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第一章
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ヒライスが言おうとしているのは、ルニーを戦闘奴隷として周知させる事で、俺自身の身元をギルド側に保証させる事が出来る、という事なのだろう。
でもそれは、この街において…いや、今後もルニーは『奴隷』という烙印を押されてしまう事になる。
ルニーにだけ、そんな烙印を押させておいて、俺だけ無事なんのリスクもなく身元を保証してもらうなんて、なんだか、そんなの…。
(…嫌、だ)
「───その条件、飲もう」
断ろう、そう決断しようとした矢先、俺の隣からルニーのハッキリとした声が聞こえて俺はばっと隣に顔を向ける。
ルニーは顔の大部分を布で覆いながらも、その視線を提案してきたヒライスに向けていて。
「俺を戦闘奴隷として冒険者ギルドに登録した上で、俺の所有者がヒカルなら、ヒカルの身元はギルド側がきちんと保証してくれるんだな?」
「ああ。それはギルド長として、この俺が責任持って保証する」
「ならば、それで頼む」
「ちょっ…ちょっと待って、待って!! ルニー! 自分が言っている事の意味が分かってるのか!?」
平然とした様子で話を進めようとしているルニーの腕を掴んで引き止める。
「ヒカルこそ、何を躊躇う。俺の所有者としてギルドに登録すれば、ヒカルの身元は保証され、身分証も発行される。身分証さえあれば、この街に入れる。一体何の問題がある?」
「そもそもの前提が問題なの!!!」
声を荒げると同時に俺は立ち上がり、両手でルニーの顔を掴んで、俺の方へと向けさせる。
その際にルニーが頭から被っていた布が落ち、その美しい顔が露わになり、驚いたように丸くなっている緑と青の瞳に俺の平凡な顔が映っていた。
ああ、くそ、本当に顔が良い。
「俺は!!! お前を奴隷だと思った事ないし、今後も思う事は絶対にない!!! 確かにお前を俺の物にしたいとは思っているし、俺以外の誰かに渡すつもりなんか一切ないけど、公然の場でお前の品格や立場を下げてまで自分の身の保証なんかしたくない!!! 惚れた男の立場を下げて踏ん反り返る程、俺は根性腐ってねえぞ!!!!!」
そう、はっきりと言い切った俺は勢いのまま、声を荒げたせいで呼吸が乱れ、フーフーと鼻息荒く、目を丸くしたまま固まっているルニーを真っ直ぐ見つめる。
瞬き一つせず固まっていたかと思えばルニーは眩しい物でも見るかのように目を細めた後、今にも泣き出しそうな程、くしゃり、とその綺麗な顔を歪めた。
それを見て鼻息荒く見据えていた俺も流石に正気に戻り、泣き出しそうなルニーを見て、対面に座って何故か固まっているヒライスと役人の存在を思い出し、慌ててルニーの顔に落ちてしまった布を被せる。
俺ですら見てないのに他の男共にルニーの泣き顔なんか見せてたまるか!!!!
布を被せたと同時に俯いてしまい黙り込むルニーに内心慌てふためきながらもこの場を乗り切る為、ヒライスと向き直る。
「あの! そういう訳だから」
「…あー、分かった分かった。とりあえず落ち着けやヒカル」
この話はなかった事に、と続けようとした言葉はヒライスに遮られてしまい、ひらり、と掲げられた右手に制され、俺は一先ず椅子に座り直す。
「あくまで参考までに、って俺が言ったのを覚えてるか? そこのルニーを戦闘奴隷として、ていうのは確かに一番簡単で確実な方法だっただけだ」
「…それ以外の方法はないんでしょうか」
一番簡単、ていう事は簡単じゃないけど他にも方法はない訳じゃない、て事だよな…?
