。
シャツのボタンが外されながら、スラックスのベルトにも手がかかる。和彦はやめさせようとしたが、緩慢にしか動かせない両腕は簡単に掴み上げられ、目的を問う前に、身につけていたものすべてを奪われていた。
純粋な恐怖でもう声が出なかった。再び後ろ手で拘束されたが、手首にかかったのはひんやりとして重量のあるものだった。手錠だとわかり、微かに歯が鳴る。
殺されたあと、死体は何も身につけていないほうが身元がわかりにくい。これで指を切り落とし、歯をすべて砕いてしまえば、あとは海に捨てるなり、山に埋めてしまえばより完璧に近づく。
マットレスの上に茫然自失となって座り込む和彦は、ふいに肩を押されて後ろ向きで倒れそうになったが、誰かの胸で受け止められた。一方で、前にいる別の人間には両足を掴まれたかと思うと、左右に大きく開かれた。
「やめろっ」
咄嗟に声を上げて両足を閉じようとしたが、背後にいる人間の手によって両足を抱え上げられる。前にいる人間たちに、秘部をすべて晒す屈辱に満ちた姿勢を取らされてしまったのだ。
何か様子が違うと、ここに至ってようやく和彦は気づく。自分を拉致した男たちの目的は、すぐに殺すことではなく、まずは辱めることにあるのではないか、と。
その証拠に――。
「ひっ……」
胸元に手が押し当てられ、まるで検分するかのように肌の上を滑る。断言はできないが、医者である和彦には馴染みのあるラテックスの手袋をしているようだった。妙に生温かな手が胸元から腹部へ、さらに下腹部へと這わされる。
恐怖と生理的な嫌悪感から、たまらず和彦は抱えられた足を振り上げようとしたが、その前に、素早く弱みを握り締められていた。
「あうっ」
体の力が一気に抜ける。手に力を込められたら、という想像だけで、何もできなくなる。それでなくても大半の抵抗を封じられ、何も見えていない状況なのだ。今の和彦はあまりに無防備だった。冷たい液体を下腹部に垂らされても、唇を噛むことしかできないぐらい。
この場にいる男たちの目的もわからないまま、和彦のものは、ゴムの感触も生々しい薄い手袋を通して上下に擦られる。滑る感触と、グチュグチュという濡れた音で、自分の下腹部に垂らされた液体がローションだとわかった。
理由もわからないまま、重しでもつけられて海に沈められるのだろうか。それとも山中で生き埋めにされるのか。自殺に見せかけて首を吊らされることも――。
自分で自分の想像に吐き気がしてきた。和彦が思わず身じろぐと、有無を言わさず体をまた押さえつけられた。
車内には、和彦を除いて四人の男が乗っていた。運転席と助手席に二人、後部座席で和彦を押さえているのが二人。他の車に仲間がいるのかもしれないが、咄嗟の状況で和彦が把握できたのはこれだけだ。
男たちの行き先はすでに決まっているらしく、車中では一切会話を交わさない。
おそらくもう一時間近く車を走らせているが、外の様子も見えない中で、時間の感覚など簡単に麻痺してしまう。もしかすると三十分も経っていないのかもしれないし、実はとっくに一時間など過ぎているのかもしれない。
それに、どこか遠くに連れて行かれているようで、本当は同じところをぐるぐると回っているような気もしてくる。
和彦は懸命に考え続ける。脱力感と、体を押さえつけられているせいで全身が痛いが、せめて思考ぐらい働かせていないと、恐怖のあまり声を上げてしまいそうだ。声を上げると、きっとこんな扱いでは済まないだろう。だから和彦も黙り続けているしかない。
いつまでこんな時間が続くのか。和彦がぐっと奥歯を噛み締めたとき、車がカーブを曲がり、少しまっすぐ走ったあと、ふいに体が浮くような感覚を味わった。何事かと思ったが、音が反響しているのを聞き、どこかの地下に入ったのだと推測する。
地下駐車場だとわかったのは、車のエンジンが切られてスライドドアが開けられたからだ。和彦は車から降ろされ、また荷物のように引きずられる。
エレベーターに乗せられて何階かまで上がるが、その途中の階で停まることはなかった。目隠しをして両手を拘束された男を引きずって歩くぐらいだ、普通のビルやマンションではないのかもしれない。
通路らしい場所を引きずられてから、どこかの部屋に連れ込まれた。前触れもなく体を放り出されたが、マットレスらしい感触に受け止められる。
