ヒロイン、悪役令嬢に攻略をお願いされる

えも

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悪役令嬢の話

攻略対象は悪役令嬢がすき

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「すごく努力してくれたようだけれど、もしかして貴方私のこと好きなの?」

「そうですよ、だから婚約の申込みしてたんでしょう」

とてもじゃないけどあの態度で好かれてるとは思えないわ。

「だって、事務的な感じ丸出しだったじゃない」

「俺と結婚すればお得ですよってアピールしてるつもりだったんですけど。まあ条件で選んだのも確かです、でも前からそれなりに好意はあった。だから店にも通ってた。通って行くうちに俺も家族の枠に入れて欲しくなった」

「愛してる?」

「そこまでは…でも仲を深めて行けばきっと。だから俺を選んで。大切にしますよ」

そこで愛してるって言えば完璧だったのに!


「私、貴方のこと好きじゃないわ」

「………はい」


「でも、なんかちょっと育んでみたいって気になっちゃったからお付き合いしてみましょうか」


「それでは婚約で?」

「いえ、とりあえずお付き合いで」

「……燃え上がるような恋が希望なんでしょう?ここは盛り上がって婚約まで進めても良いかと」

「それはもうちょっと口説かれてから考えるわ。丁度良い事に女性を口説くのにうってつけの場所に居るわよ私たち。ほら、バルコニーからの景色も綺麗」


こう、きゃーってなってぎゅんぎゅんくる台詞が聞きたいわ。


「ここ?ここ貸部屋ですよね、確かに無駄に豪華だけど」

「女性を口説いてうっとりさせてそういう事をするお部屋よ」

はやい話がラブホでしょ、ここ。高級な。

スタンリーはビクッと肩を震わせて、部屋を見渡して数秒固まったあと両手で頭を抱えた。
気付いてなかったのね。

「ちょっと…衝撃が強すぎて何の言葉も出そうにないです」

「頑張って!努力できる人でしょう貴方」


「えっと………とりあえず、名前で呼んで欲しい」

「スタンリー?」
「スタンで」

「…スタン」

呼ぶと、顔を上げてこちらを見てきた。
表情が崩れると印象が変わるわね。

「良いですね、愛称で呼ばれるの。あなたに名前を呼んでもらったのもはじめてだ」


ちょっと考えてから、スタンの座っている側のソファへ近寄った。隣に座ると、またビクッと肩が震えた。

視線が合う。こんなにまじまじと顔を見たのは初めてだわ。
攻略対象なだけあって整ったお顔。


「……好きです」

そろそろと彼の手が近付いてくる。

「俺には家を切り離して考えることは出来ないけど、例え貴女が公爵家のご令嬢でなくても貴女が欲しいと思う。王女殿下が降嫁してくると言われても、貴女が、良いです」

「そう、それはとても情熱的な台詞ね」

近付いてきた手をとって、膝の上で重ねる。


「………カミラ」


ここではじめての名前呼び。なるほど確かにこれは結構くるものがある。

「名前を呼ばれるのってドキドキするのね、知らなかったわ」


スタンの方へ手をのばす。自分の方へ引き寄せて、頬にキスをした。

「唇には本当に好きになってからするわ。こんな私は嫌じゃない?」

スタンの手が私の腰にまわってきて、ものすごく緩くハグされた。

「好きです。嫌じゃない、その対象に入れてもらえたのが嬉しい。今までにない手応えに動揺してます」

声が震えてる。今日だけでスタンへの印象が全く変わってしまったわ。

「貴女の目映い笑顔が好きです。はしゃいだ姿に愛おしさを感じます。家族と居る時の貴女はとても愛くるしい。
俺も貴女と一緒に笑ってはしゃげるようになりたいです、そうやって二人で愛を育んでいきたい」

「…スタンも一緒にキャーって言うの?全く想像がつかないわ」

想像出来ないし、きっと気持ち悪い光景だと思うの。

「それはちょっと俺にも想像がつきません。そっちじゃなくて、浮かれた恋人同士になるのも良くないですか。フィービーさんたちにキャーキャー言われるくらいの」

「あら、それは良いわね。はしゃいで浮かれた恋人同士を目指すのね」

「俺は既に浮かれていますけどね」

浮かれてるんだ。顔には出ていないけれど。  

「じゃあ、浮かれたついでに盛り上がってみましょうか。ねぇ、今度はスタンからキスをしてくれる?」

スタンは私を凝視したあと、いきなりバッと後ろに下がった。あら、耳が赤くなってる。

「あ、貴女は本当にもう……」

もう一度向き合って、ゆっくりと近付いてくる。

「…………とても可愛いですね」

そろそろと手が頭に置かれて、手櫛で梳きながら髪にキスされた。
髪なんだ。真面目なところは好きだわ。

その後は手を握られて、腕や手にもキスされる。
スタンが熱が籠った目で私を見つめて、そのあと目を閉じて首を振った。

「すみません、これが精一杯です」

「ふふ、とてもドキドキしたわ。浮かれてたかしら私たち?」

「浮かれていたでしょうね、外を見てください。もう日が暮れかけてる」

もうそんな時間なのね。気がついたらお腹が減ってきた気がする。

「お腹すいたわ」

「ああ、店から持ち込んだ生チョコがあります。少しは空腹が紛れるだろうし、帰る前に一緒に食べませんか」

スタンはうきうきとチェストの方へ行き、上に置いていた箱を持ってきた。

「本当に楽しみにしていたんですよ、溶けてないと良いけど。これもレシピは貴女なんでしょう?本当に凄いですね。レシピだけじゃなくて貴女が作ったものを食べてみたい」

「今度作ってあげるわね。ね、あーんってして。食べさせてあげる」

これやりたかったのよね。
スタンは素直に口を開けて、美味しい、とニッコリ笑った。
私も口を開けたらすぐにくれた。

「…と、そろそろ送っていかないとギルバート達が心配しますね」  

「ね、ね、最後の一個は半分こ。スタンが先に食べて、そのあと頂戴な。はい、あーん」

「ん…」

私はもう一度頬にキスをして、急いで帰路へと着いた。




こうして、私たちの物語がはじまる。
考えてみたら転生悪役令嬢と攻略対象なんて、定番の素敵なお話よね!
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