鴉の見る世界

くすり

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第5章

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雨が降り続ける暗い空。涼介を見つめる鋭い眼光は、ただただ真っ直ぐだった。

「どういうこと?説明してよ」

鈴音は一点を見つめたまま、涼介に問いかける。

「いや、違うんだって!これはその…」
「何が違うの?いいから説明して」

「あ、あのね!私はただ傘を貸してあげてただけなの!」

2人の間に割って入る麻里子。目は泳ぎ、動揺が隠しきれないのが伝わってくる。

「あなたには聞いてないです。だいたい傘を貸しただけって言ってますけど、なんでくっつく必要があるんですか?」
「うっ、それは…その…」

「す、鈴音!ごめん…俺が悪いんだ。この人は会社の上司の麻里子さんって言うんだ。すごく優しくていい人なんだ…」

涼介は鈴音の顔を伺いながら、必死に説明を始める。

「いつも会社でお世話になってて、それで…別に好きとかじゃなくて…浮気でもなんでもないんだよ!」
「こんな光景を見せられて、はいそうですか。わかりました。なんて言えると思う?」

鈴音の怒りは収まらない。淡々と言葉を続ける。

「私は見たんだよ。公園で2人でお弁当たべてるとこ。その女が作ったお弁当でしょ?ずいぶん美味しそうに食べてたね。」
「そっ、それはただ卵焼きが好きだから…!」
「あんたが好きなのは、卵焼きでもなくて私でもなくてその女なんでしょ!?」
「ちがっ…、そういうことじゃなくて…!」

——ざくっ。

鈍い音がした。一瞬だった。

「っああああ!!いってえええっ…!!」

勢いよく膝から崩れ落ちる涼介。右眼を抑える手からは血が滴り落ちていた。あまりに一瞬の出来事で鈴音も麻理子も状況が理解できなかった。

「涼介…?」

「涼介くん…?」

水溜まりに沈む涼介。呆然と立ちすくむ鈴音と麻理子。

側にいたのは一羽の鴉。あの鴉だった。
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