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あれよあれよと
しおりを挟む次の日は普通にやってきた。健康。
ハルト様はソファのところでなんかの書類見てたけど、私の目が覚めたのに気が付いてすぐベッドの傍までやって来た。
「おはよう、サクラ。無事に目覚めて良かった」
「おはようございます。これで私死なないんですかね?」
「もうこちらに来て丸一日経ったから心配ないだろう、本当に良かった。お腹は空いてないか?もうすぐ夕方だ、本当に疲れていたんだな」
まさかの大寝坊だった。昨日から何時間寝たんだ私。
「うーん、空いてるような空いてないような…でも多分食べれます」
「では夕食に差し支えないものを持ってこよう、少し待っていてくれ」
ハルト様はささっと部屋を出て、すぐにお粥を持って戻ってきた。
食べさせるとうるさいハルト様との一悶着に勝利して、ベッドの上でそのまま食べた。
「ご馳走様でした。もうベッドから出ていいですか?そろそろ足を地面につけたいです」
「そうだな、では軽く身なりを整えようか。侍女を呼ぼう」
「侍女」
ひとりで出来るけど。
そういえばいつの間にか制服じゃなくなってるや、その侍女さんが着せてくれたのかな。
「手伝って欲しい時だけ呼べば良い、無理に人にさせる必要はない。今も着替えがないから呼ぶだけだ」
「ああ、なるほど……そういえばこの部屋客間的なとこですか?」
ゴージャス部屋。
「ここは俺の仮眠室だな」
ゴージャスな仮眠室。こんなキラキラしといて仮眠出来るんだ。
「面倒だからこの部屋で寝起きしていたが、サクラも居るしこれからはちゃんと俺たちの屋敷へ帰ろう。サクラの寝ている間に手配しておいたから」
早技。おうち準備しちゃったんだ。
まあ、多分ここお城なんだろうしこっちに住むよりはましか。
「ん?ちょっと待っておかしくない?私一応侯爵家に籍あるんですよね。なんでハルト様と住むの?」
「サクラは以前から城に住んでいたろう?ならばそのまま侯爵家に帰らず俺といるべきだ」
なんで侯爵家のお嬢様が城に住んでんだ、ゲームじゃなんも思わなかったけどめっちゃ変。えー、スキップ出来るとこ全部したから全然わかんない。
「サクラは今侯爵家に戻って家族として暮らせるのか?」
「それは無理ですね、そもそもゲームでは出てこなかったし家族の名前も知りません。あ、おにーさんの名前だけ出てた気がする、忘れたけど」
「アンバーか、出仕してるから呼べるぞ。会うか?」
「や、いいです」
名前も覚えてない無関係の人だしな。家族なんて全く思えない。
「名前も知らない人間が複数居る屋敷より俺と二人の方が気が楽だろう?」
「ん~…家族とはとても思えないしどんな人たちかも知らないから確かに…でも四六時中愛してる言われる生活と比べたら…」
「サクラ、もしサクラが侯爵家に住んでも俺は毎日会いに行くぞ」
うぅーん、ホントに毎日朝から晩まで来てそう。離れる意味なさそう。
一人暮らしとか…出来るわけないか。
「そういう訳でサクラの家は俺の邸だ。無理やり何かする訳でもないし、部屋も別だから安心して生活してくれ。ああ、服も届いたな。一旦外で待つ」
ドアがノックされて、侍女さんが服を持ってきてくれた。
なんか一緒に住むことにされたくさいけど、引いてくれそうにないしもういいや諦めよう。
「ありがとうございます。ひとりで大丈夫なので」
着替えを受け取って部屋に一人になる。
あー、昨日から怒涛の展開だった。ちょっと落ち着いて考えよう。
「王子様ねぇ……」
好かれてるのはわかりすぎるくらいわかるけど、『好き』ってどんな気持ちなのか全然わかんない。
このまま流されてていいのかなー。
「とは言え私に出来ることは何もなく」
死んでたかもしれないとはいえ誘拐されたようなもんだし、生活の面倒を見てもらうのはアリ。
他に好きな人を作るのは不可能に近そうだけど、どうせ好きな人なんて出来る気しなかったし、ハルト様を絶対好きにならなきゃいけないわけでもない。
「……まぁいっかって思いそうになってる自分がこわいなぁー」
もそもそ着替えを終え、髪を手櫛で整えてから部屋を出た。
***
着替えた私をみて可愛い美しい愛してるとうるさいハルト様にくっつかれながら馬車に乗り込んで、乗る必要あったのかわかんないくらいすぐ着いたお屋敷に入った。
「でっかい……」
まあわかってたけどね。王子様が住む家が小さい訳がない。
「そんなに大きくはないが、もっと小さいのが良いか?敷地内に小さな別宅をつくろう。一から好きに作れてきっと楽しいな、時間がかかるからそれまでは此処で我慢して欲しい」
家建てちゃうんだ、すごーい。大きい家落ち着かないから甘えとこう。
「こう…リビングと他に三部屋くらいしかない小さいのがいいです。庶民育ちなので」
「しかしそれだと子供が出来た時部屋が足りないぞ?」
子供を産む予定はない。
「ハルト様キス以上しないって約束したじゃないですか。そこは信用してます」
「ふーん、まあ今はそれでも十分か。領地にも屋敷が必要だしな、別宅は二人で住めれば」
「別宅に一人で住む選択肢は」
「一人で住んでもいいが、俺の部屋がない方がサクラの部屋に入り浸る羽目になるぞ」
めっちゃありそう。お部屋作ってもらおう。
会話しながら二人で廊下を歩いて、二階の端っこの方までたどり着いた。
「此処がサクラの部屋になる。入ってみてくれ」
ハルト様がドアを開けてくれて、そのまま二人で入る。やっぱり中広い。
「シンプルで好きです」
広いけどあの部屋みたいなゴージャス感なくて良いな。白と木の色で統一されてて落ち着きそう。
「良かった、サクラの好みが変わっていなくて」
ハルト様がニコニコ頬を触りながら言う。
そのまま反対の頬にキスされ、手を引かれてソファに隣り合って座った。近い。
「サクラはキスするよりくっついた時の方が反応が良い」
キスはされてる感強いけど、肩とかくっついてるだけだと色々考える余裕が出てくるせいだ、多分。
「こう…なんかされてる訳じゃないからその分あれこれ考える隙が出来て」
「動揺すると」
「……そうですね。そんな嬉しそうな顔しないでください、ときめいてるわけでもないですよ」
「俺のことを考えるサクラに感動している」
言いながら横に向かされてキスされた。
「いま考える隙間がなくなりました」
「そうだな、真顔になってしまった。その顔も可愛らしい。分かっていたが俺はサクラならなんでも良いみたいだ」
目を潤ませて眉を下げて、頬を染めながら微笑むハルト様の目眩さよ。
なんかすごい芸術品見てるような気分になって、しばらくほーっと見惚れてしまった。
ドキドキはしていない。
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