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第4章
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昼間の砂漠のようなカラッとした暑さが嘘のように、空は茜色に染まり、少しだけ透き通った風が吹いていた。
窓から入る風で鈴音は眼を覚ます。先程まで思い悩んでいたことも吹き飛ばされたように、とまではいかないものの目覚めは良かった。
「もうこんな時間。涼介が帰ってくるまでにご飯支度しなくちゃ」
涼介の会社は17:30までだ。定時で上がれれば18:30には家に着く。今日は金曜日。残業もきっとないだろう。
鈴音は冷蔵庫の中を見る。にんじん、じゃがいも、玉ねぎ、そして豚肉が入っていた。カレーを作ろう。そう決めたあとの行動は無駄がなく、手際が良かった。
ぐつぐつと具材を煮込みながら鈴音は涼介のことを考えていた。あの光景、あの感覚。頭からどうしても離れない。涼介が帰ってきたら話を聞こう。
窓際から夕陽を眺める。とても美しく輝いて見えた。ベランダには黒く焦げた跡。赤く照らされて霞んで見えた。少し遠くに目を向けると、いつものゴミ捨て場。鈴音に持たされたゴミ袋を気怠そうに放り込む涼介の姿が浮かんできた。
毎朝繰り返される日常。その光景を思い出していると不思議と涙が溢れてきた。だんだん霞んでいく日常。その中ではっきりと目に写るものがあった。
黒い羽根。鴉の羽根だ。
先程まで夕陽で赤く輝いていた空が暗くなってきた。
「縁起悪いし、なんだか雨降りそうだな…」
鈴音は傘を二本持って外に出た。何か嫌な予感がする。雨とは別の何かだ。家を出て間もなく、ぽつりと空から雫が落ちてきた。静かに少しづつ数を増していき、あっという間に本格的な雨へと変わっていった。
鈴音の思った通り、涼介は無事に定期で仕事を終えていた。しかし、予報にはなかった雨のせいで会社の前で立ちすくんでいた。
それから5分ほど経った頃だろうか。後ろから麻里子が駆け寄ってきた。
「涼介くん!お疲れ様。なんとか仕事終わったよ。あれ、雨降ってるの?」
「あ、早川さんお疲れ様です。いつの間にか降ってたみたいですね。結構降ってるんですけど、傘持ってなくて…」
「それなら私、折り畳み傘持ってるから大丈夫。一緒に帰ろ!」
「え、いいんですか?ありがとうございます!」
麻里子は花柄の可愛らしい傘を開き、涼介へと差し出した。
「僕持つんでいいですよ。早川さん濡れちゃうんでもっとこっちに寄ってください。」
二人は身を寄せ合いながら歩き出した。雨は降り続いている。折り畳み傘ではどうしても肩が濡れてしまう。でも、不思議と冷たさは感じなかった。
昼間、青い空の下で弁当を食べた公園の前に通りかかったときだった。
「ねえ、涼介。その人誰?なにしてるの…?」
「鈴音?どうしてここに…?」
鈴音はさしていた傘を落とし、一瞬で全身が濡れてしまっていた。見たくなかった光景。また見てしまった。なんとなく感じた嫌な予感の正体はこれだったのか。
涼介と鈴音はお互い目を見開き、そこには黒い景色が写っていた。逆さまに落ちた傘にもまた、雨が溜まり黒い空を写していた。
窓から入る風で鈴音は眼を覚ます。先程まで思い悩んでいたことも吹き飛ばされたように、とまではいかないものの目覚めは良かった。
「もうこんな時間。涼介が帰ってくるまでにご飯支度しなくちゃ」
涼介の会社は17:30までだ。定時で上がれれば18:30には家に着く。今日は金曜日。残業もきっとないだろう。
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ぐつぐつと具材を煮込みながら鈴音は涼介のことを考えていた。あの光景、あの感覚。頭からどうしても離れない。涼介が帰ってきたら話を聞こう。
窓際から夕陽を眺める。とても美しく輝いて見えた。ベランダには黒く焦げた跡。赤く照らされて霞んで見えた。少し遠くに目を向けると、いつものゴミ捨て場。鈴音に持たされたゴミ袋を気怠そうに放り込む涼介の姿が浮かんできた。
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黒い羽根。鴉の羽根だ。
先程まで夕陽で赤く輝いていた空が暗くなってきた。
「縁起悪いし、なんだか雨降りそうだな…」
鈴音は傘を二本持って外に出た。何か嫌な予感がする。雨とは別の何かだ。家を出て間もなく、ぽつりと空から雫が落ちてきた。静かに少しづつ数を増していき、あっという間に本格的な雨へと変わっていった。
鈴音の思った通り、涼介は無事に定期で仕事を終えていた。しかし、予報にはなかった雨のせいで会社の前で立ちすくんでいた。
それから5分ほど経った頃だろうか。後ろから麻里子が駆け寄ってきた。
「涼介くん!お疲れ様。なんとか仕事終わったよ。あれ、雨降ってるの?」
「あ、早川さんお疲れ様です。いつの間にか降ってたみたいですね。結構降ってるんですけど、傘持ってなくて…」
「それなら私、折り畳み傘持ってるから大丈夫。一緒に帰ろ!」
「え、いいんですか?ありがとうございます!」
麻里子は花柄の可愛らしい傘を開き、涼介へと差し出した。
「僕持つんでいいですよ。早川さん濡れちゃうんでもっとこっちに寄ってください。」
二人は身を寄せ合いながら歩き出した。雨は降り続いている。折り畳み傘ではどうしても肩が濡れてしまう。でも、不思議と冷たさは感じなかった。
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「ねえ、涼介。その人誰?なにしてるの…?」
「鈴音?どうしてここに…?」
鈴音はさしていた傘を落とし、一瞬で全身が濡れてしまっていた。見たくなかった光景。また見てしまった。なんとなく感じた嫌な予感の正体はこれだったのか。
涼介と鈴音はお互い目を見開き、そこには黒い景色が写っていた。逆さまに落ちた傘にもまた、雨が溜まり黒い空を写していた。
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