和彦は小さく呻き声を洩らしてから、全身の神経を研ぎ澄ませて辺りの気配をうかがう。ピリピリと突き刺すような空気が漂っていた。マットレスの周囲に何人かの人の気配は感じるが、無闇に和彦を威嚇するようなことをしないため、かえって不気味だ。
ゆっくりと強張った息を吐き出し、和彦は拉致されてから初めて口を開いた。
「――……誰なんだ。どうして、こんなことをする」
いきなり殴られるかもしれないと覚悟したうえでの発言だったが、そうはならなかった。ただし、和彦の問いかけに対する答えもない。
本当に自分を取り囲んでいるのは人間なのだろうかと、あまり現実的とはいえない不安が和彦を襲う。実際に和彦をここに連れてきたのは、確かに人間――男たちだった。
後ろ手に拘束されているせいで体のバランスが取りにくいが、それでも懸命に身じろぎ、なんとか体を起こそうとする。しかし、肝心の体にはまだ痺れが残っており、力が入らない。すぐにマットレスの上に転がったが、前触れもなく誰かに体を抱き起こされ、両手の縛めを解かれた。
ただしこれは救いにはならず、むしろ最悪の状況に向かう前振りといえた。
「何っ… …」
ジャケットを強引に脱がされ、和彦は混乱する。本能的に身を捩ろうとしたが、背後からしっかり肩を押さえられた。
シャツのボタンが外されながら、スラックスのベルトにも手がかかる。和彦はやめさせようとしたが、緩慢にしか動かせない両腕は簡単に掴み上げられ、目的を問う前に、身につけていたものすべてを奪われていた。
純粋な恐怖でもう声が出なかった。再び後ろ手で拘束されたが、手首にかかったのはひんやりとして重量のあるものだった。手錠だとわかり、微かに歯が鳴る。
殺されたあと、死体は何も身につけていないほうが身元がわかりにくい。これで指を切り落とし、歯をすべて砕いてしまえば、あとは海に捨てるなり、山に埋めてしまえばより完璧に近づく。
マットレスの上に茫然自失となって座り込む和彦は、ふいに肩を押されて後ろ向きで倒れそうになったが、誰かの胸で受け止められた。一方で、前にいる別の人間には両足を掴まれたかと思うと、左右に大きく開かれた。
「やめろっ」
咄嗟に声を上げて両足を閉じようとしたが、背後にいる人間の手によって両足を抱え上げられる。前にいる人間たちに、秘部をすべて晒す屈辱に満ちた姿勢を取らされてしまったのだ。
何か様子が違うと、ここに至ってようやく和彦は気づく。自分を拉致した男たちの目的は、すぐに殺すことではなく、まずは辱めることにあるのではないか、と。
その証拠に――。
「ひっ……」
胸元に手が押し当てられ、まるで検分するかのように肌の上を滑る。断言はできないが、医者である和彦には馴染みのあるラテックスの手袋をしているようだった。妙に生温かな手が胸元から腹部へ、さらに下腹部へと這わされる。
恐怖と生理的な嫌悪感から、たまらず和彦は抱えられた足を振り上げようとしたが、その前に、素早く弱みを握り締められていた。
「あうっ」
体の力が一気に抜ける。手に力を込められたら、という想像だけで、何もできなくなる。それでなくても大半の抵抗を封じられ、何も見えていない状況なのだ。今の和彦はあまりに無防備だった。冷たい液体を下腹部に垂らされても、唇を噛むことしかできないぐらい。
この場にいる男たちの目的もわからないまま、和彦のものは、ゴムの感触も生々しい薄い手袋を通して上下に擦られる。滑る感触と、グチュグチュという濡れた音で、自分の下腹部に垂らされた液体がローションだとわかった。
63
お気に入りに追加
1,391
あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

朝起きたら幼なじみと番になってた。
オクラ粥
BL
寝ぼけてるのかと思った。目が覚めて起き上がると全身が痛い。
隣には昨晩一緒に飲みにいった幼なじみがすやすや寝ていた
思いつきの書き殴り
オメガバースの設定をお借りしてます
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…


ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる