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7 準備??

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 「・・・山が見えてきたな。」
 「ホントだ。村の近くの山の何倍もあるね。」

 低木がぽつりぽつりとしかない草原から、突然木々が生い茂る山々が連なっているので、草原と山の間はお互いの領域をきっちりと分けているかのようになっている。

 山と草原がこんなにはっきりと分かれるものなのか?

 ギルはふと疑問に思った。

 小さな丘の上に来たところで山が見えたので、現在は丘の上で留まっている。

 「ねえぎギル。行かないの?」
 「・・・もうじき日が暮れる。今晩は見張りを魔導傀儡にまかせてここで夜を明かそう。」

 まだ山に入らない理由には、もうじき日が暮れることと、他にも、ここまで一切自分たち以外の生物の気配を感じなかったことが関係している。

 あの山の中に、その原因が居る。

 そう直感的に感じたギルは、まだ山に入らないと決めた。

 「分かった。私、あの山から嫌な気配がするんだけど、ギルはどう?」
 「俺もだ。明日、いつでも戦闘に入れるようにしてから行こう。」

 ここで野宿することが決まった時点で二人はテントを立て始めた。
 日が暮れてしまえば何も見えなくなってしまう。

 薪をくべようにもそんなものは無いため、グランから譲ってもらった明かりを灯す魔導具を使う。

 テントを立てた後、その小さな明かりの下で不味い保存食を食い、明日の方針を話し合った。

 「私、明日あの嫌な気配がするやつを叩いてから山を越えたほうがいいと思う。」
 「つまり、こっちから向こうを探し出すのか?」
 「うん。そうすれば、そのあとはそこまで警戒せずにいけるじゃん。」

 リーナの意見に、少し考えてからギルは首を横にふる。

 「いや、こっちは待ち構えながら行くべきだと思う。向こうは腹ペコなようだし、あっちから探し出してくれるだろう。」
 「えー。それじゃあ奇襲されるよ? さすがに私でもエンペラー級がいたらギルをかばいながら逃げられないと思うよ?」
 「エンペラー級がいるわけない、といいたいが、これだけ生物がいないと否定もできないんだよなあ。」

 モンスターのなかにも序列が有り、たとえばゴブリンなら、ゴブリン→ゴブリンリーダー→Gキング→Gエンペラー→Gゴッドといった風になる。
 モンスターの種類によって多少異なることはあるが、基本はこのような形になる。

 そして、キング級を越えた固体が現れた時点で町1つが壊滅する可能性がでてくる。
 エンペラー級なら、都市も危うくなり、ゴッド級が現れたら国家の危機として国を挙げて討伐することになる。

 実際過去にもゴッド級が現れ、二つの国が崩壊、五つの国が壊滅状態、十九の国が領土の2割をモンスターにより失った。

 エンペラー級でも、国が崩壊することがあるくらいだ。
 しかも現れるたびに何かしらの前兆があるという。

 ならば、現在の生物の気配がしないという異常事態も、この前兆なのではないだろうか。
 ギルは、その可能性も頭の中に入れておくことにした。

 「そう、だな。これだけの異常事態だ。こっちから迎えに行ってやろう。」
 「やた! だったら明日は戦闘日和になるといいね!」

 ギルは、リーナが立派な戦闘狂になったような気がしてくらっとした。

 その夜は、【巨人】をテントの前に、周囲に15体の【蝶】を配置した。

 「それじゃ、おやすみ。」
 「おやすみ、ギル。」





 夜が明け、ギルに魔導傀儡たちから日が昇ったと連絡が入った。

 「ふぅぁあああ。りーな。おきろ。あさだ。」
 「ぎるぅぅぅ。だきおこしてぇ。」
 「・・・自力でおきろ。」

 先に起きたギルも、起こされたリーナもまだ寝たりないといった雰囲気だった。

 もしかしたら寝ているうちに奇襲を受けるかもしれないと考えると、眠りも浅くなるを得なかった。
 しかし、グランとの訓練のおかげで慣れていたおかげか、二人はすぐに切り替える。

 「よし、体をほぐしたらいくぞ。」
 「うん。武器はお願いね。」

 朝食をとり、軽い組み手を行い戦闘のスイッチをいつでも入れられるように準備を進める。

 装備を整え、テントを片付け、ギルのスキルのガチャで手に入れた武具を装備していく。

 ギルの装備は、胸を覆う無料ガチャで手に入れた鎧と、リリナから手渡された篭手と脚甲だ。
 そして、腰に傀儡の長剣と短剣を刺した。

 リーナは胸、腕、足、に傀儡の鎧を着け、腰に片手斧を二つと、両腕に篭手の上に小盾を装着した。

 「よし、準備万端! いくよ、ギル!」
 「そのまえに魔導傀儡の戦力確認をさせてくれ。」
 「・・・。」

 いますぐに飛び出しそうだったリーナは、残念そうにうなだれた。

 そんなリーナにも見慣れてしまったギルは、リーナを無視して戦力確認をしていく。

     【魔導傀儡 亜空保管庫】
     蝶 :30体   鳥 :10体   狼 :5体
   小人:2体  妖精:2体    人 :2体
   兵士:3体  天使:3体  悪魔:4体
   巨人:4体   堕天使 :1体

 ・・・うん。キング級までなら大丈夫かな。一回戦ったこともあるし。

 ギルとリーナは、グランの訓練で山に放り込まれたときに、一度単独のゴブリンキングと戦ったことがあるのだ。

 キング級の脅威を知っていた2人は、全力を尽くして戦い、何とか追い出すことができた。
 ただ、追い出した後に二人とも気を失ってしまい、異常に気づいたグランが助けに来なければ危険だった。

 ギルは、あのときからさらに鍛錬を積み、強くなり、経験を得た今なら、キング級までなら倒せると考えた。
 エンペラー級が現れても、逃げ出すことくらいならできると、そう考えていた。

 リーナは、あのときのゴブリンキングの目を片方奪い、ダメージを負わせたのだから、強くなった今ならキング級なら倒せる。そう考えていた。

 運悪く・・・、2人の考えは一致していた。

 2人は勘違いをしていた。
 ゴブリンというのは、モンスターの中で最底辺の存在である。
 たとえキング級だったとしても、やはりキング級の中ではゴブリンキングは底辺の存在だ。

 そのうえ、当時のゴブリンキングは、キング級になったばかりで新しい体にまだ馴染んでいなかった。
 尚且つ、その固体は単独であり、武器・防具を装備していなかった。

 以上の理由から、2人はゴブリンキングを退けたのであって、万全の状態のキング級にもまだ勝つことは難しい。

 「確認終わった?」
 「ああ、行こう。」

 ギルは周囲に【蝶】10体を半径30メートルの円状に配置し、いち早く周囲の状況が把握できるように準備した。

 リーナは、いつ何がきてもすぐに戦闘のスイッチをいつでも押せるようにしていた。

 2人は、まだ自分たちの力を過信したまま山々のなかへ足を踏み入れた。
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