一抹の希望を胸に恐る恐る聞いてみるとヒライスは掲げていた右手の人差し指を先程と同じように立てた後、その人差し指を自身に向けて、ニッと笑う。
「俺がお前らの身元を保証する」
「…へ?」
「ひ、ヒライス様?」
「まー特例中の特例だからな。本来ならこんな事はしねえんだが…ルニーは複数の盗賊を一度に討伐する実力がある、万年人手不足な冒険者ギルドにとっては願ってもない人材だ。ヒカルの方はこの辺じゃお目にかかれない色男だけど、それだけで贔屓してちゃギルド長は務まらねえ」
「じゃあ、なんで…」
「そりゃあ…人柄に惚れた。この一言に限る」
ヒライスはそう言うと橙色の目を細めながら、俺を見つめる。
「俺もこの面だ。それなりに風当たりは悪かったし、冒険者にしかなれなかった。ルニーもその面じゃあ今までどんな扱いを受けてきたのかなんて嫌でも分かる。だから、な…ヒカル。お前みたいな事言ってる奴、初めて会った。だからこそ、手を貸してやりたくなった。ただ、それだけだ」
そう言って俺を見つめるヒライスの目はさっき見たルニーみたいに眩しい物でも見るような、そんな目をしていた。
でもそれは、この街において…いや、今後もルニーは『奴隷』という烙印を押されてしまう事になる。
ルニーにだけ、そんな烙印を押させておいて、俺だけ無事なんのリスクもなく身元を保証してもらうなんて、なんだか、そんなの…。
(…嫌、だ)
「───その条件、飲もう」
断ろう、そう決断しようとした矢先、俺の隣からルニーのハッキリとした声が聞こえて俺はばっと隣に顔を向ける。
ルニーは顔の大部分を布で覆いながらも、その視線を提案してきたヒライスに向けていて。
「俺を戦闘奴隷として冒険者ギルドに登録した上で、俺の所有者がヒカルなら、ヒカルの身元はギルド側がきちんと保証してくれるんだな?」
「ああ。それはギルド長として、この俺が責任持って保証する」
「ならば、それで頼む」
「ちょっ…ちょっと待って、待って!! ルニー! 自分が言っている事の意味が分かってるのか!?」
平然とした様子で話を進めようとしているルニーの腕を掴んで引き止める。
「ヒカルこそ、何を躊躇う。俺の所有者としてギルドに登録すれば、ヒカルの身元は保証され、身分証も発行される。身分証さえあれば、この街に入れる。一体何の問題がある?」
「そもそもの前提が問題なの!!!」
声を荒げると同時に俺は立ち上がり、両手でルニーの顔を掴んで、俺の方へと向けさせる。
その際にルニーが頭から被っていた布が落ち、その美しい顔が露わになり、驚いたように丸くなっている緑と青の瞳に俺の平凡な顔が映っていた。
ああ、くそ、本当に顔が良い。
「俺は!!! お前を奴隷だと思った事ないし、今後も思う事は絶対にない!!! 確かにお前を俺の物にしたいとは思っているし、俺以外の誰かに渡すつもりなんか一切ないけど、公然の場でお前の品格や立場を下げてまで自分の身の保証なんかしたくない!!! 惚れた男の立場を下げて踏ん反り返る程、俺は根性腐ってねえぞ!!!!!」
そう、はっきりと言い切った俺は勢いのまま、声を荒げたせいで呼吸が乱れ、フーフーと鼻息荒く、目を丸くしたまま固まっているルニーを真っ直ぐ見つめる。
瞬き一つせず固まっていたかと思えばルニーは眩しい物でも見るかのように目を細めた後、今にも泣き出しそうな程、くしゃり、とその綺麗な顔を歪めた。
それを見て鼻息荒く見据えていた俺も流石に正気に戻り、泣き出しそうなルニーを見て、対面に座って何故か固まっているヒライスと役人の存在を思い出し、慌ててルニーの顔に落ちてしまった布を被せる。
俺ですら見てないのに他の男共にルニーの泣き顔なんか見せてたまるか!!!!
布を被せたと同時に俯いてしまい黙り込むルニーに内心慌てふためきながらもこの場を乗り切る為、ヒライスと向き直る。
「あの! そういう訳だから」
「…あー、分かった分かった。とりあえず落ち着けやヒカル」
この話はなかった事に、と続けようとした言葉はヒライスに遮られてしまい、ひらり、と掲げられた右手に制され、俺は一先ず椅子に座り直す。
「あくまで参考までに、って俺が言ったのを覚えてるか? そこのルニーを戦闘奴隷として、ていうのは確かに一番簡単で確実な方法だっただけだ」
「…それ以外の方法はないんでしょうか」
一番簡単、ていう事は簡単じゃないけど他にも方法はない訳じゃない、て事だよな…?
一抹の希望を胸に恐る恐る聞いてみるとヒライスは掲げていた右手の人差し指を先程と同じように立てた後、その人差し指を自身に向けて、ニッと笑う。
「俺がお前らの身元を保証する」
「…へ?」
「ひ、ヒライス様?」
「まー特例中の特例だからな。本来ならこんな事はしねえんだが…ルニーは複数の盗賊を一度に討伐する実力がある、万年人手不足な冒険者ギルドにとっては願ってもない人材だ。ヒカルの方はこの辺じゃお目にかかれない色男だけど、それだけで贔屓してちゃギルド長は務まらねえ」
「じゃあ、なんで…」
「そりゃあ…人柄に惚れた。この一言に限る」
ヒライスはそう言うと橙色の目を細めながら、俺を見つめる。
「俺もこの面だ。それなりに風当たりは悪かったし、冒険者にしかなれなかった。ルニーもその面じゃあ今までどんな扱いを受けてきたのかなんて嫌でも分かる。だから、な…ヒカル。お前みたいな事言ってる奴、初めて会った。だからこそ、手を貸してやりたくなった。ただ、それだけだ」
そう言って俺を見つめるヒライスの目はさっき見たルニーみたいに眩しい物でも見るような、そんな目をしていた。
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