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第一章、モテない冒険者編。
22、アルトの過去。
しおりを挟む豪華な夕食を堪能して、皆が寝静まった時に俺は1人で温泉に向かった。
(マスターは本当に温泉好きですね。)
さっきは落ち着いて入れなかったかからな...。
ガラガラ...。
深夜なのでやっぱり誰も居ない。やっと1人で落ち着ける。そう思いながら俺はお湯に入る。
はぁ~...。
極楽、極楽...。
(マスター...。親父くさいですよ...。)
ほっとけ。
こう見えて中身は38歳の中年なんだぞ...。
ったく、あぁ~本当に気持ちがいい。
気持ちよすぎて何だか歌でも歌いたくなってきたな。
(いいですねぇ~♪ワタシ、マスターの歌が聴きたいです♪)
聞きたいと言われたら歌わなきゃな。誰も居ないし...。では、
「いい湯だなぁ♪Hahann♪
いい湯だな~♪Hahann~♪ここは天国...」
「いい歌だね~!」
!?
俺は歌を中断して声のする方を向く。すると
そこにはアルトが立っていた。
ハッッズッ!!
めちゃめちゃ恥ずかしいぞ...!!
...おい!ヴォイス!!
アルトが来てることわかった上で歌わせたろ!!
(は?なんのことですか?プププ!!)
...ヴォイスめ!とんだ辱しめを晒させやがって!
と脳内で言い合ってるとアルトが、
「一緒に入っていいかな?」
「お、おう...。ってかどうしたんだ?寝れなかったのか?」
「うん。そうだね。それもそうなんだけど...、このまま旅を続けるのにコウ君にどうしても言わなきゃいけない事があるんだ。」
アルトは真剣な顔で俺に言ってきた。
「言わなきゃいけないこと?」
「うん。ちょっと長くなるけど聞いてくれるかい?」
「あぁ、わかった。」
「僕の本当の名は、アルト・フォン・レオンハート。」
「レオンハート?」
(マスター。レオンハートは王都の名前ですよ。)
...え?マジで?
(マジです。)
「あ、アルトは王族なのか?」
「元だけどね。そこを踏まえて聞いてほしいんだ。」
「お、おう。」
アルトは静かに語り始めた。俺は話が長すぎて逆上せないか少し心配しながら耳を傾けた。
~アルトの過去~
王都レオンハートの公爵家に高らかに産声があがった。
「おい!鑑定しろ!」
「ダメですね。この子はユニークスキル「英知の書」しかもってないですね...。どう致しますか?」
「チッ!!外れか!!そんなヤツはうちには要らん!!」
「し、しかしオーガイ様。ユニークスキルは滅多には...。」
「五月蝿い!!
剣に関するスキルを持ってない奴なんぞ、公爵家とは一切認めん!!」
何故ここまでオーガイが剣にこだわるかと言うと、王家は代々、剣の家系で四年に一回行われる王国剣武祭で、
優勝を義務付けられてたのだが、
この年はデュークと言う若い平民に優勝されて公爵家は恥をかいて腹を立てていた。
将来、オーガイが王と成るために剣で武功をあげる手駒が必要であった。
「だ、旦那様!この子をどうするつもりでいらっしゃるのですか?」
震えた手で必死に我が子を抱く、側室のメリア。
「公爵家にはいらん!処分しろ!」
「そ、そんな...。」
辺りは静まり返る。側室のメリアは決断をし、オーガイに話しかけた。
「旦那様、少し時間を下さいませんか?
その間にこの子を処分しますので...。」
「勝手にしろ!!」
そう言われてホッと胸を撫で下ろすメリア。
オーガイが部屋を出て行き、メリアは信頼の出来る部下に頼み自身の父であるカールに子供預ける事にした。
「貴方の名前はアルト...。強く生きてね...。
そしてごめんね...。」
メリアは泣き、アルトをバスケットに入れた。
そこに持っていたネックレスと手紙をしたため、部下にバスケットを持たせ父の元へ行かせた。
数日後、
ドンドンッ!!
