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悪役令嬢の話
攻略対象はあまいものがすき
しおりを挟むあの日からスタンリーは、たまにお店に顔を出すようになった。
「貴方懲りないわねぇ…こんな女性ばかりのお店に良く普通の顔して入って来れるわね」
「そうですね、こちらでお会いしたほうが貴女が手に入る確率が高そうなので。私達程家も年齢も釣合が取れている相手は中々居ませんよ」
「その隠す気のない打算的な言葉は、口当たりの良いコーティングを施したあと他の御令嬢に差し上げて」
「もう勤務終わりでしょう?一人で肩身の狭い私を哀れに思って向かいに着席してください」
座りたくない。
座りたくないけれど、この人が私を口説いている間はフィーちゃんに来ることはないと考えたギルが日々のらりくらりと対応しろと圧力をかけてきて、この人が来た時は同じ席に着いて対応するのが当たり前になってきてしまった。
「それにしてもこのチョコレートケーキは美味しいですね。私、ロン商会からしか入手出来ない菓子に数年前から入れこんでまして。レシピを購入したいのに独占されて困っています」
「貴方毎回毎回甘いものばかり沢山頼んで、本当に好きなのね。ふふん、これは生クリームとチョコレートの配分が普通と違うのですわ、割合は内緒ですけれど。最適な割合を見つけだすのに手こずったのも良い思い出です」
本当に苦労した。前世の私が。
「……これのレシピは貴女が?」
「私、お料理得意ですの。メニューはドリンク以外全て私のレシピよ」
「それは…すごいですね。商会で販売している菓子もですか?一昨年から急に菓子の種類が増えたのは貴女が貢献していたのですか」
それを交換条件にフィーちゃんに学園に来てもらったからね。レシピをどうするかはおじ様とフィーちゃんに任せていたけれど、独占販売してたのね。
「なるほど、貴女を手に入れたい理由が増えました。婚約を承諾して下さい」
家柄の次はレシピ目当てですか。
「伯爵家でも趣味が続けられる様取り計らいますよ。ここのメニューで一番美味しい自信作はどれですか?」
そうねぇ、どれも美味しいと自負しているけど。
「貴方チョコレートケーキは必ず食べているけれど、チョコレートがお好きなの?でしたらチョコレートケーキか良いのじゃないかしら。全部自信をもって提供しているけれど、本人が好きなものが一番美味しいわ」
「そうですね、チョコレートは好きです。一箱そのまま全部食べてしまうくらい。ここのチョコレートケーキが一番ですが、もっと甘くても良いくらいです」
「あら、来週から期間限定で生チョコを提供するのよ。そちらはケーキより甘いと思うわ?」
「そうですか!それは楽しみですね、来週必ず来店させていただきます」
この人婚約うんぬんは建前で甘いもの食べに来てるんじゃないの。
「建前じゃないですよ、貴女は家柄も立ち振る舞いも随一です。是非我が家に入っていただきたい」
愛のない台詞ですこと。
「姉様、お話し中すみません。僕たちもう帰りますね」
あら、もうそんな時間?じゃあ私も一緒に帰ろ。
「今私ご要望の口説き文句吐いてたんですが。この状況で帰ります?」
「あれは口説き文句ではないわ。出直してくださる?」
恋愛小説読んで勉強しなさい。
乙女ゲームではどんな風に口説いてたかしら?少なくとも家柄がどうだのではなかったわね。
あ、二人で残業中にクソ真面目が甘いお菓子で餌付けするのだった気がする。
「スタンは口説くのが下手ですね。姉様に目を向けるのは歓迎しますが、もう少し考えて発言しないと」
「これ以上ない程考えて明確に理由を述べているんだが、確かにものすごく反応が悪いな。距離を縮めるためにも夕食に招待して欲しい」
「うわ、超図々しい。カミラ姉様嫌がってんじゃないすか」
「フィー、口調崩れてるよ。そんな可愛い顔でスタンのこと見ちゃダメだよ」
「………フィービーさんは学園とは随分様子が違うようだが」
フィーちゃんは失言防止に無口なだけよ。どこでも変わらないわ。
「二人とも帰りましょう。この人は放っておけば良いわ」
「ちょっと待って下さい、まだケーキがほぼ残ってるでしょう。夕食は諦めますから食べる間くらい付き合ってください」
んもう、しょうがないわね。
「ねぇギル、フィーちゃんこのまま居て良いの?」
「まあ、姉様も一緒ですから。フィー、ケーキ食べない?僕にも食べさせてね?はぁ、可愛い。はやく卒業したいね」
いやーん、ギュってしてチュッてして膝の上にのせたわ~!
「はぁぁぁ、ケーキ食べるフィーちゃん抱きしめて後ろから頬擦りしてるぅ…弟夫婦ラブラブ尊い…」
「?!貴女急にどうかしたんですか?」
「いま話しかけないでくださる?私ラブラブ恋愛劇場見るのに忙しいの」
あぁ、幸せ~♡
「…ギルバート、君たち夫婦と姉君はいつもこんな?」
「僕もフィーを愛でるのに忙しいんですけど…まあ大体こんな感じです。僕たち夫婦は相思相愛だし、姉様はいつも眺めてはぁはぁ言ってる」
「相思相愛…カミラ嬢の言う相思相愛とはこれですか?貴女もこんな恋愛をして結婚したいと?」
恋物語はカップルの数だけあるのよ。
フィーちゃんとギルはこれで良いし、私にも素敵な物語がどこかではじまる予定よ。
「ふぅん…認識が違っていたようです。ギルバート、今度相談に乗ってくれ。それではまた後日改めて口説きにきます」
来なくて良いってば。
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