鴉の見る世界

くすり

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最終章

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「はぁっ…はぁっ…!」

鋭い痛みが頭の中を駆け回る。一体何が起きたのか。朦朧としながら必死で考える。

鈴音も麻理子も突然の出来事に言葉を発せずにいた。

——バサッ!!

一通りこの状況を眺めたあと、鴉は勢い良く飛び立っていった。

「そ、そういえば私仕事に戻らなきゃ!じゃ、じゃあね!」

青ざめた顔で逃げるように駆け出す麻理子。涼介は霞む視界の中でそれを感じたが、もう話す気力もなくなっていた。

「…自業自得だよね。これって。
たぶんずっと見てたんだよ、あの鴉。」

「す、鈴音っ…」

「ううん、もういいの。何も聞きたくないし、貴方ももう喋れないでしょ?」

「……」

「私もこんなちっぽけなことで一喜一憂してないで、さっきの鴉みたいに自由に生きたいんだ~。」

「こんな感じにねっ♪」

鈴音は両手を開き、しなやかに上下させながら走り出した。当たり前だが人間が空を飛べるはずはない。

ただ、涼介はそれを見て、自分の中から大きな存在が飛び立っていくのを感じた。それと同時に後悔、罪悪感、苦しみ、色んな感情が込み上げてくる。

必死に身体を起こし、手を伸ばす。もう届かない。何も掴めない。気付けば霞んでいた視界は完全に光を失っていた。

そこに広がる景色は深く暗い黒一色だった。


——夜が明け迎えるいつもの朝。


血に塗れ倒れ込んでいた涼介の姿はなくなっていた。ただ一つ、鴉の羽が落ちていただけだった。

「あれ、俺…どうしたんだっけ…?」

一羽の鴉がゴミ捨て場の前で立ち尽くす。

「鈴音…?」

「きゃっ!またゴミ捨て場を荒らすつもりね!しっしっ!」

鈴音は慣れた手つきで鴉を追い払った。すっかり日常生活を送っているところを見ると、昨日のことなんて大して気にもしていないのだろう。

鈴音の大きな瞳に映る鴉。それを見て愕然とした。自分の変わり果てた姿に。

一羽の鴉、いや、涼介だ。涼介は勢い良く羽を広げ飛び立った。

世界はこんなにも広かったのか。こんな見方もあったのか。今なら昨日のことが受け入れられるような気がする。

もし自分があの時の鴉で、同じような光景を見ていたらきっとああする。


——ざくっ。


一瞬時が止まった気がした。涼介が変わり果てた姿に気付くことができた大きな瞳。聞き覚えのある鈍い音。あの時見た光景。


鴉の見る世界。


それは永遠に繰り返される復讐という名の運命。黒くて黒くて黒い運命だった。





END
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