「誰じゃ?こんな時間に...。」
「失礼します!カール様でございますか?」
「そうじゃが?どうしたんだ?」
「良かった。私はメリア様の命で来ました。シロップと申します。」
シロップは幼子アルトが入ったバスケットをカールに渡した。
「手紙が御座いますのでお読みください。」
カールは渡された手紙を読む。
お父さん。
突然すいません。
この子を預かって下さい。
名前はアルトです。
お願いします。
ただそれだけが書いてあった。
「何があったのだ?...シロップとやら教えてくれ。」
「実は...」
シロップは事の顛末を一部始終話した。
「なんと言う愚かなことを...。だから公爵家なんぞに嫁がせたくなんて...。」
カールは怒りに狂いそうだったが、アルトの顔を見たら不思議と落ち着いた。
「わかった...。この子はワシが責任を持って育てよう。シロップとやら少し待っていただきたい。」
そう言うとカールは手紙を書き、
「これをメリアに渡してくれ。」
「かしこまりました。」
そう言うと、シロップは出て行った。
「アルトや~。ワシがおじいちゃんだぞ~!」
「キャハハッ!!」
「お~!!笑ったわい!可愛いの~!」
こうしてアルトは祖父に育てられた。
祖父は元冒険者で口癖は、
「いいか!アルト!冒険にはロマンが!
そしてダンジョンにもロマンがある!!いずれはアルトも冒険者になるといい!!楽しいぞぉ~!!」
そして祖父は様々な冒険の話をしてくれた。
しかし僕が10歳になった時、病で祖父が他界した。
それと同時に王都から使者が来て半ば強引に公爵家に行くことになった。
公爵家に着いて、僕は初めて父と母にあった。
父の冷酷な眼付きが嫌だった。
人を人だとも思わない眼だ。
公爵家の離れに住むことになった。
母が頼み込んだらしい。
家庭教師を雇い、剣術、帝王学を学んでいくのだが、義理兄達と実の弟には散々苛められた...。
何故かって?
僕に剣のスキルがなかったからだ...。
僕はいつしか本が置いてある書斎しか寄り付かなくなっていた 。
母とは書斎で会い、たくさん話して文字も教えて貰った。
その時間が僕の心の支えだった。
書斎でたまたま読んだ本に英知の書の使い方が書いてあった。
僕はこっそりと魔法を覚え始める。
12歳になったとき、先代が無くなりオーガイはレオンハートの王になった。
オーガイが王になった事で益々、剣に固執するようになった。
僕は剣には向いていないが、少しでも認めて貰うために頑張った。
だが全く才能がなく、兄弟達には罵倒され、弟には見下される日々が続いた。
そして、15歳になった時に教会で職を貰った。
それが「賢者」だった。
それを王に報告したら、
「剣が握れないなんて王族の恥だ!!
お前を除名、追放する!!殺されなかっただけ有り難いと思え。」
僕はそれで良かったと思った。
ちゃんと成人まで育てて貰った。
僕にとっては糞みたいな場所だったけど、成人まで頑張れたのは唯一母は優しい人だったからだ。
王都を出て僕に当ても無かったが、
祖父の言葉「冒険にはロマンがある!」を思い出し、冒険者になる為に冒険者の街アバドンに行って、そこで僕はコウ君、君と出会ったんだ。
「アルト...。お前大変だったんだな。」
「まあ、そのお陰で今があるからなんとも言いがたいけどね...。今は毎日楽しいしさ!」
「アルト先生だいべんでぢだねぇぇ...。」
「うんうん...。わかる、その辛さわかるよ。」
ゴングとソーマもいつの間にかそこに居た。
ゴングは号泣し、ソーマはウンウンと頷いていた。
ってか、本当にいつの間に来たんだ?
「コウ君、驚いた?
元だけど公爵家なんて面倒でしょ?」
「驚いたけど、何が面倒なんだ?
アルトはアルトだろ?
元王族だか何だか知らないけど、俺にとっては今のアルトがアルトさ!」
「コウ君、ありがとう!話して良かったよ!」
アルトは晴れやかに笑った。
それにしても...。
うーん...。やっぱり設定おかしくね?
(マスターどうしました?)
いや、何、
読んでた追放物のラノベの主人公とアルトが被るんだよね...。
王族に追放されたが職業賢者とスキル英知の書で、Sランク冒険者で無双する。
今さら、王族に戻ってこいと言われても可愛い嫁と悠々自適に暮らしてるからもう遅い...。
的な?
(マスターは本当にひねくれ者ですね...。)
いやいや、だってさ優秀なスキルも持ってるし、ヒロイン的なのも序盤に出てるし、イケメンだし、王族だし...。
(マスター...。僻むのはやめましょ...。聞いてるワタシが恥ずかしい...。)
ですよね...。自分でもそう思う...。
この後俺は、話に夢中で長風呂したせいで逆上せて倒れてしまったのだった。
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