鴉の見る世界

くすり

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第1章

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今日も世界に陽は昇る。
景色が黒から白へと変わる瞬間だ。

「今日も行ってくるわ」
「行ってらっしゃい!あ、ついでにこれもお願いね!」

気怠そうに玄関を開ける涼介りょうすけを、ゴミ袋を持った鈴音すずねが元気よく呼び止める。

春から社会人の涼介と、春から大学生の鈴音のいつも通りの日常だ。
色で例えるのであれば、淡い桜色。空は青い。木々は緑で溢れている。風が心地よい。

「…っしょ。重てえな」

ゴミを出すのは涼介の仕事だ。
毎日繰り返される日常。会社に行く前の、いわばルーティンのようなものである。

一仕事を終え、重い腰を上げて空を見上げる。今日も一日頑張るか。青い空を見ると不思議と活力が湧いてくる。

しかし、全てが青ではない。青の中に一つの黒い影。いや、よく見ると二つ、三つとその黒い影は集団のように見える。

——またか。

青い空を支配するのが赤く燃えさかる太陽であるならば、何色にも広がるゴミ捨て場を支配するのは漆黒に染まったカラスだ。

その黒き集団はあっという間に地上に降り立ち、ゴミ捨て場に群がり始める。

涼介は何の感情も抱かず、ただその光景を通り過ぎる。これもまた彼にとっての日常だからだ。

だが鴉達は違う。

空が写り込んだ丸く艶のある瞳で、しっかりと人間達を見つめている。

その瞳に写る青い空と何色にも広がるゴミ。そして、人間の姿。

黒き影が見る世界に、一体何を想っているのだろうか。

世界は黒い。私は——。
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