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1章

さがさないでください

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折角いっぱいおねだりしたのにシエラ先生は詠唱魔法を教えてくれなかったし、もちろんダンジョンにも行かせてもらえなかった。仕方ないからカリナと一緒に行って見ることにする。


えっと……なんて書こうかなあ


『さがさないでください。あーしゃ』


よし書けた!これでいいや!
机の上に書置きを残してダンジョンへお出かけだ。



「アーシャ様、それは流石に不味いのでは?」


「大丈夫だって。ママはちゃんとわかってくれるよ」


「王妃様になら通じるかなとは思いますが。色んな誤解を生みそうですよ?特に国王様が」



パパは確かに不味いかも。家出と勘違いして本気で探しそう。でもよく考えたら家出する理由なんかないって気がつきそうなんだけどなあ。


でも、パパだから案外気が付かないかも。

そのときはそのときだ。仕方ないよね。きっとママが何とかしてくれる。はず。



「よし!行こうかカリナ!」


「はあ。アーシャ様、一つだけ約束を。ダンジョンに入ってもあくまで1階層だけです。それはよろしいですね?」


「はーい。」


「お弁当とお水も持っていきますよ。それからおやつは300ゼニーまでですよ」


「はーい?バナナとおミカンもってかないとね!ママにお願いしよっと」


「はい、言ってらっしゃいアーシャ様」



バナナとミカンはおやつに含まれないんだよってママが教えてくれたから、ちゃんとバナナとミカンは持っていく。だってお腹はすぐにペコペコになっちゃうもんね。


さあ、早くママにおやつ代とバナナとミカンをもらわないと!
あれ?でもママには内緒で出かけるんじゃなかったっけ?ママに聞かれたらなんて言おう?
考えてるうちにママの所に付いちゃった。ええい!なるようになーれだ!



「ママー!おやつ代とバナナちょうだいー!あとミカンも!」


「きたわね。アーシャちゃん?ユグ裏では危ないことしちゃダメなのよ?わかった?」


「うん。気をつけるね!」


「じゃあこれね。ダンジョン前の屋台で美味しそうなの見つけてらっしゃい」


「ありがとー!ママ大好き!ちゅ!」


「がんばってね。おうちに帰るまでが遠足だよ!途中で気を抜いちゃダメだよ?」


「はーい。いってきまーっす」





なんだかぜんぜん怒られなかった。やったぜー!

おやつ代とフルーツを受け取って大好きなママのほっぺにぶちゅっとしてから出かけることに。


カリナと合流してユグドラシルダンジョン前に行って、屋台でおいしそうな串焼きを買う。焼いてるところから肉汁がポタポタしてタレがポタポタして、いいにおいがもわわわ~んっと出ているお店だ!もわわわ~んだ!たまらん!もわわわ~んにつられて買ってしまった。

他にも色々買おうと思ってたのにっ。くやしい!


そしてその賑わいの裏に回るとそこにはあんまり人がいない過疎ダンジョンがある。


そう。ここ、ユグドラシルダンジョンの裏の方に回ったところにはDランクダンジョンがある。
通称はそのままで『ユグ裏ダンジョン』だ。
ユグドラシルの裏にあるダンジョンだ、としか認識されておらず、ここの正式名称は誰も知らない。
そんな有様なのだ。


ユグドラシルダンジョンは1階層から上位種族であるハイオークやオーガ、ラミアなどが出現し、2階層ではヴェノムスパイダーやポイズンビートル、ヘビーセンチネルなどが出現するらしい。要するにすごく強いモンスターがいっぱい出てくるのだ。


そしてユグ裏ダンジョンの1階層では子供でも倒せるおわんサイズのぷちスライムや20cmくらいのヤツホシテントウなんかだ。ぷちスライムはご家庭のトイレに大活躍だし、ヤツホシテントウはこうみえて農作物を荒らす虫をとるので農家の人に人気らしい。要するに一般人でも全く問題ない相手なのだ。


さーて、串焼きも持ったし、武器も持ったしダンジョンに突入だ!



初めて入ったダンジョンはやっぱりすごい。入り口と中とで完全に構造が違うのだ。世界が変わったという感覚がある。ユグ裏ダンジョンは世界樹ユグドラシルと繋がっているからか、土と木で出来た洞窟みたいなダンジョンだ。なのに中と外でぜんぜん違う感覚になる。なんでなんだろうなあ。


ダンジョン内部は土でできた床、壁、天井といった土ばっかりの通路が広がり、木の根みたいなのがその土を網のようにカバーしている。そしてその木の根がうっすらと光っていて、前も後ろも結構見やすい。

歩いても全方位からの光があるので影があんまり出来ない。そんな超初心者向けダンジョン、それがこのユグ裏ダンジョンだ。おまけに出てくるモンスターはザコなので、あんまり初心者向けすぎてここの表層には冒険者はほとんど来ないらしい。


ユグ裏ダンジョンの1階層だけと言う約束なのでぷちスライムとテントウ虫しかいないはずだ。どっちも本で見たけど本当に雑魚としか言いようが無い。私たちでもあっさり狩れちゃうだろう。



「えーい!」



手に持った木の棒でぽこっと。簡単に倒せた。ぷちスライムちゃんほんと弱いなあ。



「そーい!ほらほらー!ふぁいあぼるとー!」



そこらにいるぷちスライムちゃんをちぎっては投げちぎっては投げ、暴れるのに疲れたら初級魔法のファイヤーボルトで燃やしてみる。


弱い。思っていた通りだが、すっごく弱い。

スライムと言えば酸で体を溶かすという攻撃法方がメジャーだが、ここのぷちスライムちゃんは酸の威力がものすごく弱くてスライムに手を突っ込むと水道で手を洗っているような感覚になる。

つまり全く溶けている感じがしないということだ。


これ幸いとスライムに手を突っ込んでみたり、そのままつかんで投げてみたり、二つにちぎってもう一度くっつけてみたり……くっつかなかったが。



「カリナー、ぷちスラすっごく弱いね?」


「そうですねえ。アーシャ様、足元に魔石が落ちてますよ」


「魔石!?どれがっ?」


そのつま先の所にある小さな粒みたいなやつです。


「んー?これ?」


足元に落ちてる小麦くらいの大きさの粒を拾う。
すごく小さいから小石と間違えて見逃してもおかしくないだろう。
でもよーく感じるとわずかな魔力があることが分かる。


「おおお。これが魔石かあ」


「おめでとうございます。初のドロップアイテムですね!」


「ありがとう。でもこれっていくらくらいだろ?」


「ぷちスライムの魔石は大体1個5ゼニーくらいです。残念ながら先ほどの串焼きやさんの串一本にその粒が60個必要なことになりますね……」


ふむ。私は今10匹のぷちスライムを倒して一つの魔石を得た。これが確率どおりなのかはよく分からないけれど、もしこのままの出現率だとすると、串焼きを1本買うのにぷちスライムを600匹倒して魔石を拾う必要があるわけだ。そりゃあこの階層に人がいないわけだ……




「アーシャ様、こちらのテントウ虫も大きいだけでものすごく弱いですよ」


どれどれ……?

テントウ虫さんを手に持っている武器『木の棒』で殴ってみる。庭に生えている木から作られた由緒正しき棒だ。ぶっちゃけ庭師さんが木を切ったときにもらっただけなんだけど。
いや、もはやスライムを殴ってたおしたと言ういわく付きの『スライムスレイヤーの棒』だ!


「えいっ」


ボコっとテントウ虫を殴ってみる。あっさりひっくり返って消えていった。魔石は勿論でない。
まあそれはいい。どうせ価値も似たようなもんだし。


ダンジョンのモンスターは倒すと消える。体や鱗、切断した手足もだ。
でもダンジョンから溢れたり、冒険者が連れ出したモンスターは消えない。


不思議な生態だなあとおもうが、魔物学者によるとダンジョン内で倒されたモンスターはダンジョンそのものが再利用するために吸収するのではないかとのことだ。じゃあダンジョンとは何なのか?ダンジョンはなぜその様な行動をするのか?もしダンジョンが生き物だとして、冒険者を拒むならばそもそもだんだん階層ごとに出現モンスターが強くなるなんてことをせずに、1階層で最強のボスが出るようになれば攻略される心配もなくなるんじゃないかって話になる。なんでそうしないんだろうなあ。


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